「さてと、明日に備えて寝るか。」 置き時計を見ると、十時半だった。 龍次は、布団を敷き、寝床にもぐった。 龍次のドームハウスには、龍次が一人だった。 龍次は、五十嵐親子のことが気になっていた。自殺願望者は、保護された直後に自殺することが、よくあるととを思い出していた。 「あの親子、大丈夫かなあ…」 龍次は、眠れなくなった。 「そうだ!」 龍次は起き上がった。ポンポコリンに電話した。彼女は、すぐに電話に出た。 「あっ、ポンポコリン、夜遅く悪いね。」 『いえ、まだ起きてました。大丈夫です。』 「実はねえ、五十嵐さんのことなんだけど、彼女もう寝てる?」 『はい、もう寝てます。』 「自殺者は、保護直後に、よく自殺するってこと思い出してね。」 『わたしもなんです。そのことが気になってたんです。』 「大丈夫かなあと思って。」 『なぜか、衝動的に自殺することがあります。虚無感衝動自殺と言われてます。」 「それそれ、それでね、紋次郎くんに頼もうと思って。」 『紋ちゃんにですか?何を?』 「見張ってもらおうと思ってね。」 『それはいい考えですけど…』 「じゃあ、今から頼みに行くよ。」 『ああそうですか、じゃあよろしくおねがいします。』 龍次は、電話を切ると、紋次郎のドームハウスに向かった。
ヨコタンが、パソコンでスラーダーカートの設計図を見ていると、ドアチャイムが鳴った。ドドレレミミレ♪、龍次のチャイムだった。 「あら、龍次さんだわ。は〜〜い!」 ヨコタンが出ると、龍次は無表情に突っ立っていた。 「どうしたんですか?」 「紋次郎くん、いる?」 「いますけど。」 「ちょっと、いい?」 「いいですよ、どうぞ。」 龍次は、紋次郎の部屋に入って行った。紋次郎は、脚を伸ばして座り、充電していた。 「なんだ、充電中か。」 「起こしましょうか?」 「そうだねえ…」 ヨコタンは、スリープ状態の紋次郎の頭を、ポンと手の平で叩いた。 紋次郎は、目を開けた。 「何か、ご用ですか?」 「悪いねえ、紋次郎くん、起こしちゃって。」 「いいえ。」 「実は、頼みがあるんだけど。」 「遠慮なく、言って下さい。」 「ポンポコリンの部屋に行って、夜中起きて見張っててくれない。」 「見張る?誰をですか?」 「五十嵐さん。今晩だけでいいんだよ、自殺しないように。」 「自殺するおそれがあるんすか?」 「これから朝が、一番危ないんだよ。」 「分かりました。明日の朝まで起きて見張っていればいいんですね。」 「ポンポコリンの部屋にいて、物音に注意してればいいよ。何かあったら、ポンポコリンを起こしてくれ。」 「分かりました。」 「悪いねえ、紋次郎君!」 「人間の役に立てれば嬉しいです。」 「じゃあ、行こう。」 「はい。」紋次郎は、充電器を持って立ち上がった。 「まだ、充電中だったんだ?」 「あと一時間で完了です。ポンポコリンの部屋でやります。」 「ごめんごめん、感謝するよ。」 「でも、わたしが行ったら、変に思うんじゃないですか?」 「君は、神経が細やかだねえ。」 「神経じゃなくって、電子回路です。」 「五十嵐親子は、もう寝てるから、ポンポコリンの部屋に、そっと行って気づかれないように入ってよ。」 「分かりました。」 龍次は、再度ポンポコリンに電話した。説明すると、すぐに切った。 「今晩だけでいいんだよ。」 「分かりました。じゃあ、行きましょう。」 龍次と紋次郎は出て行った。
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