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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第60回   ちんぷんかんぷん
『ばかやろう!』その声は、外からだった。きょん姉さんは、びっくりした。
「また、聞こえた!」
アニーも聞いていた。
「わたしも聞こえました。」
福之助も聞いていた。
「ばかやろう、って言ってましたね。」
姉さんは、窓のカーテンを、そっと開けて、そっと覗いた。
女が、ログハウス前の道路を、千鳥足で歩いていた。
「酔っ払いだわ。」
福之助も覗きに来たので、姉さんは代わってやった。
「ほんとだ。女の酔っ払いだ。」
姉さんは、テーブル席に座った。
「なあんだ、酔っ払いだったのか。」
福之助も戻って来て、姉さんの隣に座った。
「なんで、隣に座るんだよ?」
「いけませんか?」
「…いいよ。」
「人間の女の酔っ払いは、最悪ですねえ。」
「なんでだよ。」
「みんなに迷惑かけて。」
「迷惑かけるのは、男も同じだよ。」
「どうして、酒なんか飲むんでしょうかねえ?」
「人間だからだよ。」
「人間って、馬鹿ですねえ。」
「気を紛らわすために飲んでるんだよ。」
「気を紛らわす?」
「ロボットには分からないよ。」
「分からなくって結構です、そんなのは。」
「生きてるってのは、そういうことなんだよ。」
「生きてるって、面倒ですねえ。」
「とっても面倒なの。」
「あ〜あ、人間でなくって良かった。」
「あっ、そう。」
「人間って、弱いんですねえ〜。」
「人間はね、弱いときもあれば、強いときもあるの。優しいときもあれば、残酷なときもあるの。」
「だから、平気で、牛や豚を殺すんですね。」
「殺さないと生きて行けないだろう。」
「だったら、ライオンと同じだ。」
「そうだよ。御伽噺の世界じゃないんだから。」
「まったく、変な理屈だなあ〜。人間は自分勝手だなあ〜。」
アニーが、上半身を起こして話し出した。
「人は、心の持ち方で、弱くもなり強くもなります。」
福之助は、アニーを見た。
「あ〜〜、また心?」
「知恵のある人は、不動明王の剣を、心の内にもっています。」
「不動明王の剣?」
「自分を厳しく律する剣です。」
「どこにあるんですか?」
「心の中にあるんですよ。」
「心のどこにあるんですか?」
「そんなの分からないわ。」
「それは、どこに売ってるんですか?」
姉さんが怒った。
「心の中って、言ってるだろう!アホ!」
「アホとは何ですか、失礼な!」
「少しは、小耳に挟んどけ!」
「小耳に挟む?何のことですか?小耳って何ですか?」
「小耳は小耳だよ、アホ!」
「あ〜〜〜、また言った、アホって!」
心理学専攻のアニーが諭した。
「怒るのは、相手を信頼してるからなんですよ。」
「怒るのは、信頼?」
心のない、ロボットの福之助には、ちんぷんかんぷんだった。


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