20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第63回   龍次と紋次郎のデリカシー
「さてと、明日に備えて寝るか。」
置き時計を見ると、十時半だった。
龍次は、布団を敷き、寝床にもぐった。
龍次のドームハウスには、龍次が一人だった。
龍次は、五十嵐親子のことが気になっていた。自殺願望者は、保護された直後に自殺することが、よくあるととを思い出していた。
「あの親子、大丈夫かなあ…」
龍次は、眠れなくなった。
「そうだ!」
龍次は起き上がった。ポンポコリンに電話した。彼女は、すぐに電話に出た。
「あっ、ポンポコリン、夜遅く悪いね。」
『いえ、まだ起きてました。大丈夫です。』
「実はねえ、五十嵐さんのことなんだけど、彼女もう寝てる?」
『はい、もう寝てます。』
「自殺者は、保護直後に、よく自殺するってこと思い出してね。」
『わたしもなんです。そのことが気になってたんです。』
「大丈夫かなあと思って。」
『なぜか、衝動的に自殺することがあります。虚無感衝動自殺と言われてます。」
「それそれ、それでね、紋次郎くんに頼もうと思って。」
『紋ちゃんにですか?何を?』
「見張ってもらおうと思ってね。」
『それはいい考えですけど…』
「じゃあ、今から頼みに行くよ。」
『ああそうですか、じゃあよろしくおねがいします。』
龍次は、電話を切ると、紋次郎のドームハウスに向かった。

ヨコタンが、パソコンでスラーダーカートの設計図を見ていると、ドアチャイムが鳴った。ドドレレミミレ♪、龍次のチャイムだった。
「あら、龍次さんだわ。は〜〜い!」
ヨコタンが出ると、龍次は無表情に突っ立っていた。
「どうしたんですか?」
「紋次郎くん、いる?」
「いますけど。」
「ちょっと、いい?」
「いいですよ、どうぞ。」
龍次は、紋次郎の部屋に入って行った。紋次郎は、脚を伸ばして座り、充電していた。
「なんだ、充電中か。」
「起こしましょうか?」
「そうだねえ…」
ヨコタンは、スリープ状態の紋次郎の頭を、ポンと手の平で叩いた。
紋次郎は、目を開けた。
「何か、ご用ですか?」
「悪いねえ、紋次郎くん、起こしちゃって。」
「いいえ。」
「実は、頼みがあるんだけど。」
「遠慮なく、言って下さい。」
「ポンポコリンの部屋に行って、夜中起きて見張っててくれない。」
「見張る?誰をですか?」
「五十嵐さん。今晩だけでいいんだよ、自殺しないように。」
「自殺するおそれがあるんすか?」
「これから朝が、一番危ないんだよ。」
「分かりました。明日の朝まで起きて見張っていればいいんですね。」
「ポンポコリンの部屋にいて、物音に注意してればいいよ。何かあったら、ポンポコリンを起こしてくれ。」
「分かりました。」
「悪いねえ、紋次郎君!」
「人間の役に立てれば嬉しいです。」
「じゃあ、行こう。」
「はい。」紋次郎は、充電器を持って立ち上がった。
「まだ、充電中だったんだ?」
「あと一時間で完了です。ポンポコリンの部屋でやります。」
「ごめんごめん、感謝するよ。」
「でも、わたしが行ったら、変に思うんじゃないですか?」
「君は、神経が細やかだねえ。」
「神経じゃなくって、電子回路です。」
「五十嵐親子は、もう寝てるから、ポンポコリンの部屋に、そっと行って気づかれないように入ってよ。」
「分かりました。」
龍次は、再度ポンポコリンに電話した。説明すると、すぐに切った。
「今晩だけでいいんだよ。」
「分かりました。じゃあ、行きましょう。」
龍次と紋次郎は出て行った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 31446