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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第47回   口が喋った!
ログハウスの中で、けんけん姉さんは、両手でグーを握り、身を震わせていた。
「お〜、桑原くわばら!」
アニーが入って来た。福之助は、ドアの外で突っ立っていた。
「ありゃあ、絶対にオバケだよ。」
「まったく、姉さんは、非科学的だなあ〜。そんなのはいませんよ。」
「そんなとこで、馬鹿生意気言ってないで、早く入って来なよ。」
福之助は入って来た。
「馬鹿生意気って、どういう意味ですか?」
「そんなこと、考えれば分かるだろう。略して、馬鹿生!」
「分かりません。そういう言葉は、わたしの言葉メモリのなかにはありません。」
「馬鹿が生意気なことだよ。」
「なんだ、そのままじゃないですか。」
「だから言っただろう。考えれば分かるって。お〜〜、桑原くわばら!」
「まったく、姉さんは、非科学的だなあ〜。」
「お〜〜、桑原くわばら!」
「くわばらくわばらって、それは昔のカミナリ避けの言葉ですよ。」
「そんなことは、どうでもいいだろう!」
「よくありませんよ。」
「お〜〜、南無南無南無南無…」
福之助は突っ立っていた。
「オバケみたいに立ってないで、おまえも早く座れよ。」
福之助は黙って座った。
姉さんの前には、アニーがパソコンの前に座って何かをしていた。姉さんは尋ねた。
「お仕事ですか?」
「いいえ。検索です。」
「検索?」
「動画の検索です。」
「動画?」
「光る球体に関する検索です。」
「あ〜〜、それはいいですね。」
「こういうときは、インターネットは便利ですね。」
「はい。」
福之助が、無表情に言った。
「やっぱり、アニーさんは科学的だなあ〜。」
「なんだよ、わたしに対する皮肉かよ。」
「そういうふうに聞こえました?」
「聞こえたよ。」
「大当たりです。」
「なんだと!」
「ごめんなさい。」
アニーが画面を睨んでいた。
「あっ、これかな!」
「どれどれどれ…」と言いながら、姉さんがアニーの背後に回り込んだ。
「そう、これっぽいわ。」
福之助も、アニーの背後に回り込んだ。
「非常に似てます。」
アニーは他の動画を表示した。
「これも、さっきのと同じだわ。未確認ハイテク物体と書いてあるわ。」
「未確認ハイテク物体?」
「場所は中国だわ。」
「ニーハオの中国ですか?」
「そう。中国の上海(シャンハイ)撮影と書いてあるわ。」
「シャンハイ、そう言えば、この前、時速五百キロで走るリニアトレインを見たわ。」
「上海ですか?」
「そう、上海は今、凄い勢いでハイテク化してるって内容の中国のニュースだったわ。」
「中国のニュース?」
「中国のインターネットテレビで見たんですよ。言葉が分からなかったので、詳しい内容は理解できませんでしたけどね。」
「ってことは、今見たのも、中国のハイテク物体かも知れませんねえ。」
福之助が、やたらと頷いていた。
「きっとそうですよ。妖怪なんているはずがありませんよ。姉さんのほうが、よっぽど妖怪ですよ。」
「なんだと〜。」
「すみません、つい口が喋りました。」
「口が喋った?」
「はい、つい口が喋りました。」
「口が喋った。じゃなくって、口が滑った。だろう?」
「口が滑った?」
「口が喋ったって、当たり前じゃないか。口は喋るよ。」
「当たり前なら、正しいじゃありませんか。」
「当たり前過ぎて、間違っているんだよ。」
「どういうことですか?」
「当たり前のことを言うのは馬鹿なんだよ。」
「どういうことですか?口が喋った、じゃなくって、口が滑った、って言うのは?」
「あ〜〜、おまえと喋ってると、時間の無駄だ。」
「ポンコツで悪かったですね。」
アニーは冷静だった。
「福ちゃん、口が滑った、は正しいの。言葉メモリに登録しておきなさい。」
「どういう意味ですか?」
「考えないで、つい喋ってしまった、ってことなの。」
「ああ、そういうことですか。分かりました。」


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