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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第46回   龍の玉伝説
きょん姉さんは、お風呂に入り終えると、ログハウスの外に出て、玄関前の階段に座り、グラスに注いだ炭酸オレンジジュースを飲みながら、月を眺めていた。隣には、福之助が立っていた。
「福之助、おまえも座れよ。」
「はい。」
福之助は座った。
「そのほうが楽だろう。」
「いいえ。」
「あっ、そう?」
「お月様を眺めて楽しいんですか?」
「楽しい?」
「楽しいから、見てるんじゃないんですか?」
「別に、楽しくはないよ。」
「じゃあ、どうして?」
「高野山の情緒を味わっているだけだよ。」
「じょうちょ?」
「情緒だよ。辞書を引いて見ろ!」
「少々、お待ちください。」
福之助は、言葉メモリ内の検索を始めた。
「ありました!」
「読んで見ろ。」
「事に触れて起こるさまざまの微妙な感情。また、その感情を起こさせる特殊な雰囲気。」
「まあ、そういうことだ。」
「ますます、意味が分からなくなってきました。」
「ロボットには無理だよ。感情がないから。」
「そうですね。」
「いや〜〜、高野山の月は最高だなあ…」
「月は、どこでも同じですよ。日本で見ても、外国で見ても。」
「あ〜〜あ、つまんないやつ。」
「どうして人間には、情緒があるんですか?」
「情緒がないと、人間はギスギスして、心が病気になっちまうんだよ。」
「それは不思議ですねえ。」
「ちっとも不思議じゃないよ。」
「ロボットには、とっても不思議なことです。」
突然、ログハウスの前の道を、大きな光る球体が、奇妙な唸りを発して転がりながら走り過ぎて行った。姉さんは驚いた。
「お〜〜〜〜〜〜、何だ何だっ!?」
福之輔は、呆然としていた。
「今の、何でしょう?」
姉さんと福之助は、過ぎ去った方向を見ていた。アニーが、ドアを開け出てきた。
「何、今の音?」
「今、大きな火の玉が転がって行ったんです。」
「大きな火の玉が転がって?」
「はい。」
「どのくらい大きさの?」
「そうですねえ、高さが三メートルくらいだったでしょうか…」
福之助が答えた。
「約三メートル十五センチです。」
「ってことは、直径三メートルくらいの球体だったんですね?」
「そうです。」
「何色でした?」
「緑色でした。」
「緑色の球体…」
「何か?」
「ひょっとしたら、龍の玉かも…」
「龍の玉?」
「高野山には、龍の玉伝説があるんです。」
「龍の玉伝説?」
「弘法大師を守っている、龍の玉です。」
「え〜〜〜、それ緑色なんですか?」
「はい。」
「龍の玉って、何なんですか?」
「何もかも燃え尽くす、火の玉の妖怪です。」
「え〜〜〜、火の玉の妖怪!?」
「普段は緑色で、怒ると真っ赤になるそうです。」
なぜか風が止み、虫の声が聞こえなくなっていた。姉さんは怖くなった。
「わ〜〜、怖い!」
姉さんは、急いでログハウスの中に入って行った。


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