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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第40回   お掃除
食堂の外で、龍次たち三人は、奇妙な球体の乗り物を囲んで、立ちすくんでいた。
「龍次さん、これ、どうやって掃除するの?」
「ちょっと、手じゃ、とどかないねえ。」
ドラゴンボールは、三メートルほどの高さがあった。
明子が言った。
「若い人に頼みましょうよ。」
一休さんが、球体を触りながら言った。
「僕たちが掃除しないと、意味が無いよ。」
龍次も同感だった。
「そうだ、意味が無い。これは、われわれの先生の乗り物だから。」
「ホースで水をかけて、モップで洗えばいいんじゃないかな?」
「水をかけて、モップで?」
「うん。」
「水をかけて、大丈夫かなあ?」
「大丈夫でしょう。水の上を走るくらいだから。」
「うん、そうだねえ。でも、念のために、先生に聞いてくるよ。」
「じゃあ、聞いてきて。」
龍次は、食堂に入って行った。すぐに戻って来た。
「大丈夫だって。」
「やっぱり。じゃあ、ホースとモップを持ってくるよ。」
一休さんが取りに行くと、龍次は、思い出したように、携帯電話(セルフォーン)を取り出した。
「あっ、そうだ。ヨコタンに知らせておこう。」
龍次は、電話をかけた。
「あっ、ヨコタン、保土ヶ谷だけど…」
『…』
「今ね、発明革命家の豊沢豊雄(とよさわとよお)先生が来てるんだよ。」
『……』
「食堂。」
『…』
「待ってるよ。」
一休さんが、ホースとモップを持って戻って来た。早速、外にある蛇口にホースを繋ごうとした。明子が止めた。
「ちょっと待って!」
「なに?」
「それで、水を上からかけるわけ?」
「そうだよ。」
「そんなことしたら、下がびしょびしょになるわ。」
「そうだね。まずい?」
「まずいわよ。下の泥で球体の下が汚れるわ。」
「そうか…」
「モップを濡らして拭けばいいのよ。そのモップ、新しいんでしょう?」
「今、取り替えてきた。新しいよ。」
明子がやって来て、モップを取り、蛇口で濡らし絞って戻って行った。そして、球体を拭き始めた。
「手間はかかるけど、これが一番いいわ。」
一休さんも、真似をして、モップを蛇口で濡らして絞ってやって来た。
「やっぱり、掃除にかけては、女のほうが上手(うわて)だなあ。」
モップは三本あったので、龍次も蛇口の近くに置いてあるモップを取りに行った。同じように、濡らし絞って戻って来た。そして拭き始めた。
三人が拭いていると、ヨコタンがやって来た。
「あら、何してるの、お三人方?」
一番近くにいた龍次が答えた。
「見れば分かるでしょう。お掃除。」
「なあに、これ?」
「乗り物。」
「乗り物なの、これ?」
「乗り物だよ〜。」
「空を飛ぶの?」
「まさか。」
「分かった!ボートでしょう?」
「ボートなんかじゃないよ。」
「ほんとに乗り物なの?車輪も窓もないじゃない。」
「でも、乗り物なの。」
「ひょっとしたら、豊沢先生が乗ってきた乗り物?」
「そう。」
「なあに。これ?走るの?」
「走るんじゃなくって、転がるの。」
「転がる?」
「ごろごろって、転がるの。」
「ごろごろって、ボールのように?」
「そう。」
「え〜〜〜、まさか?」
「ほんとだよ。」
豊沢先生が、食堂から出て来た。
「やってるね、君たち!」


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