食堂のみっちゃんが、賄いの男二人と食堂から出てくると、イチョウの木の下の、待ちぼうけのテーブルに、誰かが座ってテーブルに伏せていた。みっちゃんが近づいて声をかけた。 「もしもし、どうしたんですか?」 中年風の女だった。 「もしもし…」 酒臭かった。 「酔っ払いだわ。」 女が叫んだ。 「ばかやろう!」 「もしもし、こんなところで寝てると、風邪をひきますよ。」 「…ばかやろう!」 「駄目だわ。」 風が強くなっていた。 「集会所に連れて行きましょう。」 二人の男が、両脇から女の両腕を肩に乗せ持ち上げた。 「あ〜〜、何すんだよ〜!」 女は立ち上がった。足元がふらついていた。 みっちゃんが尋ねた。 「歩けますか?」 「歩けるよ〜!」 女はふらついていた。 集会所は、まだ明かりがついていて、中に入ると、ウメさんが出てきた。 「どうしたんですか?」 「酔っ払い。倒れてたの。」 「そうですか。」 「ゲストルームに寝かせてあげるわ。」 「分かりました。」 ウメさんは、事務室のドアを開けて待った。 賄いの男二人が、女を支えて事務室に入って行った。みっちゃんも入った。 「ソファーに寝かせて。」 二人の男は、ソファーに寝かせた。ウメさんが、枕と毛布を持って来た。 みっちゃんは、枕を女の頭の下に入れ、毛布をかけてやった。 「後は、わたしがやるからいいわ。あなたたちは帰っていいわ。」 賄いの二人は帰っていった。 「ウメさん、まだ何かやってたの?」 「ええちょっと、ホームページの手直しを。」 「大変ね。」 女はイビキをかきだした。 「あらあら、寝ちゃったのかしら?」 みっちゃんは、女の枕元に行った。 「もしもし…」 返事は無かった。 「困ったなあ、名前を聞きたいんだけど。」 「…ばかやろう。」 「もしもし…、名前を教えてください。」 「なまえ…」 「名前です、名前!」 「長谷川…」 「長谷川、何さんですか?」 「長谷川、良子。」 「良い子の、りょうですか?」 「そうだ・よ!」 「自宅はどこですか?」 「なんだって?」 「自宅です、自宅。自宅はどこですか?」 「なんだって?」 「住所ですよ。」 「…わたし、もう寝る。」 「駄目だ、こりゃあ。ウメさん、高野山のホームページから検索してくれる、長谷川良子。」 「はい。」 みっちゃんは、携帯電話を取り出すと、龍次に電話をかけた。龍次は出なかった。 「おかしいなあ、お風呂にでも入ってるのかしら。」 ウメさんが、パソコンを見ながら言った。 「分かりました。高野町営住宅に、同じ名前の人がいます。」 「電話番号は?」 ウメさんは、電話番号を教えた。みっちゃんは、そこに電話をした。相手は、すぐに出た。長谷川良子の夫だった。 「ああ、やっぱり。」 『……』 「ああそうですか。じゃあ待ってます。」 「何ですって?」 「今、旦那さんが、迎えに来るって。」 「それは良かったですねえ。」 龍次から電話がかかってきた。みっちゃんは説明した。女が小さな声で言った。 「ばかやろう!」
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