「ただいま〜〜!」 「あら、お帰りなさい。」 紋次郎が帰ると、ヨコタンは台所で後片付けをしていた。 「食事は、もう終わったんですか?」 「今、終わったところよ。」 「そうですか。」 「ろうそくの気球は、どうなったの?」 「カラスが落としてくれました。」 「カラスが?」 「はい。カラスが突いて落としてくれたんです。」 「へ〜〜ぇ、そんなことがあるの?」 「はい、そんなことがあったんです。」 「そんな不思議なことがあるの。わたしも見たかったわ。」 「そうだろうと思って、記録しておきました。」 「えっ、そうなの?」 「見たいですか?」 「見たいわ。」 「今、見たいですか?」 「今、見れるの?」 「はい、見れます。室内の明かりを消してください。」 ヨコタンは、台所の電灯を消した。紋次郎の額から光が出て、白い壁に映った。 「これです。」 「わ〜〜、ほんとだ!」 それは、あっと言う間の出来事だった。 「こんなことがあるんだねえ…」 「わたしも、びっくりしました。」 「ロボットのあなたも?」 「はい。もう一度見ますか?」 「もういいわ。」 ヨコタンは、電灯を点けた。 「紋ちゃん、記録するなんて、あなた気が利いてるわねえ。」 「変わったことは、記録するようにプログラムされているんです。」 「そうなの。大したもんだわ。」 科学者のヨコタンの目は、好奇心で輝き、鋭く紋次郎を観察していた。 「そんなに、見つめないでください。」 「…そのセリフも、このタイミングでプログラムされているんだ?」 「そうです。」 「大したもんだなあ…」 「そんなに、見つめないでください。」 「あっ、ごめんごめん。あなた、どこのメーカーのロボットなの?」 「わたしですか?」 「あなたを製造した会社?」 「思いやりヒューマン研究所です。」 「思いやりヒューマン研究所っていうと、浦賀源内先生の?」 「はい、そうです。」 「え〜〜〜〜ぇ、そうなの!」 「どうかしたんですか?」 「やっぱり、浦賀源内先生は、大したもんだわ。」 「ありがとうございます。」 「あなたって、ちゃんと空気が読めるロボットなのね。」 「はい。空気の読めるプログラムが組み込まれています。」 「大したもんだわ。」 「ありがとうございます。」 「でも、そんなに空気が読めると、人に騙されることはないの?」 「…人に騙される、ですか?」 「人に騙されたことはないの?」 「…あります。」 「やっぱりね。」 「一度だけです。」 「誰に騙されたの?」 「あの二人です。」 「あの二人?」 「ショーケンさんと、…いや、何でもありません!」 「ショーケンさんって、あのショーケンさん、この村にいる?」 「違います、違います!別のショーケンさんです!」 「その発言も、空気を読めるプログラム?」 「違います、違います!ただの勘違いです!、人違いです!」 紋次郎は、なぜかうろたえていた。 「わたし、これからボディの掃除をします。」 なぜか、甲高い声になっていた。 「お風呂を使わせていただきます。」 「お風呂に入るの?」 「入りません。そんなことをしたら、ショートします。ボディを拭くだけです。」 「どうぞ、使って。」 紋次郎は、自分の部屋に行くと、大きなタオルを持って戻ってきた。そして、お風呂の中に入って行った。紋次郎は、大きなタオルを、水道を開いて濡らし絞ると、ボディを拭き始めた。お風呂のドアは開いていたので、ヨコタンは覗き込んだ。 「背中、拭いてあげようか?」 「けっこうです。」 紋次郎は、三百六十度回転する腕を背中に回して、起用に拭き始めた。ヨコタンはびっくりした。 「わ〜〜〜、すご〜〜い!」
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