『ばかやろう!』その声は、外からだった。きょん姉さんは、びっくりした。 「また、聞こえた!」 アニーも聞いていた。 「わたしも聞こえました。」 福之助も聞いていた。 「ばかやろう、って言ってましたね。」 姉さんは、窓のカーテンを、そっと開けて、そっと覗いた。 女が、ログハウス前の道路を、千鳥足で歩いていた。 「酔っ払いだわ。」 福之助も覗きに来たので、姉さんは代わってやった。 「ほんとだ。女の酔っ払いだ。」 姉さんは、テーブル席に座った。 「なあんだ、酔っ払いだったのか。」 福之助も戻って来て、姉さんの隣に座った。 「なんで、隣に座るんだよ?」 「いけませんか?」 「…いいよ。」 「人間の女の酔っ払いは、最悪ですねえ。」 「なんでだよ。」 「みんなに迷惑かけて。」 「迷惑かけるのは、男も同じだよ。」 「どうして、酒なんか飲むんでしょうかねえ?」 「人間だからだよ。」 「人間って、馬鹿ですねえ。」 「気を紛らわすために飲んでるんだよ。」 「気を紛らわす?」 「ロボットには分からないよ。」 「分からなくって結構です、そんなのは。」 「生きてるってのは、そういうことなんだよ。」 「生きてるって、面倒ですねえ。」 「とっても面倒なの。」 「あ〜あ、人間でなくって良かった。」 「あっ、そう。」 「人間って、弱いんですねえ〜。」 「人間はね、弱いときもあれば、強いときもあるの。優しいときもあれば、残酷なときもあるの。」 「だから、平気で、牛や豚を殺すんですね。」 「殺さないと生きて行けないだろう。」 「だったら、ライオンと同じだ。」 「そうだよ。御伽噺の世界じゃないんだから。」 「まったく、変な理屈だなあ〜。人間は自分勝手だなあ〜。」 アニーが、上半身を起こして話し出した。 「人は、心の持ち方で、弱くもなり強くもなります。」 福之助は、アニーを見た。 「あ〜〜、また心?」 「知恵のある人は、不動明王の剣を、心の内にもっています。」 「不動明王の剣?」 「自分を厳しく律する剣です。」 「どこにあるんですか?」 「心の中にあるんですよ。」 「心のどこにあるんですか?」 「そんなの分からないわ。」 「それは、どこに売ってるんですか?」 姉さんが怒った。 「心の中って、言ってるだろう!アホ!」 「アホとは何ですか、失礼な!」 「少しは、小耳に挟んどけ!」 「小耳に挟む?何のことですか?小耳って何ですか?」 「小耳は小耳だよ、アホ!」 「あ〜〜〜、また言った、アホって!」 心理学専攻のアニーが諭した。 「怒るのは、相手を信頼してるからなんですよ。」 「怒るのは、信頼?」 心のない、ロボットの福之助には、ちんぷんかんぷんだった。
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