「龍次さんの後ろで、お父さんが、もう遅いから帰りなさい、って言ってるわ。」 「えっ〜!?」 龍次は振り向いた。みんなも、龍次の後ろを見た。誰もいなかった。 「もう消えたわ。」 まさとが説明した。 「真由美には、ときどき父の亡霊が見えるらしいんです。」 まさと以外のみんなは、ぞっとした。 龍次は、真由美に尋ねた。 「ほんとに見えたの?」 「見えたわ。笑って消えて行ったわ。」 龍次は、振り返り再度後ろを見た。誰もいなかった。 「誰かが、幼い子供には亡霊が見えるって言ってたけど、ほんとなんだなあ。生きてれば、僕と同じ年だったんだよね、真由美ちゃん?」 「そうです。だから、龍次さんは、二番目のお父さんです。」 「えっ、そうなの?」 「そうなんです。」 「そう、それは光栄だなあ。」 まさとが、真由美の手を取った。 「真由美、帰ろう!」 「うん!」 まさとは、龍次に頭を下げ、礼を言った。 「どうもありがとうございました。」 「あ〜、マイクのことね。もし使えないようだったら、遠慮なく連絡して。」 「はい。」 「じゃあ、石田流のお父さん、さようなら!」 「ははは、さようなら!」 事務室から、慌ててウメさんが出てきた。 「保土ヶ谷さん、ウェブカメラもありました!」 「あっ、そう。」 「勿論、使ってないんでしょう?」 「使ってません。」 龍次は、ウェブカメラを、まさとに手渡した。 「これも使ってないから、持って行っていいよ。」 「えっ、いいんですか?」 「いいよ。」 「どうもありがとうございます!」 「分からないことがあったら、ウメさんに聞きに来て。」 「はい。」 ウメさんが、後を追うように言った。 「僕に聞きに来て。」 「はい。ありがとうございます!」 二人は、集会所を出た。風が強くなっていた。 「お兄ちゃん、風が踊ってるわ。」 「早く帰ろう!」 まさとは、小走りになった。 「お兄ちゃん、早いよ〜!」 「よし!」 まさとは、しゃがみこんだ。 「おぶってやるから、乗れ!」 「うん!」 まさとは、おぶると小走りに駆け出した。 「わ〜〜、楽ちん楽ちん!」 まさとは、百メートルほど走ると、歩き出した。 「なんだ、これだけ?」 「おまえ、重くなったなあ〜。」 「そお?」 「重くなったよ〜。」 「じゃあ、ゆっくり行きましょう。」 「ゆっくり行こう。」 「お月さんが、ついて来てるわ。」 「ああ、そうだなあ。」 「マイクもらえて良かったねえ。」 「これで、中国の人と話せるぞ。」 「ほんとに話せるの?」 「ああ、話せるよ。」 「お金はいらないの?」 「ああ、いらないよ。カメラがあるから、真由美の顔も送れるぞ。」 「送れるって?」 「中国の人が、真由美の顔を見れるんだよ。」 「え〜〜〜、ほんと!?」 「ほんとだよ。」 「それも、お金がいらないの?」 「それも、お金がいらない。」 「わ〜〜、パソコンって素敵だわ〜。」 「今日は、もう遅いから。明日やろう!」 「うん!」 真由美は、あくびをした。 「なんだか眠くなっちゃった。」 「おまえ、眠るなよ。」 「うん。」 まさとが、家に辿り着いたとき、真由美は眠り込んでいた。
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