龍次が集会所に入ると、二人の男の隊員がボードゲームをしていた。 「何、そのゲーム?」 「将棋です。」二人は、ほぼ同時に答えた。 「将棋?」 「はい。」二人は、ほぼ同時に答えた。 ゲームの盤は確かに将棋の盤だったが、駒ではなく人形の駒が置かれていた。全て、武将の人形だった。 「へ〜〜〜、これどうしたの?」 眼鏡の隊員が答えた。 「わたしが作ったんです。」 「ほ〜〜、面白いねえ。」 歩兵は槍を斜めに持ち、香車(やり)は鉄砲を担いでいた。飛車は龍で、角は獅子だった。桂馬は馬だった。 「なかなか楽しそうだねえ。」 「これでやるのは、初めてなんです。」 「これ、たとえば、歩兵が成ったらどうするの?」 「旗を立てるんです。」 やってみせた。旗は折りたたみになっていた。 「お〜〜、なるほど!」 王と金将以外は、全て旗があって、折りたたまれていた。 「よくできてるなあ〜。」 「まだ、ちょっとデザインが…」 「そうだね、ちょっとね。でも大したもんだよ。」 「ありがとうございます。」 「これ、売れるかも知れませんよ。」 「えっ、そうですか?」 集会所の玄関の方から、甲高い声が聞こえた。 「こんばんわ〜!」 真由美ちゃんの声だった。 「あっ、真由美ちゃんだ。何だろう?」 龍次は玄関に向かった。真由美と兄のまさとが立っていた。 「どうしたの?」 まさとが答えた。 「あの〜、パソコンのマイクはありませんか?」 「あ〜、マイク?ちょっと待って。」 龍次は戻ろうとした。 「中に入ってて。」 二人は、集会所に入って行った。龍次は、事務室に入って行った。なかなか出て来なかった。 真由美は、ボードゲームに目が向かった。歩み寄った。 「何してるの?」 眼鏡の隊員が答えた。 「将棋。」 「将棋?」 真由美の目が、きらっと光った。真由美は、靴を脱いで眼鏡の男の隣の椅子に登った。 「これ、将棋?」 「そうだよ。」 「これが、王様?」 「そうだよ。」 「わ〜〜、かっこいい〜!」 まさともやって来た。黙って見ていた。 龍次が戻って来た。 「はい。」 そう言うと、パソコンのマイクを、まさとに手渡した。 「余ってて、誰も使ってないから、持って行っていいよ。」 「ありがとうございます!」 「何に使うの?」 「真由美が、中国の人と話したいと言うので。」 「あ〜〜、インターネットの無料テレビ電話ね。」 「はい。」 「真由美ちゃんは、凄いねえ。」 真由美は、熱心に将棋を見ていた。 「あ〜〜〜あ!」 眼鏡の男が、「王手!」と言った。将棋は終わった。 龍次は、真由美を見た。 「真由美ちゃん、将棋できるの?」 「できるわ。」 「お〜〜、凄いねえ。」 まさとが答えた。 「真由美は、将棋がやったらと強いんですよ。」 「お兄ちゃんが弱すぎるの。」 「今度、高野山の将棋大会に出るんです。」 「あっ、そ〜う!僕も将棋が好きなんだよ。今度やろうか!?」 「今やってもいいですよ。」 龍次は壁時計を見た。ちょうど九時だった。 「遅いから、今度やろう。」 「きっと、五分で終わるわ。」 「なに〜〜〜ぃ!?」 龍次の目は、剣豪のように血走り光った。真由美の目も、鋭く龍次を睨んでいた。口元は不気味に不敵に笑んでいた。 龍次は、六歳の子供に、マジで真剣になっていた。
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