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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第4回   このやろう!
突然、カラスがやってきて、凧を嘴(くちばし)で突いた。姉さんはびっくりした。
「なんだ、なんだ!」
慌てて凧糸を引いた。
「やるか、このやろう!」
また襲ってきた。」
姉さんは、焦って凧糸を手繰り寄せた。辛うじて第二の攻撃を避けた。
「にゃろ〜〜!」
なおも襲ってきた。姉さんは、リモコンの大鷲威嚇音ボタンを押した。カメラから、大鷲の威嚇する鳴き声が鳴り響いた。カラスは驚いて逃げて行った。
「やばいやばい。あいつは頭いいから、また来るぞ!」
姉さんは、急いで凧を手繰り寄せた。
「とんでもない奴だなあ〜!」
姉さんは、凧を手にすると、急いで山を降りて行った。同じカラスが上空を、馬鹿にするようにカァ〜と鳴きながら飛んで行った。
「にゃろ〜、パチンコもってくればよかったな〜。」
カラスは、またも馬鹿にするように、前方の木に止まり、カァ〜と鳴いた。姉さんは、その木に向かって駆け出した。カラスは驚いて飛び去った。
「にゃろ〜、今度逢ったら、ただじゃあおかねえからな〜。」
カラスは、遠くの木に止まり、からかうように姉さんに向かって、カカカカカと鳴き始めた。
「あのやろう、人間の心が分かんのかなあ?…だとしたら、大した奴だ。」
ここには山があり、風があった。シジュウカラ、コガラ、カケスなどの小鳥たちが、お喋りをしていた。花々が首を振って聞いていた。
右手の方で、模型ボブスレーをやっていたが、カラスのことで頭がいっぱいで眼中には無かった。
近くで、子供がオモチャの法螺貝を持っていた。それを吹くと、近くにいたカラスが逃げていった。
「いいなあ〜、あれ。」
福之助が、床をモップで掃除していると、ドアが鍵で開き、姉さんが、「あのやろう!」と言いながら入ってきた。
「どうしたんですか、姉さん?」
姉さんは、凧を見せた。
「見ろ、これ!」
凧には、大きな穴が開いていた。
「どうしたんですか?」
「あのやろうが、やったんだよ。」
「あのやろうって?」
「カラスの平吉だよ!」
「カラスのへいきち?なあんだ、お知り合いだったんですか?」
「お知り合いなわけないだろう!わたしが今、思いついて名づけたんだよ!」
「ばかみたい!」
「なんだと!つけちゃあ悪いの?」
「別に悪くはありませんけど。」
「けど、何だよ?」
「なんでもありません。」
姉さんは、凧をアニーにも見せた。
「見てくださいよ、これ。」
「カラスにやられたんですか?」
「はい。見事に!」
「鳥形だからかしら?」
「そうかもしれませんねえ。あいつの縄張りだったのかも知れません。」
「色がいけないのかも知れませんねえ?」
「色ですか?」
「黄色とかがいいんじゃないかしら?」
「黄色、そうですねえ。」
「それはもう駄目ですので、黄色のを頼みましょう。」
「ついでにパチンコもおねがいします。」
「パチンコって?」
「ゴムで石をはじくやつですよ。ビュ〜〜と!」
「ああ、あれですか。そんなのあるかなあ?どうするんですか?」
「カラスを撃つんですよ。」
福之助がやってきた。
「そんなことしたら、駄目ですよ〜!」
「なんでだよ?」
「カラスは怒らせると、復讐しますよ。」
「そうかよ?」
「人間の顔を、ちゃんと覚えているんですから。」
「そうなの?」
「テレビでやってました。」
「なんだ、テレビ知恵か。」
「だから、止めておいたほうがいいです。」
「分かった!」
「おや、随分と素直ですねえ?」
「飛ぶ奴には適わないからね。」
「姉さん、そんなことより、ちゃんと撮れたんですか?」
「あっ、そうか!」
姉さんは、カメラを凧から取り外した。
「アニーさん、これどうやって見るんですか?」
「パソコンに繋ぐと見れます。そのテレビでも観れます。」
「あっ、分かりました。じゃあ、アニーさんにも見れるようにテレビに繋げます。」
姉さんは、テレビに繋いだ。
「二十分は飛ばしていたので、何枚撮れているのかなあ?福之助!」
即座に福之助は答えた。
「五秒に一枚ですので、二百四十枚です。」
「二百四十枚もあれば、いいのがあるでしょう。」
姉さんは、一枚一枚テレビの画面に映し出した。見事に映っていた。
「フォトカイトって、面白いなあ〜!」
アニーも面白そうに見ていた。
「面白いですねえ〜。」
「こんな世界があったとは!」
テレビに映し出された写真は、どれもこれも素晴らしかった。
「この角度、この偶然の風景が素晴らしいなあ〜、芸術だ!」
「この風景は、狙っても撮れませんねえ〜。」
「狙ったら、絶対に撮れないでしょうねえ〜。」
二人は、仕事を忘れて見入っていた。
福之助も見ていた。
「どこが素晴らしいんですか?」
ロボットの福之助には、芸術性が分からなかった。姉さんは軽蔑した。
「あっ、そうか、機械のおまえには無理だな。」
「風景は、風景ですよ。他に何かあるんですか?」
「ああ〜、空しいやつだなあ〜。」
「空しくて結構です。」
アニーが思い出したように発言した。
「そうだ、高野山フォークフェスティバルをこれで撮ると、きっと面白いわ。」
「高野山フォークフェスティバルって、何ですか?」
「十月の初めの日曜日に、天軸山(てんじくさん)で行われる、歌の祭典なんですよ。」
「フォークフェスティバルって言うと、フォークソングの?」
「別にフォークソングって決まっているわけではないんです。みんなが楽しめれば、どんなジャンルの歌でもいいんですよ。」
「なんだか面白そうですね。」
「その模様を、上空から撮れば、素晴らしいと思いますよ。」
「ああ、それいいですねえ。」




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