20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第43回   発明魂
若者の面接を終えると、ちょうど先生を起こす時間になっていた。龍次、一休さん夫婦、そしてヨコタンは、ゲストルームに、静かに入って行った。先生は起き上がって、ソファーに座っていた。
「世界大戦と高度経済成長の、どんちゃん騒ぎの二十世紀の夢を見ていたよ。」
「どんちゃん騒ぎの二十世紀ですか?」
「日米戦争で民衆は高揚し、そして敗戦。そして、日本人は懸命に働きました。でも、戦後日本の経済成長は、朝鮮戦争から始まったようなものです。成長の裏には争いがありました。」
龍次は深く頷いた。
「はい!」
それから龍次は、強く発言した。
「先生、わたしたちは、先生の革命的平和的大衆的な発明魂を受け継ぐものです。」
「ありがとう。」
先生は、少し涙ぐんでいた。
「さて、君たちの元気そうな顔も拝見できたことだし、そろそろ天国の我が家にでも帰ろうかな。」
龍次は真面目だった。
「天国?」
「冗談ですよ。今、何時だね?」
「九時十五分です。」
「あ〜、もうそんな時間か。」
「三重のどちらまで?」
「四日市だよ。」
「四日市というと、発明神社の?」
「そう。」
「しばらくは、四日市にいますので、また来週来ますよ。どうどうと今度は昼間にね。」
「ぜひ、また来てください。」
「じゃあ、平日は忙しいでしょうから、来週の日曜日の正午過ぎ、そうだなあ…、二時ごろに来ます。大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です!」
「いろいろと、君たちの生活ぶりも見たいし、案内してください。」
「はい!」
「じゃあ、帰ろうかな…」
先生は立ち上がった。先生は、事務室で真面目にパソコンを見ている二人を見た。
「日曜なのに、こんな時間に仕事してるの?」
「ホームページをやっているんです。」
「大変だねえ。ああいうのは、手間がかかるんだよねえ。」
「はい。」
「ホームページっていうと、ここの?」
「そうです。人間村のです。」
「ほ〜、じゃあちょっと見せてくれないかなあ。」
「いいですよ。」
龍次は、二人が作業しているパソコンに案内した。
「ウメさん、人間村のホームページ、出してくれない。」
「はい。」
ホームページは、すぐに表示された。
「ここです。」
先生は、目を凝らして覗き込んだ。
「なかなかいいじゃないの。」
「ありがとうございます。」
「こういうのは、文字を大きくしたいときには、どうするんだね?」
龍次は戸惑った。
「ウメさん、どうやるの?」
「簡単です。上の、表示をクリックして、文字のサイズをクリックして、大を選ぶんです。今、やってみましょうか?」
「やってみて。」
ウメさんはやってみせた。文字は大きくなった。
先生は、頷いて納得した。
「なるほど。」
龍次は先生に質問した。
「先生も、パソコンをすることがあるんですか?」
「やることはないけど、見ることくらいはありますよ。」
男の隊員が、ドアを開けて入って来た。
「弘法大師のカラクリ人形、箱に入れて持って来ました。」
「あっ、ご苦労さん。机の上に置いといて。」
「はい。」
隊員は、机の上に置くと、すぐに出て行った。
先生は、ウメさんに、「どうもありがとう。」と言うと、パソコンから離れた。龍次に近づくと、尋ねた。
「ここには、若い人は、どのくらいいるんですか?」
「そうですねえ、現在九十八人いて、半数以上が三十歳以下です。」
「自ら来てるんですか?」
「そうです。就職難やリストラが多いですねえ。人間不信などの精神的悩みで来る人も多いです。」
「ああ、そうなの。今時の若い人は大変だ。」
「そうですねえ。」
「高度成長期に就職できた人はラッキーだったんですよ。時代的に見ると、どんちゃん騒ぎの特殊な時代だったんですよ。」
「わたしも、そう思います。馬鹿でも生きて行けましたから。」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 31446