ゲストルームは、事務室と同じ部屋の隣にあった。事務室では、サキちゃんが、パソコンの前に座って何かをしていた。龍次が声を掛けた。 「サキちゃん、仕事なの?」 「ちょっと、ホームページを見てました。」 「何か、変な書き込みでもあったの?」 「いいえ、ありません。ちょっと、ホームページの表示が遅いんです。」 「ああ、そう。ウメさんだったら、隣にいるよ。」 「そうですか。」 サキちゃんは、すっと立ち上がると、隣の部屋に行った。 龍次が、サキちゃんと話してる間に、豊沢先生は隣のゲストルームに案内されていた。龍次が急いで来た。先生は、テレビの見えるソファーに座っていた。 「先生、テレビでも観ますか?」 「テレビはいいよ。目が疲れているから。最近、眩しいもの見ると、目が疲れるんだよ。」 「あ〜、それはいけませんねえ。少し休まれたほうが。」 「そうだなあ。」 明子が、お茶を持って来た。 「どうぞ。」 「ありがとう。」 先生は、一口飲んだ。 「いい、お茶ですねえ〜。」 「うちで作ってる無農薬茶なんです。」 「とっても、味がいいですねえ。香りもあるし。」 「ありがとうございます。」 「高野山の、爽やかな風の匂いがします。」 「えっ、そうですか。」 素敵な言葉に、明子は微笑んだ。 「売っているんですか?」 「売ってはいません。そんなには作っていないんです。」 先生は、眼鏡を取って、右手の甲で両目の目頭を押さえた。 「あ〜〜、食べたら、なんだか眠くなってきました。」 龍次が慌てて気を使った。 「先生、こんなソファーでよろしかったら、どうぞ横になってください。」 「そうするかな…」 明子が慌てて、どこからか枕と毛布を持って来た。 「どうぞ、先生!」 「ありがとう。三十分ほどしたら起きるよ。もし、起きていないようでしたら、起こしてくれませんか。」 「はい、分かりました。」 みんなは、静かに出て行った。出ると、サキちゃんとウメさんが入るところだった。龍次は、小さな声で二人に注意した。 「先生が寝てるから、あんまり大きい声出さないでね。」 二人は、ほぼ同時に返事をした。 「分かりました。」 「ウメさん、面接は僕らがやるから、もういいよ。」 「分かりました。」 二人は静かに事務室に入って行った。静かに、ドアを閉めた。 集会所の周りでは、虫たちが夜の子守唄を歌っていた。天空では、月の淡い光が、人間村と生き物たちを静かに静かに照らしていた。虫たちは時折、いたずらな風小僧の匂いを嗅いでいた。
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