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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第38回   ドラゴンボール
発明革命家の豊沢豊雄(とよさわとよお)先生は、とても大らかに朗らかに出てきた。
「久しぶりだね〜〜、保土ヶ谷くん、一休さん!」
それはそれは、嘘の無い屈託の無い笑顔だった。
保土ヶ谷龍次は、予期しない出来事に戸惑っていた。一休さんも同様だった。明子だけは、感激に涙していた。
「そこの婦人は、確か、一休さんの伴侶(はんりょ)の、明子さんだったかな?」
明子は感激した。
「そうです〜〜〜!」
「涙なんか流して、どうしたんですか?」
「先生に、お会いできて嬉しいんです!」
「それはそれは恐縮です。」
「はい!」
明子の声は、甲高く上ずっていた。
「まあまあまあ、リラックス、リラックス!」
球体の乗り物は、眩しく光っていた。龍次が尋ねた。
「これに乗ってこられたんですか?」
「そうだよ。」
「先生、お一人で?」
「そうだよ。これはねえ、一人乗りなんだよ。」
「先生が運転されたんですか?」
「そうだよ。運転といってもねえ、自動だから、目的地を押せば勝手に走ってくれるんだよ。」
「あ〜〜、そうなんですか。」
龍次も一休さんも明子も、始めて見る乗り物だった。
「三重のユーモア発明研究所の連中が作ったんだよ。ちょっと乗って見るってことで、ここまで来てしまったんだよ。乗ってるうちに、君のことを思い出してね。」
「ああそうなんですか。じゃあ、先生、ゆっくりしていってください。」
「そうだな、せっかく来たんだから、そうするかな。」
「これは、何という乗り物なんですか?」
「ドラゴンボール、かな?」
「ドラゴンボールですか?」
「いや、今わたしがつけたんだよ。名前は、まだ無いんだよ。なんとなく、ドラゴンに乗ってるみたいだったから、そう思ったんだよ。」
「ドラゴンボール。いい名前ですねえ〜。」
龍次は、奇妙な乗り物を、しげしげと眺めた。
「これ、車輪がありませんねえ?どうやって動くんですか?」
「球体ごと回転するんだよ。ボールのように。」
「え〜〜〜!?」
「触ってごらんよ。」
龍次は、おそるおそる近づき両手で触った。
「ゴムみたいですねえ。」
「ゴムだよ。それが回るんだよ。」
「じゃあ、中に乗ってる人間も回るんですか?」
「中に乗ってる人間は回らないよ。回ったら、目が回るじゃないか。」
「中は回らないんですか?」
「そうだよ。」
「それは不思議ですねえ。」
「そこんところは、企業秘密だから、言えないね。」
「特許なんですね?」
「そう、特許。」
「ドアのところはゴムではないよ。触ってごらん。」
龍次は、注意深く触った。
「金属ですね。」
「軽くて強いジュラルミンだよ。」
「じゃあ、この部分は接地しないんですか?」
「そうだね。進行方向のゴムでない両サイドは接地しないんだよ。」
「つまり、横方向には回転しないんですね。」
「そういうことです。」
「なるほど〜、よくできてますねえ〜〜。」
龍次は、一回りした。
「窓がありませんねえ、どうやって見るんですか?」
「そんなのはないよ。ボタンを押して座っていれば、勝手に目的地に行ってくれるんだよ。」
「危なくないんですか?」
「危なくはないよ。GPSとレーダーで見てるから。人間の目で運転するよりも安全だよ。」
「じゃあ、寝てても行けるんですね?」
「その通り。寝てても行けるよ。」
「でも、窓がないと、やっぱり不安じゃないんですか?」
「窓は無いけどねえ、レーダーで壁に映るんだよ外の景色が。」
「壁に、外の景色が映るんですか?」
「そうだよ。どの方向でもね。」
「それは凄いですねえ。」
「とっても快適でしたよ。」
「揺れないんですか?」
「少し揺れるけど、揺り篭みたいで気持ちいいよ。」
「凄い乗り物ですねえ。」
「どんなところだって走れるよ。どんな悪路でも、砂漠の上でも、雪の上でも、水の上でも。」
「水の上でも!?」
「車輪がないから、むしろ、そういうところのほうが得意なんだよ。」
「凄い乗り物ですねえ〜。」
豊沢先生は、大きく深呼吸をすると、周りを見渡した。
「いい空気だねえ〜、いいところだねえ〜ぇ!」
「先生、夕食は?」
「まだだよ。」
「うちの食堂の食事でよろしかったら、大した食材はありませんけど、料理人の腕はピカイチです。」
「ほ〜〜、それは、是非とも食してみたいな。」
「まだ、週に一回断食されているんですか?」
「ああ、やってるよ。」
「そうなんですかあ〜。こっちです。さあ、どうぞ。」
龍次と一休さんと明子は、豊沢先生を連れて、再び食堂に入って行った。


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