ログハウスの中で、けんけん姉さんは、両手でグーを握り、身を震わせていた。 「お〜、桑原くわばら!」 アニーが入って来た。福之助は、ドアの外で突っ立っていた。 「ありゃあ、絶対にオバケだよ。」 「まったく、姉さんは、非科学的だなあ〜。そんなのはいませんよ。」 「そんなとこで、馬鹿生意気言ってないで、早く入って来なよ。」 福之助は入って来た。 「馬鹿生意気って、どういう意味ですか?」 「そんなこと、考えれば分かるだろう。略して、馬鹿生!」 「分かりません。そういう言葉は、わたしの言葉メモリのなかにはありません。」 「馬鹿が生意気なことだよ。」 「なんだ、そのままじゃないですか。」 「だから言っただろう。考えれば分かるって。お〜〜、桑原くわばら!」 「まったく、姉さんは、非科学的だなあ〜。」 「お〜〜、桑原くわばら!」 「くわばらくわばらって、それは昔のカミナリ避けの言葉ですよ。」 「そんなことは、どうでもいいだろう!」 「よくありませんよ。」 「お〜〜、南無南無南無南無…」 福之助は突っ立っていた。 「オバケみたいに立ってないで、おまえも早く座れよ。」 福之助は黙って座った。 姉さんの前には、アニーがパソコンの前に座って何かをしていた。姉さんは尋ねた。 「お仕事ですか?」 「いいえ。検索です。」 「検索?」 「動画の検索です。」 「動画?」 「光る球体に関する検索です。」 「あ〜〜、それはいいですね。」 「こういうときは、インターネットは便利ですね。」 「はい。」 福之助が、無表情に言った。 「やっぱり、アニーさんは科学的だなあ〜。」 「なんだよ、わたしに対する皮肉かよ。」 「そういうふうに聞こえました?」 「聞こえたよ。」 「大当たりです。」 「なんだと!」 「ごめんなさい。」 アニーが画面を睨んでいた。 「あっ、これかな!」 「どれどれどれ…」と言いながら、姉さんがアニーの背後に回り込んだ。 「そう、これっぽいわ。」 福之助も、アニーの背後に回り込んだ。 「非常に似てます。」 アニーは他の動画を表示した。 「これも、さっきのと同じだわ。未確認ハイテク物体と書いてあるわ。」 「未確認ハイテク物体?」 「場所は中国だわ。」 「ニーハオの中国ですか?」 「そう。中国の上海(シャンハイ)撮影と書いてあるわ。」 「シャンハイ、そう言えば、この前、時速五百キロで走るリニアトレインを見たわ。」 「上海ですか?」 「そう、上海は今、凄い勢いでハイテク化してるって内容の中国のニュースだったわ。」 「中国のニュース?」 「中国のインターネットテレビで見たんですよ。言葉が分からなかったので、詳しい内容は理解できませんでしたけどね。」 「ってことは、今見たのも、中国のハイテク物体かも知れませんねえ。」 福之助が、やたらと頷いていた。 「きっとそうですよ。妖怪なんているはずがありませんよ。姉さんのほうが、よっぽど妖怪ですよ。」 「なんだと〜。」 「すみません、つい口が喋りました。」 「口が喋った?」 「はい、つい口が喋りました。」 「口が喋った。じゃなくって、口が滑った。だろう?」 「口が滑った?」 「口が喋ったって、当たり前じゃないか。口は喋るよ。」 「当たり前なら、正しいじゃありませんか。」 「当たり前過ぎて、間違っているんだよ。」 「どういうことですか?」 「当たり前のことを言うのは馬鹿なんだよ。」 「どういうことですか?口が喋った、じゃなくって、口が滑った、って言うのは?」 「あ〜〜、おまえと喋ってると、時間の無駄だ。」 「ポンコツで悪かったですね。」 アニーは冷静だった。 「福ちゃん、口が滑った、は正しいの。言葉メモリに登録しておきなさい。」 「どういう意味ですか?」 「考えないで、つい喋ってしまった、ってことなの。」 「ああ、そういうことですか。分かりました。」
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