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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第39回   うん、旨い!
高野山の鐘が八時を告げて鳴り響いていた。ほぼ同時に、食堂の棚にあった、弘法大師人形時計が、右手に持っている錫杖(しゃくじょう)を何度も持ち上げて、シャクシャクと鳴らしながら時を告げた。豊沢先生はびっくりした。
「お〜〜〜!」
龍次が説明した。
「われわれが作った、お土産用のカラクリオモチャです。」
先生は、しげしげと眺めていた。
「よくできてるねえ〜〜。」
「ありがとうございます。」
「売ってるの?」
「まだ、試作品です。もうすぐ完成します。」
「いいなあ、これ。うちのが、弘法大師が好きだから、喜びそうだなあ。」
「じゃあ、別の場所に綺麗な試作品がありますので、それを持って行ってください。」
「いいのかな?」
「試作品なので、まだ不具合がありますけど、それでよろしければ。」
「けっこう、けっこう!どうもありがとう!」
先生は、いたく御満悦だった。
「先生、定食とラーメンとカレーライスしかないんですけど。どういたしますか?」
「定食は何なの?」
「え〜〜っと。」龍次は、みっちゃんを呼んだ。
「みっちゃん!」
みっちゃんが出てきた。
「何でしょう?」
「今日の定食は何だったっけ?」
「山女魚(やまめ)の塩焼きに、川のり入り山いも鉄板焼です。」
それを聞いて、先生は喜んだ。
「いいねえ〜、ヘルシーで。それでいいよ。」
龍次が、みっちゃんに食券を手渡した。
「じゃあ、それ頼む。」
「はい。」
「大至急ね。」
「はい。」
食堂には、十人ほどの者が食事をしていた。
「先生、どこの席にしましょう?」
「どこでも同じでしょう?」
「そうなんですけど…」
「そこでいいよ。」
先生は、一番近い席に座った。龍次は謝った。
「すみません。粗末な椅子で。」
「いいんだよ、これで。」
龍次は、先生の左横に座った。一休さんは、先生の右横に座った。明子が、お盆に載せ、お茶を持って来た。一つ取り、先生の前に差し出した。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
それから、龍次と一休さんに差し出した。明子は、自分の分を取ると、一休さんの隣に座った。
定食は、みっちゃんが運び、すぐに出てきた。先生の前に、静かに丁寧に置いた。
「どうぞ。」
先生は、みっちゃんを微笑んで見ながら、「ありがとう。」と言い返した。
「なんだ、わたしだけ、食べるの?」
龍次と一休さんは、顔を見合わせた。
明子がフォローした。
「わたしたち、今食べ終えたばかりなんです。」
「ああ、そうなの。」
「わたしたち、ここで待っててもよろしいでしょうか?」
「なんだか、見てると食べづらいなあ…」
龍次が立ち上がった。
「そうだ、ドラゴンボールを掃除でもしておきましょう!」
「ああ、それは、ありがたいなあ。」
三人は食堂から出て行った。三人が出て行くと、先生は、お吸い物を口にした。
「うん、旨い!」
先生は、みっちゃんを呼んだ。
「みっちゃん!」
みっちゃんは、いそいそと出てきた。
「何でしょうか?」
「この、お吸い物は何ですか?何が入っているんですか?」
「湯葉と玉葱とサツマイモです。」
「サツマイモ?それは珍しいなあ〜。」



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