「よいしょ、よいしょ!」 初秋の爽やかなる陽気の下でよ、自分の背よりも大きなホウキを持った真由美が、らんらん気分で玄関前の掃除をしていると、電動自転車の高野町のおばちゃんが、るんるんでやってきちゃって、真由美ちゃんの前で止まっちゃって。 「真由美ちゃん、こんにちわ〜!」 真由美は、顔を向けて返事をした。 「こんにちわ!」 おばちゃんは、自転車を降りると、前籠から紙袋を取り出した。真由美ちゃんに尋ねた。 「伊集院まさとさんはいますか?」 「はい、います。お待ちしておりました。」 「誕生日のケーキを持って来ました。」 「ああ、それはそれは、どうも。わたしがいただきます。」 「じゃあ、おめでとうございます、とくれぐれも伝えておいてね。」 「はい、くれぐれも伝えておきます。」 おばちゃんは、電動自転車で去っていった。 「お兄ちゃ〜ん、高野町から誕生日のケーキが届いたわ〜!」 そう言いながら、真由美は家の中に入って行った。 真由美は、ケーキを兄に渡すと、また玄関前に戻ってきて、また掃除を、らんらん気分で始めた。掃除をやっていると、また誰かが声をかけた。 「真由美ちゃん、こんにちわ!」 修験者だった。 「こんにちわ!」 修験者の横には、母と五歳くらいの男の子が立っていた。 「お掃除、偉いねえ!」 「たいしたことじゃ〜、ありません。」 「偉い!」 「どこに行くんですか?」 「人間村。」 「食堂ですか?」 「保土ヶ谷さんに逢いに行くんだよ。」 「それだったら、日曜日だから、どこかにいるんじゃないかしら?」 「ありがとう!」 真由美も丁寧に頭を下げた。 「いいえ、どういたしまして。」 母も頭を下げた。 「どうもありがとう。」 真似をして子供も大きな声で頭を下げた。 「どうもありがとう!」 真由美は、大きな声に、びっくりして微笑んだ。 修験者と親子は、人間村に向かって歩き出した。子供が、手を振っていた。 「ばいば〜〜〜い!」 真由美ちゃんも手を振っていた。 「ばいば〜〜い!」 修験者は、人間村の食堂の前で止まった。食堂には、人間村おいしん房食堂と書いてあった。 「ここの人に聞いて見るか。」 修験者は、食堂に入っていった。すぐに出てきた。 「保土ヶ谷さんは、集会所にいるみたいだよ。行って見ましょう。」 「はい。」 子供が、自動販売機を指差した。 「母ちゃん、ジュース飲みたい。」 「麦茶をあげるから、我慢しなさい!」 「子供は、大人以上に代謝が多いからのう。わしが買ってやろう。」 修験者は、自販機にコインを入れた。 「どれがいいかな?」 正男は、嬉しそうに答えた。 「これ!」 普通のオレンジジュースだった。 修験者が栓を開けて手渡すと、正男はおいしそうに飲み始めた。 母親が頭を下げて礼を言った。 「ありがとうございます!」 「いいんですよ。ベンチがあるから休憩して行きましょう。」 三人は、ベンチに座った。 正男が、おいしそうに飲みながら、近くのイチョウの木を指差した。 「あっ、カブトムシだ!」 カブトムシが枝を這っていた。修験者も見た。 「カブトムシだなあ。」 母も珍しそうに見た。 「やっぱり、山ですねえ。」 正男が聞いた。 「忍者のおじさん、カブトムシは忍術で取れる?」 「うん、忍術で取れるよ。」 「どうやって取るの?」 「お酒を使うんだよ。」 「おさけって、よっぱらう飲み物でしょう?」 「そう。」 「どうやるの?」 「お酒の入った蜂蜜で取るんだよ。カブトムシは甘いものが好きだからね、それを木の根っこにつけておくんだよ。そしたら、夜吸いに来て、朝は酔っ払って寝っ転がっているんだよ。」 「わ〜〜、おもしろいなあ〜!」
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