突然、カラスがやってきて、凧を嘴(くちばし)で突いた。姉さんはびっくりした。 「なんだ、なんだ!」 慌てて凧糸を引いた。 「やるか、このやろう!」 また襲ってきた。」 姉さんは、焦って凧糸を手繰り寄せた。辛うじて第二の攻撃を避けた。 「にゃろ〜〜!」 なおも襲ってきた。姉さんは、リモコンの大鷲威嚇音ボタンを押した。カメラから、大鷲の威嚇する鳴き声が鳴り響いた。カラスは驚いて逃げて行った。 「やばいやばい。あいつは頭いいから、また来るぞ!」 姉さんは、急いで凧を手繰り寄せた。 「とんでもない奴だなあ〜!」 姉さんは、凧を手にすると、急いで山を降りて行った。同じカラスが上空を、馬鹿にするようにカァ〜と鳴きながら飛んで行った。 「にゃろ〜、パチンコもってくればよかったな〜。」 カラスは、またも馬鹿にするように、前方の木に止まり、カァ〜と鳴いた。姉さんは、その木に向かって駆け出した。カラスは驚いて飛び去った。 「にゃろ〜、今度逢ったら、ただじゃあおかねえからな〜。」 カラスは、遠くの木に止まり、からかうように姉さんに向かって、カカカカカと鳴き始めた。 「あのやろう、人間の心が分かんのかなあ?…だとしたら、大した奴だ。」 ここには山があり、風があった。シジュウカラ、コガラ、カケスなどの小鳥たちが、お喋りをしていた。花々が首を振って聞いていた。 右手の方で、模型ボブスレーをやっていたが、カラスのことで頭がいっぱいで眼中には無かった。 近くで、子供がオモチャの法螺貝を持っていた。それを吹くと、近くにいたカラスが逃げていった。 「いいなあ〜、あれ。」 福之助が、床をモップで掃除していると、ドアが鍵で開き、姉さんが、「あのやろう!」と言いながら入ってきた。 「どうしたんですか、姉さん?」 姉さんは、凧を見せた。 「見ろ、これ!」 凧には、大きな穴が開いていた。 「どうしたんですか?」 「あのやろうが、やったんだよ。」 「あのやろうって?」 「カラスの平吉だよ!」 「カラスのへいきち?なあんだ、お知り合いだったんですか?」 「お知り合いなわけないだろう!わたしが今、思いついて名づけたんだよ!」 「ばかみたい!」 「なんだと!つけちゃあ悪いの?」 「別に悪くはありませんけど。」 「けど、何だよ?」 「なんでもありません。」 姉さんは、凧をアニーにも見せた。 「見てくださいよ、これ。」 「カラスにやられたんですか?」 「はい。見事に!」 「鳥形だからかしら?」 「そうかもしれませんねえ。あいつの縄張りだったのかも知れません。」 「色がいけないのかも知れませんねえ?」 「色ですか?」 「黄色とかがいいんじゃないかしら?」 「黄色、そうですねえ。」 「それはもう駄目ですので、黄色のを頼みましょう。」 「ついでにパチンコもおねがいします。」 「パチンコって?」 「ゴムで石をはじくやつですよ。ビュ〜〜と!」 「ああ、あれですか。そんなのあるかなあ?どうするんですか?」 「カラスを撃つんですよ。」 福之助がやってきた。 「そんなことしたら、駄目ですよ〜!」 「なんでだよ?」 「カラスは怒らせると、復讐しますよ。」 「そうかよ?」 「人間の顔を、ちゃんと覚えているんですから。」 「そうなの?」 「テレビでやってました。」 「なんだ、テレビ知恵か。」 「だから、止めておいたほうがいいです。」 「分かった!」 「おや、随分と素直ですねえ?」 「飛ぶ奴には適わないからね。」 「姉さん、そんなことより、ちゃんと撮れたんですか?」 「あっ、そうか!」 姉さんは、カメラを凧から取り外した。 「アニーさん、これどうやって見るんですか?」 「パソコンに繋ぐと見れます。そのテレビでも観れます。」 「あっ、分かりました。じゃあ、アニーさんにも見れるようにテレビに繋げます。」 姉さんは、テレビに繋いだ。 「二十分は飛ばしていたので、何枚撮れているのかなあ?福之助!」 即座に福之助は答えた。 「五秒に一枚ですので、二百四十枚です。」 「二百四十枚もあれば、いいのがあるでしょう。」 姉さんは、一枚一枚テレビの画面に映し出した。見事に映っていた。 「フォトカイトって、面白いなあ〜!」 アニーも面白そうに見ていた。 「面白いですねえ〜。」 「こんな世界があったとは!」 テレビに映し出された写真は、どれもこれも素晴らしかった。 「この角度、この偶然の風景が素晴らしいなあ〜、芸術だ!」 「この風景は、狙っても撮れませんねえ〜。」 「狙ったら、絶対に撮れないでしょうねえ〜。」 二人は、仕事を忘れて見入っていた。 福之助も見ていた。 「どこが素晴らしいんですか?」 ロボットの福之助には、芸術性が分からなかった。姉さんは軽蔑した。 「あっ、そうか、機械のおまえには無理だな。」 「風景は、風景ですよ。他に何かあるんですか?」 「ああ〜、空しいやつだなあ〜。」 「空しくて結構です。」 アニーが思い出したように発言した。 「そうだ、高野山フォークフェスティバルをこれで撮ると、きっと面白いわ。」 「高野山フォークフェスティバルって、何ですか?」 「十月の初めの日曜日に、天軸山(てんじくさん)で行われる、歌の祭典なんですよ。」 「フォークフェスティバルって言うと、フォークソングの?」 「別にフォークソングって決まっているわけではないんです。みんなが楽しめれば、どんなジャンルの歌でもいいんですよ。」 「なんだか面白そうですね。」 「その模様を、上空から撮れば、素晴らしいと思いますよ。」 「ああ、それいいですねえ。」
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