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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第36回   空気を読めるプログラム
「ただいま〜〜!」
「あら、お帰りなさい。」
紋次郎が帰ると、ヨコタンは台所で後片付けをしていた。
「食事は、もう終わったんですか?」
「今、終わったところよ。」
「そうですか。」
「ろうそくの気球は、どうなったの?」
「カラスが落としてくれました。」
「カラスが?」
「はい。カラスが突いて落としてくれたんです。」
「へ〜〜ぇ、そんなことがあるの?」
「はい、そんなことがあったんです。」
「そんな不思議なことがあるの。わたしも見たかったわ。」
「そうだろうと思って、記録しておきました。」
「えっ、そうなの?」
「見たいですか?」
「見たいわ。」
「今、見たいですか?」
「今、見れるの?」
「はい、見れます。室内の明かりを消してください。」
ヨコタンは、台所の電灯を消した。紋次郎の額から光が出て、白い壁に映った。
「これです。」
「わ〜〜、ほんとだ!」
それは、あっと言う間の出来事だった。
「こんなことがあるんだねえ…」
「わたしも、びっくりしました。」
「ロボットのあなたも?」
「はい。もう一度見ますか?」
「もういいわ。」
ヨコタンは、電灯を点けた。
「紋ちゃん、記録するなんて、あなた気が利いてるわねえ。」
「変わったことは、記録するようにプログラムされているんです。」
「そうなの。大したもんだわ。」
科学者のヨコタンの目は、好奇心で輝き、鋭く紋次郎を観察していた。
「そんなに、見つめないでください。」
「…そのセリフも、このタイミングでプログラムされているんだ?」
「そうです。」
「大したもんだなあ…」
「そんなに、見つめないでください。」
「あっ、ごめんごめん。あなた、どこのメーカーのロボットなの?」
「わたしですか?」
「あなたを製造した会社?」
「思いやりヒューマン研究所です。」
「思いやりヒューマン研究所っていうと、浦賀源内先生の?」
「はい、そうです。」
「え〜〜〜〜ぇ、そうなの!」
「どうかしたんですか?」
「やっぱり、浦賀源内先生は、大したもんだわ。」
「ありがとうございます。」
「あなたって、ちゃんと空気が読めるロボットなのね。」
「はい。空気の読めるプログラムが組み込まれています。」
「大したもんだわ。」
「ありがとうございます。」
「でも、そんなに空気が読めると、人に騙されることはないの?」
「…人に騙される、ですか?」
「人に騙されたことはないの?」
「…あります。」
「やっぱりね。」
「一度だけです。」
「誰に騙されたの?」
「あの二人です。」
「あの二人?」
「ショーケンさんと、…いや、何でもありません!」
「ショーケンさんって、あのショーケンさん、この村にいる?」
「違います、違います!別のショーケンさんです!」
「その発言も、空気を読めるプログラム?」
「違います、違います!ただの勘違いです!、人違いです!」
紋次郎は、なぜかうろたえていた。
「わたし、これからボディの掃除をします。」
なぜか、甲高い声になっていた。
「お風呂を使わせていただきます。」
「お風呂に入るの?」
「入りません。そんなことをしたら、ショートします。ボディを拭くだけです。」
「どうぞ、使って。」
紋次郎は、自分の部屋に行くと、大きなタオルを持って戻ってきた。そして、お風呂の中に入って行った。紋次郎は、大きなタオルを、水道を開いて濡らし絞ると、ボディを拭き始めた。お風呂のドアは開いていたので、ヨコタンは覗き込んだ。
「背中、拭いてあげようか?」
「けっこうです。」
紋次郎は、三百六十度回転する腕を背中に回して、起用に拭き始めた。ヨコタンはびっくりした。
「わ〜〜〜、すご〜〜い!」




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