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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第52回   龍次 vs 真由美
龍次が集会所に入ると、二人の男の隊員がボードゲームをしていた。
「何、そのゲーム?」
「将棋です。」二人は、ほぼ同時に答えた。
「将棋?」
「はい。」二人は、ほぼ同時に答えた。
ゲームの盤は確かに将棋の盤だったが、駒ではなく人形の駒が置かれていた。全て、武将の人形だった。
「へ〜〜〜、これどうしたの?」
眼鏡の隊員が答えた。
「わたしが作ったんです。」
「ほ〜〜、面白いねえ。」
歩兵は槍を斜めに持ち、香車(やり)は鉄砲を担いでいた。飛車は龍で、角は獅子だった。桂馬は馬だった。
「なかなか楽しそうだねえ。」
「これでやるのは、初めてなんです。」
「これ、たとえば、歩兵が成ったらどうするの?」
「旗を立てるんです。」
やってみせた。旗は折りたたみになっていた。
「お〜〜、なるほど!」
王と金将以外は、全て旗があって、折りたたまれていた。
「よくできてるなあ〜。」
「まだ、ちょっとデザインが…」
「そうだね、ちょっとね。でも大したもんだよ。」
「ありがとうございます。」
「これ、売れるかも知れませんよ。」
「えっ、そうですか?」
集会所の玄関の方から、甲高い声が聞こえた。
「こんばんわ〜!」
真由美ちゃんの声だった。
「あっ、真由美ちゃんだ。何だろう?」
龍次は玄関に向かった。真由美と兄のまさとが立っていた。
「どうしたの?」
まさとが答えた。
「あの〜、パソコンのマイクはありませんか?」
「あ〜、マイク?ちょっと待って。」
龍次は戻ろうとした。
「中に入ってて。」
二人は、集会所に入って行った。龍次は、事務室に入って行った。なかなか出て来なかった。
真由美は、ボードゲームに目が向かった。歩み寄った。
「何してるの?」
眼鏡の隊員が答えた。
「将棋。」
「将棋?」
真由美の目が、きらっと光った。真由美は、靴を脱いで眼鏡の男の隣の椅子に登った。
「これ、将棋?」
「そうだよ。」
「これが、王様?」
「そうだよ。」
「わ〜〜、かっこいい〜!」
まさともやって来た。黙って見ていた。
龍次が戻って来た。
「はい。」
そう言うと、パソコンのマイクを、まさとに手渡した。
「余ってて、誰も使ってないから、持って行っていいよ。」
「ありがとうございます!」
「何に使うの?」
「真由美が、中国の人と話したいと言うので。」
「あ〜〜、インターネットの無料テレビ電話ね。」
「はい。」
「真由美ちゃんは、凄いねえ。」
真由美は、熱心に将棋を見ていた。
「あ〜〜〜あ!」
眼鏡の男が、「王手!」と言った。将棋は終わった。
龍次は、真由美を見た。
「真由美ちゃん、将棋できるの?」
「できるわ。」
「お〜〜、凄いねえ。」
まさとが答えた。
「真由美は、将棋がやったらと強いんですよ。」
「お兄ちゃんが弱すぎるの。」
「今度、高野山の将棋大会に出るんです。」
「あっ、そ〜う!僕も将棋が好きなんだよ。今度やろうか!?」
「今やってもいいですよ。」
龍次は壁時計を見た。ちょうど九時だった。
「遅いから、今度やろう。」
「きっと、五分で終わるわ。」
「なに〜〜〜ぃ!?」
龍次の目は、剣豪のように血走り光った。真由美の目も、鋭く龍次を睨んでいた。口元は不気味に不敵に笑んでいた。
龍次は、六歳の子供に、マジで真剣になっていた。


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