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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第42回   風小僧の匂い
ゲストルームは、事務室と同じ部屋の隣にあった。事務室では、サキちゃんが、パソコンの前に座って何かをしていた。龍次が声を掛けた。
「サキちゃん、仕事なの?」
「ちょっと、ホームページを見てました。」
「何か、変な書き込みでもあったの?」
「いいえ、ありません。ちょっと、ホームページの表示が遅いんです。」
「ああ、そう。ウメさんだったら、隣にいるよ。」
「そうですか。」
サキちゃんは、すっと立ち上がると、隣の部屋に行った。
龍次が、サキちゃんと話してる間に、豊沢先生は隣のゲストルームに案内されていた。龍次が急いで来た。先生は、テレビの見えるソファーに座っていた。
「先生、テレビでも観ますか?」
「テレビはいいよ。目が疲れているから。最近、眩しいもの見ると、目が疲れるんだよ。」
「あ〜、それはいけませんねえ。少し休まれたほうが。」
「そうだなあ。」
明子が、お茶を持って来た。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
先生は、一口飲んだ。
「いい、お茶ですねえ〜。」
「うちで作ってる無農薬茶なんです。」
「とっても、味がいいですねえ。香りもあるし。」
「ありがとうございます。」
「高野山の、爽やかな風の匂いがします。」
「えっ、そうですか。」
素敵な言葉に、明子は微笑んだ。
「売っているんですか?」
「売ってはいません。そんなには作っていないんです。」
先生は、眼鏡を取って、右手の甲で両目の目頭を押さえた。
「あ〜〜、食べたら、なんだか眠くなってきました。」
龍次が慌てて気を使った。
「先生、こんなソファーでよろしかったら、どうぞ横になってください。」
「そうするかな…」
明子が慌てて、どこからか枕と毛布を持って来た。
「どうぞ、先生!」
「ありがとう。三十分ほどしたら起きるよ。もし、起きていないようでしたら、起こしてくれませんか。」
「はい、分かりました。」
みんなは、静かに出て行った。出ると、サキちゃんとウメさんが入るところだった。龍次は、小さな声で二人に注意した。
「先生が寝てるから、あんまり大きい声出さないでね。」
二人は、ほぼ同時に返事をした。
「分かりました。」
「ウメさん、面接は僕らがやるから、もういいよ。」
「分かりました。」
二人は静かに事務室に入って行った。静かに、ドアを閉めた。
集会所の周りでは、虫たちが夜の子守唄を歌っていた。天空では、月の淡い光が、人間村と生き物たちを静かに静かに照らしていた。虫たちは時折、いたずらな風小僧の匂いを嗅いでいた。


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