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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第58回   弘法大師の結界
「まったく、姉さんは非科学的だなあ〜。」
「うるさいな〜!」
「科学的に考えて、科学的に行動しないと、これからは生きては行けませんよ。」
「うるさいな〜。」
「科学的な心で行動しないと、損をしますよ。どったんばったんと生きていたら駄目ですよ。」
「まったく、うるさいなあ〜、科学的科学的って、おまえは科学の何なんだよ?」
「科学の子供です。」
「科学の子供?」
福之助は歌いだした。
「こころ優し〜、ららら科学の子〜〜♪」
「そりゃあ、アトムの歌だよ。」
『はっくしょん!』女性のくしゃみだった。
「あれ?今、おまえ、くしゃみした?」
「いいえ。わたしはロボットですから、そんな余計な無駄なものはしません。」
「そうだよな…」
姉さんは、ベッドに寝ているアニーに尋ねた。
「アニーさん、くしゃみしました。」
「いいえ。」
「おかしいなあ?」
福之助は、周りを見回した。
「もしかしたら、幽霊じゃないんですか?」
「おまえ、科学的なんだろう?変なこと言わないでよ。」
「幽霊は、ひょっとすると、いるかも知れません。」
「また〜〜〜!?」
「外に誰かいるんじゃないんですか?」
「誰かって?」
「幽霊とか。」
「また〜〜〜!?」
「ひょっとしたら。」
「じゃあ、おまえ、見てきてくんない。悪いけど。」
「はい、分かりました。」
福之助は出て行った。そして、すぐに戻って来た。
「誰もいませんでした。」
「変だねえ、じゃあさっきのは何なんだろうねえ?」
「やっぱり、幽霊なんじゃないんですか?」
「また〜〜〜!?」
アニーが発言した。
「通行人じゃないんですか?」
「あっ、そうですね。」
「そうですよ。」
姉さんは、少し安心した。
「でも、やけに近くで聞こえたなあ。」
「天井にいたんじゃないんですか?」
「何が?」
「幽霊が。」
「おまえ、さっきから、変なことばっかり言ってるよ。大丈夫か?」
「大丈夫です。正常です。」
「生きてる?」
「生きていません。ロボットですから。動いてるだけです。」
「あっ、そっか。」
アニーは、上半身を起こして、周りを見ていた。
「霊には、悪い霊と良い霊がいますから、もし幽霊だとしても、良い霊ですよ。」
「じゃあ、やっぱり今のは霊なんですか?」
「だとしても大丈夫です。天軸山(てんじくさん)一帯は、不動明王の剣で護られていますから。」
「不動明王の剣?」
「弘法大師が埋めたという宝剣です。天軸山のどこかに埋まっているそうです。」
「どこかに?」
「まだ発見されていないのです。それに、高野三山は、弘法大師の結界張られていますから、悪霊(あくりょう)は入れません。」
「弘法大師の結界…」
「こういうときは、祈って寝ましょう。」
アニーは、弘法大師の眠る天軸山の向こうの御廟(ごびょう)に向かって、静かに手を合わせた。
「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)、わたしたちを、お守りください!」


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