高野山の鐘が八時を告げて鳴り響いていた。ほぼ同時に、食堂の棚にあった、弘法大師人形時計が、右手に持っている錫杖(しゃくじょう)を何度も持ち上げて、シャクシャクと鳴らしながら時を告げた。豊沢先生はびっくりした。 「お〜〜〜!」 龍次が説明した。 「われわれが作った、お土産用のカラクリオモチャです。」 先生は、しげしげと眺めていた。 「よくできてるねえ〜〜。」 「ありがとうございます。」 「売ってるの?」 「まだ、試作品です。もうすぐ完成します。」 「いいなあ、これ。うちのが、弘法大師が好きだから、喜びそうだなあ。」 「じゃあ、別の場所に綺麗な試作品がありますので、それを持って行ってください。」 「いいのかな?」 「試作品なので、まだ不具合がありますけど、それでよろしければ。」 「けっこう、けっこう!どうもありがとう!」 先生は、いたく御満悦だった。 「先生、定食とラーメンとカレーライスしかないんですけど。どういたしますか?」 「定食は何なの?」 「え〜〜っと。」龍次は、みっちゃんを呼んだ。 「みっちゃん!」 みっちゃんが出てきた。 「何でしょう?」 「今日の定食は何だったっけ?」 「山女魚(やまめ)の塩焼きに、川のり入り山いも鉄板焼です。」 それを聞いて、先生は喜んだ。 「いいねえ〜、ヘルシーで。それでいいよ。」 龍次が、みっちゃんに食券を手渡した。 「じゃあ、それ頼む。」 「はい。」 「大至急ね。」 「はい。」 食堂には、十人ほどの者が食事をしていた。 「先生、どこの席にしましょう?」 「どこでも同じでしょう?」 「そうなんですけど…」 「そこでいいよ。」 先生は、一番近い席に座った。龍次は謝った。 「すみません。粗末な椅子で。」 「いいんだよ、これで。」 龍次は、先生の左横に座った。一休さんは、先生の右横に座った。明子が、お盆に載せ、お茶を持って来た。一つ取り、先生の前に差し出した。 「どうぞ。」 「ありがとう。」 それから、龍次と一休さんに差し出した。明子は、自分の分を取ると、一休さんの隣に座った。 定食は、みっちゃんが運び、すぐに出てきた。先生の前に、静かに丁寧に置いた。 「どうぞ。」 先生は、みっちゃんを微笑んで見ながら、「ありがとう。」と言い返した。 「なんだ、わたしだけ、食べるの?」 龍次と一休さんは、顔を見合わせた。 明子がフォローした。 「わたしたち、今食べ終えたばかりなんです。」 「ああ、そうなの。」 「わたしたち、ここで待っててもよろしいでしょうか?」 「なんだか、見てると食べづらいなあ…」 龍次が立ち上がった。 「そうだ、ドラゴンボールを掃除でもしておきましょう!」 「ああ、それは、ありがたいなあ。」 三人は食堂から出て行った。三人が出て行くと、先生は、お吸い物を口にした。 「うん、旨い!」 先生は、みっちゃんを呼んだ。 「みっちゃん!」 みっちゃんは、いそいそと出てきた。 「何でしょうか?」 「この、お吸い物は何ですか?何が入っているんですか?」 「湯葉と玉葱とサツマイモです。」 「サツマイモ?それは珍しいなあ〜。」
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