若者の面接を終えると、ちょうど先生を起こす時間になっていた。龍次、一休さん夫婦、そしてヨコタンは、ゲストルームに、静かに入って行った。先生は起き上がって、ソファーに座っていた。 「世界大戦と高度経済成長の、どんちゃん騒ぎの二十世紀の夢を見ていたよ。」 「どんちゃん騒ぎの二十世紀ですか?」 「日米戦争で民衆は高揚し、そして敗戦。そして、日本人は懸命に働きました。でも、戦後日本の経済成長は、朝鮮戦争から始まったようなものです。成長の裏には争いがありました。」 龍次は深く頷いた。 「はい!」 それから龍次は、強く発言した。 「先生、わたしたちは、先生の革命的平和的大衆的な発明魂を受け継ぐものです。」 「ありがとう。」 先生は、少し涙ぐんでいた。 「さて、君たちの元気そうな顔も拝見できたことだし、そろそろ天国の我が家にでも帰ろうかな。」 龍次は真面目だった。 「天国?」 「冗談ですよ。今、何時だね?」 「九時十五分です。」 「あ〜、もうそんな時間か。」 「三重のどちらまで?」 「四日市だよ。」 「四日市というと、発明神社の?」 「そう。」 「しばらくは、四日市にいますので、また来週来ますよ。どうどうと今度は昼間にね。」 「ぜひ、また来てください。」 「じゃあ、平日は忙しいでしょうから、来週の日曜日の正午過ぎ、そうだなあ…、二時ごろに来ます。大丈夫かな?」 「はい、大丈夫です!」 「いろいろと、君たちの生活ぶりも見たいし、案内してください。」 「はい!」 「じゃあ、帰ろうかな…」 先生は立ち上がった。先生は、事務室で真面目にパソコンを見ている二人を見た。 「日曜なのに、こんな時間に仕事してるの?」 「ホームページをやっているんです。」 「大変だねえ。ああいうのは、手間がかかるんだよねえ。」 「はい。」 「ホームページっていうと、ここの?」 「そうです。人間村のです。」 「ほ〜、じゃあちょっと見せてくれないかなあ。」 「いいですよ。」 龍次は、二人が作業しているパソコンに案内した。 「ウメさん、人間村のホームページ、出してくれない。」 「はい。」 ホームページは、すぐに表示された。 「ここです。」 先生は、目を凝らして覗き込んだ。 「なかなかいいじゃないの。」 「ありがとうございます。」 「こういうのは、文字を大きくしたいときには、どうするんだね?」 龍次は戸惑った。 「ウメさん、どうやるの?」 「簡単です。上の、表示をクリックして、文字のサイズをクリックして、大を選ぶんです。今、やってみましょうか?」 「やってみて。」 ウメさんはやってみせた。文字は大きくなった。 先生は、頷いて納得した。 「なるほど。」 龍次は先生に質問した。 「先生も、パソコンをすることがあるんですか?」 「やることはないけど、見ることくらいはありますよ。」 男の隊員が、ドアを開けて入って来た。 「弘法大師のカラクリ人形、箱に入れて持って来ました。」 「あっ、ご苦労さん。机の上に置いといて。」 「はい。」 隊員は、机の上に置くと、すぐに出て行った。 先生は、ウメさんに、「どうもありがとう。」と言うと、パソコンから離れた。龍次に近づくと、尋ねた。 「ここには、若い人は、どのくらいいるんですか?」 「そうですねえ、現在九十八人いて、半数以上が三十歳以下です。」 「自ら来てるんですか?」 「そうです。就職難やリストラが多いですねえ。人間不信などの精神的悩みで来る人も多いです。」 「ああ、そうなの。今時の若い人は大変だ。」 「そうですねえ。」 「高度成長期に就職できた人はラッキーだったんですよ。時代的に見ると、どんちゃん騒ぎの特殊な時代だったんですよ。」 「わたしも、そう思います。馬鹿でも生きて行けましたから。」
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