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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第6回   カブトムシ
「よいしょ、よいしょ!」
初秋の爽やかなる陽気の下でよ、自分の背よりも大きなホウキを持った真由美が、らんらん気分で玄関前の掃除をしていると、電動自転車の高野町のおばちゃんが、るんるんでやってきちゃって、真由美ちゃんの前で止まっちゃって。
「真由美ちゃん、こんにちわ〜!」
真由美は、顔を向けて返事をした。
「こんにちわ!」
おばちゃんは、自転車を降りると、前籠から紙袋を取り出した。真由美ちゃんに尋ねた。
「伊集院まさとさんはいますか?」
「はい、います。お待ちしておりました。」
「誕生日のケーキを持って来ました。」
「ああ、それはそれは、どうも。わたしがいただきます。」
「じゃあ、おめでとうございます、とくれぐれも伝えておいてね。」
「はい、くれぐれも伝えておきます。」
おばちゃんは、電動自転車で去っていった。
「お兄ちゃ〜ん、高野町から誕生日のケーキが届いたわ〜!」
そう言いながら、真由美は家の中に入って行った。
真由美は、ケーキを兄に渡すと、また玄関前に戻ってきて、また掃除を、らんらん気分で始めた。掃除をやっていると、また誰かが声をかけた。
「真由美ちゃん、こんにちわ!」
修験者だった。
「こんにちわ!」
修験者の横には、母と五歳くらいの男の子が立っていた。
「お掃除、偉いねえ!」
「たいしたことじゃ〜、ありません。」
「偉い!」
「どこに行くんですか?」
「人間村。」
「食堂ですか?」
「保土ヶ谷さんに逢いに行くんだよ。」
「それだったら、日曜日だから、どこかにいるんじゃないかしら?」
「ありがとう!」
真由美も丁寧に頭を下げた。
「いいえ、どういたしまして。」
母も頭を下げた。
「どうもありがとう。」
真似をして子供も大きな声で頭を下げた。
「どうもありがとう!」
真由美は、大きな声に、びっくりして微笑んだ。
修験者と親子は、人間村に向かって歩き出した。子供が、手を振っていた。
「ばいば〜〜〜い!」
真由美ちゃんも手を振っていた。
「ばいば〜〜い!」
修験者は、人間村の食堂の前で止まった。食堂には、人間村おいしん房食堂と書いてあった。
「ここの人に聞いて見るか。」
修験者は、食堂に入っていった。すぐに出てきた。
「保土ヶ谷さんは、集会所にいるみたいだよ。行って見ましょう。」
「はい。」
子供が、自動販売機を指差した。
「母ちゃん、ジュース飲みたい。」
「麦茶をあげるから、我慢しなさい!」
「子供は、大人以上に代謝が多いからのう。わしが買ってやろう。」
修験者は、自販機にコインを入れた。
「どれがいいかな?」
正男は、嬉しそうに答えた。
「これ!」
普通のオレンジジュースだった。
修験者が栓を開けて手渡すと、正男はおいしそうに飲み始めた。
母親が頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございます!」
「いいんですよ。ベンチがあるから休憩して行きましょう。」
三人は、ベンチに座った。
正男が、おいしそうに飲みながら、近くのイチョウの木を指差した。
「あっ、カブトムシだ!」
カブトムシが枝を這っていた。修験者も見た。
「カブトムシだなあ。」
母も珍しそうに見た。
「やっぱり、山ですねえ。」
正男が聞いた。
「忍者のおじさん、カブトムシは忍術で取れる?」
「うん、忍術で取れるよ。」
「どうやって取るの?」
「お酒を使うんだよ。」
「おさけって、よっぱらう飲み物でしょう?」
「そう。」
「どうやるの?」
「お酒の入った蜂蜜で取るんだよ。カブトムシは甘いものが好きだからね、それを木の根っこにつけておくんだよ。そしたら、夜吸いに来て、朝は酔っ払って寝っ転がっているんだよ。」
「わ〜〜、おもしろいなあ〜!」


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