食堂の外で、龍次たち三人は、奇妙な球体の乗り物を囲んで、立ちすくんでいた。 「龍次さん、これ、どうやって掃除するの?」 「ちょっと、手じゃ、とどかないねえ。」 ドラゴンボールは、三メートルほどの高さがあった。 明子が言った。 「若い人に頼みましょうよ。」 一休さんが、球体を触りながら言った。 「僕たちが掃除しないと、意味が無いよ。」 龍次も同感だった。 「そうだ、意味が無い。これは、われわれの先生の乗り物だから。」 「ホースで水をかけて、モップで洗えばいいんじゃないかな?」 「水をかけて、モップで?」 「うん。」 「水をかけて、大丈夫かなあ?」 「大丈夫でしょう。水の上を走るくらいだから。」 「うん、そうだねえ。でも、念のために、先生に聞いてくるよ。」 「じゃあ、聞いてきて。」 龍次は、食堂に入って行った。すぐに戻って来た。 「大丈夫だって。」 「やっぱり。じゃあ、ホースとモップを持ってくるよ。」 一休さんが取りに行くと、龍次は、思い出したように、携帯電話(セルフォーン)を取り出した。 「あっ、そうだ。ヨコタンに知らせておこう。」 龍次は、電話をかけた。 「あっ、ヨコタン、保土ヶ谷だけど…」 『…』 「今ね、発明革命家の豊沢豊雄(とよさわとよお)先生が来てるんだよ。」 『……』 「食堂。」 『…』 「待ってるよ。」 一休さんが、ホースとモップを持って戻って来た。早速、外にある蛇口にホースを繋ごうとした。明子が止めた。 「ちょっと待って!」 「なに?」 「それで、水を上からかけるわけ?」 「そうだよ。」 「そんなことしたら、下がびしょびしょになるわ。」 「そうだね。まずい?」 「まずいわよ。下の泥で球体の下が汚れるわ。」 「そうか…」 「モップを濡らして拭けばいいのよ。そのモップ、新しいんでしょう?」 「今、取り替えてきた。新しいよ。」 明子がやって来て、モップを取り、蛇口で濡らし絞って戻って行った。そして、球体を拭き始めた。 「手間はかかるけど、これが一番いいわ。」 一休さんも、真似をして、モップを蛇口で濡らして絞ってやって来た。 「やっぱり、掃除にかけては、女のほうが上手(うわて)だなあ。」 モップは三本あったので、龍次も蛇口の近くに置いてあるモップを取りに行った。同じように、濡らし絞って戻って来た。そして拭き始めた。 三人が拭いていると、ヨコタンがやって来た。 「あら、何してるの、お三人方?」 一番近くにいた龍次が答えた。 「見れば分かるでしょう。お掃除。」 「なあに、これ?」 「乗り物。」 「乗り物なの、これ?」 「乗り物だよ〜。」 「空を飛ぶの?」 「まさか。」 「分かった!ボートでしょう?」 「ボートなんかじゃないよ。」 「ほんとに乗り物なの?車輪も窓もないじゃない。」 「でも、乗り物なの。」 「ひょっとしたら、豊沢先生が乗ってきた乗り物?」 「そう。」 「なあに。これ?走るの?」 「走るんじゃなくって、転がるの。」 「転がる?」 「ごろごろって、転がるの。」 「ごろごろって、ボールのように?」 「そう。」 「え〜〜〜、まさか?」 「ほんとだよ。」 豊沢先生が、食堂から出て来た。 「やってるね、君たち!」
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