今、高野山の風は、虫たちのオーケストラの奏でるなかを、とんとん拍子に流れていた。 先生は、歩きながら呟いた。 「ここの風は、実に素晴らしい。都会の風とは違いますねえ。」 「そうでございますか。」 「君たちは、いいところに住んでるなあ。」 「先生も、こちらに住まわれてはいかかですか?」 「うん、そうだなあ…」 ドラゴンボールを囲んで、十数名の人間村の住民が集まっていた。 先生は、ドラゴンボールの前で立ち止まった。 「どうもありがとう。悪かったね、急に来て。」 龍次が即座に答えた。 「とんでもありません。また、いつでも来てください。」 「ああ、そうするよ。来週は、必ず来るから。」 「待ってます。」 先生は、見回した。 「皆さん、光ってますなあ〜!」 龍次には、意味が分からなかった。 「はっ?」 「生きているものは、皆、体内から光が発せられています。眩しいくらいに。」 「はっ?」 龍次には、意味が分からなかった。 「じゃあ、行くかな。」 一休さんが、慌てて出てきた。 「あっ、先生!これ持って行ってください。」 ダンボールの箱を手渡した。 「弘法大師のカラクリ人形です。」 「ああ、ありがとう!」 先生は、喜んで受け取った。 「じゃあ、皆さん、お元気で!」 先生は、みんなに気さくに手を振った。みんなは、ほぼ一斉に頭を下げた。 それから、改めて、龍次たちに軽く頭を下げて礼を言った。 「じゃあ、また!」 「先生、お気をつけて。」 「大丈夫だよ。すぐそこだから。」 先生は、ドアリモコンのスイッチを押した。ドアが下方向に開き、地面に接地していた。ドアの裏側は階段になっていた。 「大切なのは。物の発明ではなく、心の発明だよ。なぜなら、発明は心から生まれるものだから。」 「先生の発明魂、深く心得ております!」 先生は、ドア階段から中に入って行った。座席に座ると、龍次たちに軽く手を振った。 「じゃあ!」 龍次たちは、深く頭を下げた。 「危ないから、少し下がっておいたほうがいいよ。」 龍次たちは、指示に従った。ドアが閉まった。奇妙な動力音がして、球体を動かないようにしていた四本の脚が折りたたむように持ち上がって、球体のなかに消えた。 球体全体が光った。みんなは驚いた。 ドロゴンボールは、虫たちのオーケストラの奏でるなかを、とんとん拍子に転がって走り出した。
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