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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第35回   フレエネミイ
その頃、自然薯の龍次は、横浜の六角橋商店街のファミレスにいた。
「蝶子ちゃん、今日はどうもありがとう。」
「いいえ、どういたしまして。」
「どうだった?」
「仕事?」
「そう。」
「なんだか、すっきりしたわ。やっぱり外で働くと気持ちいいね。」
「今日は、天気がよかったからね。」
「きっと、龍次さんの日頃の行いがいいのね。」
龍次が外の景色を見ながら呟いた。
「この時間の、夕方過ぎの景色ってのは、なんだかいつでもノスタルジックな気分にしてくれるねえ…、不思議だなあ。」
「龍次さんって、意外とロマンティストなのね。」
「年のせいかな。」
「そんなことは、気分の問題だわ。」
「年のこと?」
「そう。若いと思えば、いつまでも若いわ。」
「そうだね。いいこと言うじゃん。」
「実は、わたしも友達に言われたの。」
「ああ、そう。蝶子ちゃんも、そういうことがあるんだ?」
「あるわよ〜、顔に出さないだけよ。気分が落ち込んで、何もかも嫌になるときが。」
「そういうときには、どうするの?」
「友人と会うの、話をしてると忘れてしまうわ。」
「いい友人だねえ。」
「龍次さんは?」
「もっぱら、酒飲んで、それで終わり。」
「それで、嫌なことを忘れちゃうんだ。」
「そういうことだね。」
「酒が飲める人はいいよね。」
「蝶子ちゃんは飲めないの?」
「わたしは、あまり飲めないの。気分が良くならずに、悪くなるの。」
「それは、お気の毒さま。」
「だから、友人と好きなものを食べるの。」
「ふ〜〜ん。甘いもの?」
「そうね。甘いものが多いわね。」
「そう…」
龍次はメニューを広げて覗き込んだ。
「じゃあ、何か甘いもの食べる?」
「今日はいいわ。」
「遠慮しなくてもいいんだよ。」
「これから、その友人に逢うの。」
「ああ、そうなんだ。男の人?」
「そう。」
「恋人?」
「そんなんじゃないわ。ただの友人。」
「何時に逢うの?」
「八時。」
龍次は腕時計を見た。ちょうど七時だった。
「どこで会うの、送って行くよ。」
「横浜駅東口。」
「ああ、そう。じゃあ送って行くよ。」
「ありがとう。」
「まだ、ちょっと早いね。」
「横浜駅は、すぐそこだもんね。」
龍次は、その友人に、ちょっと嫉妬していた。
「最近、フレエネミイってのが多いんだって。」
「なあに、それ?」
「フレンドと、エネミイの合成語。アメリカで流行ってるらしいけど。」
「エネミイって、どういう意味?」
「敵っていう意味だよ。フレエネミイは、表面はフレンドなんだけど、本当は敵で、嫉妬して恨んでいるんだよ。つまり、笑って友人ぶっているんだけど、本当は地獄に突き落とそうと思っているの。」
「わ〜〜、怖い。」
「見分け方があるんだよ。」
「見分け方?」
「人の話だけ親切に聞いて、自分のことは何も話さないんだよ。」
「あ〜〜、そういう人、いるわ!」
「その友人も、そうなんじゃないの?」
蝶子は、目玉を左上に寄せて考え始めた。一流大学出のインテリの龍次は、人が思い出すときには、左脳を使うので目玉が自然に左上を向き、嘘をつくときには、右脳を使うので自然に右上を向くことを知っていた。
「ただの友人よ。そんなんじゃないわ。」
「僕の時代や蝶子ちゃんの時代は、そういう男女関係って、普通にあったけど、異性の親友とかいてね。今は、そういうの無いみたいだねえ。異性の友人というと、すぐに彼氏や彼女になってしまう。変だよね。」
「きっと、心に余裕がないんじゃない。野獣化してるのよ。きっと、本能だけで生きているのよ。」
「なるほど。」
「心が未熟なのよ。」
「なるほどね。」
「心が、ロックンロールしてないのよ。」
「はっ?」
「表面はクールでおしゃれなんだけど、心はねちねちした、惚れた恋したの演歌なの。」
「なるほど〜〜。心はクールじゃないってことか。」
「そういうこと。」
「蝶子ちゃんは、蝶クールだもんな。」
「そう?」
「さすが、パンクロッカー!」
「わたし、女の腐ったような、ねちっこいの大嫌いなの。」
龍次は、クールに笑った。
「だって、クールじゃないと生きて行けないわ。めそめそしてたら、病気になっちゃうわ。」
「そうだねえ。」



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