発明革命家の豊沢豊雄(とよさわとよお)先生は、とても大らかに朗らかに出てきた。 「久しぶりだね〜〜、保土ヶ谷くん、一休さん!」 それはそれは、嘘の無い屈託の無い笑顔だった。 保土ヶ谷龍次は、予期しない出来事に戸惑っていた。一休さんも同様だった。明子だけは、感激に涙していた。 「そこの婦人は、確か、一休さんの伴侶(はんりょ)の、明子さんだったかな?」 明子は感激した。 「そうです〜〜〜!」 「涙なんか流して、どうしたんですか?」 「先生に、お会いできて嬉しいんです!」 「それはそれは恐縮です。」 「はい!」 明子の声は、甲高く上ずっていた。 「まあまあまあ、リラックス、リラックス!」 球体の乗り物は、眩しく光っていた。龍次が尋ねた。 「これに乗ってこられたんですか?」 「そうだよ。」 「先生、お一人で?」 「そうだよ。これはねえ、一人乗りなんだよ。」 「先生が運転されたんですか?」 「そうだよ。運転といってもねえ、自動だから、目的地を押せば勝手に走ってくれるんだよ。」 「あ〜〜、そうなんですか。」 龍次も一休さんも明子も、始めて見る乗り物だった。 「三重のユーモア発明研究所の連中が作ったんだよ。ちょっと乗って見るってことで、ここまで来てしまったんだよ。乗ってるうちに、君のことを思い出してね。」 「ああそうなんですか。じゃあ、先生、ゆっくりしていってください。」 「そうだな、せっかく来たんだから、そうするかな。」 「これは、何という乗り物なんですか?」 「ドラゴンボール、かな?」 「ドラゴンボールですか?」 「いや、今わたしがつけたんだよ。名前は、まだ無いんだよ。なんとなく、ドラゴンに乗ってるみたいだったから、そう思ったんだよ。」 「ドラゴンボール。いい名前ですねえ〜。」 龍次は、奇妙な乗り物を、しげしげと眺めた。 「これ、車輪がありませんねえ?どうやって動くんですか?」 「球体ごと回転するんだよ。ボールのように。」 「え〜〜〜!?」 「触ってごらんよ。」 龍次は、おそるおそる近づき両手で触った。 「ゴムみたいですねえ。」 「ゴムだよ。それが回るんだよ。」 「じゃあ、中に乗ってる人間も回るんですか?」 「中に乗ってる人間は回らないよ。回ったら、目が回るじゃないか。」 「中は回らないんですか?」 「そうだよ。」 「それは不思議ですねえ。」 「そこんところは、企業秘密だから、言えないね。」 「特許なんですね?」 「そう、特許。」 「ドアのところはゴムではないよ。触ってごらん。」 龍次は、注意深く触った。 「金属ですね。」 「軽くて強いジュラルミンだよ。」 「じゃあ、この部分は接地しないんですか?」 「そうだね。進行方向のゴムでない両サイドは接地しないんだよ。」 「つまり、横方向には回転しないんですね。」 「そういうことです。」 「なるほど〜、よくできてますねえ〜〜。」 龍次は、一回りした。 「窓がありませんねえ、どうやって見るんですか?」 「そんなのはないよ。ボタンを押して座っていれば、勝手に目的地に行ってくれるんだよ。」 「危なくないんですか?」 「危なくはないよ。GPSとレーダーで見てるから。人間の目で運転するよりも安全だよ。」 「じゃあ、寝てても行けるんですね?」 「その通り。寝てても行けるよ。」 「でも、窓がないと、やっぱり不安じゃないんですか?」 「窓は無いけどねえ、レーダーで壁に映るんだよ外の景色が。」 「壁に、外の景色が映るんですか?」 「そうだよ。どの方向でもね。」 「それは凄いですねえ。」 「とっても快適でしたよ。」 「揺れないんですか?」 「少し揺れるけど、揺り篭みたいで気持ちいいよ。」 「凄い乗り物ですねえ。」 「どんなところだって走れるよ。どんな悪路でも、砂漠の上でも、雪の上でも、水の上でも。」 「水の上でも!?」 「車輪がないから、むしろ、そういうところのほうが得意なんだよ。」 「凄い乗り物ですねえ〜。」 豊沢先生は、大きく深呼吸をすると、周りを見渡した。 「いい空気だねえ〜、いいところだねえ〜ぇ!」 「先生、夕食は?」 「まだだよ。」 「うちの食堂の食事でよろしかったら、大した食材はありませんけど、料理人の腕はピカイチです。」 「ほ〜〜、それは、是非とも食してみたいな。」 「まだ、週に一回断食されているんですか?」 「ああ、やってるよ。」 「そうなんですかあ〜。こっちです。さあ、どうぞ。」 龍次と一休さんと明子は、豊沢先生を連れて、再び食堂に入って行った。
|
|