ショーケンは、ヨコタンの横にいて、走り去る光る球体の乗り物を、驚きの表情で見ていた。 「何、あれ!?」 ヨコタンが親切に答えた。 「乗り物。」 「転がって行っちゃったよ…」 「転がる乗り物。」 「転がる乗り物って、中の人は転がらないの?」 「転がったら、目が回って大変なことになってしまうわ。」 ショーケンの前には、龍次がいた。振り向いた。 「中の座席は回転しないんですよ。」 「え〜〜〜〜?」 ショーケンは考え込んでいた。 「あの人、誰なの?」 「発明革命家の豊沢豊雄先生です。」 「発明革命家の豊沢豊雄先生?」 大菩薩の隔離された施設にいた、クローンのショーケンは知らなかった。紋次郎が、とぼとぼやって来た。ヨコタンが声を掛けた。 「どうしたの?」 「急にいなくなったので、何かあったのかなあと思って、探しに来たんです。」 「大丈夫よ、何でもないわ。」 「そうですか、それは良かった。」 「さあ、帰りましょう!」 「じゃあ、おてて繋いで帰りましょう。」 「えっ?」 「おてて繋いで帰りましょう。」 紋次郎は、ショーケンのときと同じように、右手を差し出した。 「ふふふ、いいわよ。」 ヨコタンは、左手で紋次郎の右手を取った。 「さあ、帰ろう、」 「歌いましょうか?」 「えっ、何を?」 「おててつないでの歌です。」 「ふふふ、いいわよ。」 紋次郎は歌いだした。そして、手を繋いで歩き出した。ショーケンは、残念そうに、それを見ていた。 「なんだよ、あいつ。俺の真似しやがって。変なこと教えなきゃあよかった。」 「ショーケンさん、どうかしたの?」 「いや、何でもない。」 ショーケンは、一人つまらなさそうに、自分のドームハウスに帰って行った。みんなも、それぞれのドームハウスに帰って行った。龍次と一休さん夫妻だけ残っていた。 「一休さん、帰っていいよ。僕は、まだ集会所に用があるから。」 「ああ、そう。じゃあ、お休み。」 妻の明子も挨拶した。 「おやすみなさい。」 自分たちのドームハウスに帰って行った。龍次は、集会所に向かった。
紋次郎は、ドームハウスの前で立ち止まった。 「どうしたの、紋ちゃん?」 紋次郎は、繋いでいた手をほどくと、半回転して上空を見上げた。 「いつも、一日の終わりに、お月様や大空を見るんです。」 「どうして?」 「どうしてだか分かりません。」 「変ねえ…」 「きっと、お月様は、わたしと同じなんです。」 「どうして?」 「お月様も一人ぼっち、わたしも一人ぼっちなんです。」 「そんなことないわよ。わたしたちがいるじゃない。」 「わたしは生きている人間とは違います。お月様と同じように死んでいるんです。」 「死んでいる?」 「そうです。お月様が、ただ地球の周りを回っているように、ロボットも、ただ動いてるだけなのです。」 「そんなことないわよ〜。」 「わたしの心は、お月様の大地のように、真空なんです。何もないんです。」 紋次郎は、寂しそうに月を眺めていた。 「あなたって、とっても情緒的ねえ〜。」 ヨコタンは、感心して紋次郎を見ていた。風が少し吹いていた。
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