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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第56回   二番目のお父さん
「龍次さんの後ろで、お父さんが、もう遅いから帰りなさい、って言ってるわ。」
「えっ〜!?」
龍次は振り向いた。みんなも、龍次の後ろを見た。誰もいなかった。
「もう消えたわ。」
まさとが説明した。
「真由美には、ときどき父の亡霊が見えるらしいんです。」
まさと以外のみんなは、ぞっとした。
龍次は、真由美に尋ねた。
「ほんとに見えたの?」
「見えたわ。笑って消えて行ったわ。」
龍次は、振り返り再度後ろを見た。誰もいなかった。
「誰かが、幼い子供には亡霊が見えるって言ってたけど、ほんとなんだなあ。生きてれば、僕と同じ年だったんだよね、真由美ちゃん?」
「そうです。だから、龍次さんは、二番目のお父さんです。」
「えっ、そうなの?」
「そうなんです。」
「そう、それは光栄だなあ。」
まさとが、真由美の手を取った。
「真由美、帰ろう!」
「うん!」
まさとは、龍次に頭を下げ、礼を言った。
「どうもありがとうございました。」
「あ〜、マイクのことね。もし使えないようだったら、遠慮なく連絡して。」
「はい。」
「じゃあ、石田流のお父さん、さようなら!」
「ははは、さようなら!」
事務室から、慌ててウメさんが出てきた。
「保土ヶ谷さん、ウェブカメラもありました!」
「あっ、そう。」
「勿論、使ってないんでしょう?」
「使ってません。」
龍次は、ウェブカメラを、まさとに手渡した。
「これも使ってないから、持って行っていいよ。」
「えっ、いいんですか?」
「いいよ。」
「どうもありがとうございます!」
「分からないことがあったら、ウメさんに聞きに来て。」
「はい。」
ウメさんが、後を追うように言った。
「僕に聞きに来て。」
「はい。ありがとうございます!」
二人は、集会所を出た。風が強くなっていた。
「お兄ちゃん、風が踊ってるわ。」
「早く帰ろう!」
まさとは、小走りになった。
「お兄ちゃん、早いよ〜!」
「よし!」
まさとは、しゃがみこんだ。
「おぶってやるから、乗れ!」
「うん!」
まさとは、おぶると小走りに駆け出した。
「わ〜〜、楽ちん楽ちん!」
まさとは、百メートルほど走ると、歩き出した。
「なんだ、これだけ?」
「おまえ、重くなったなあ〜。」
「そお?」
「重くなったよ〜。」
「じゃあ、ゆっくり行きましょう。」
「ゆっくり行こう。」
「お月さんが、ついて来てるわ。」
「ああ、そうだなあ。」
「マイクもらえて良かったねえ。」
「これで、中国の人と話せるぞ。」
「ほんとに話せるの?」
「ああ、話せるよ。」
「お金はいらないの?」
「ああ、いらないよ。カメラがあるから、真由美の顔も送れるぞ。」
「送れるって?」
「中国の人が、真由美の顔を見れるんだよ。」
「え〜〜〜、ほんと!?」
「ほんとだよ。」
「それも、お金がいらないの?」
「それも、お金がいらない。」
「わ〜〜、パソコンって素敵だわ〜。」
「今日は、もう遅いから。明日やろう!」
「うん!」
真由美は、あくびをした。
「なんだか眠くなっちゃった。」
「おまえ、眠るなよ。」
「うん。」
まさとが、家に辿り着いたとき、真由美は眠り込んでいた。




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