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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第34回   おんぼろ月夜
前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、窓などはない銀色の車体が、ログハウスの前の道を山に向かって、ゆっくりと走っていた。高野山パトロール隊の巡回威嚇ロボット・ゴン太だった。太鼓をゴンゴンと打ちながら、「夜になると動物が出てきます。気をつけましょう。」とアナウンスしながら走っていた。車体の上には、きょろきょろしながら、狸の親子が乗っていた。
「福之助、見ろよ。ロボットカーの上に狸が乗っかってるよ。面白いなあ〜。」
福之助が来て、窓から覗いた。
「ほんとうだ、面白いなあ〜。」
「やっぱり狸は、頭がいいんだな。」
「そうですねえ。」
アニーもやって来た。
「わ〜〜、面白い。」
姉さんは、しきりに笑っていた。
「動物を追い払うロボットに、動物が乗ってるよ。あ〜〜、可笑しい!」
高野山の風は、とんとん拍子に流れていた。薄暗い空に、月が顔を出していた。
「今日は、なんだか、おんぼろ月夜だなあ〜。」
「おんぼろ月夜?」
「ごめん、ごめん!おぼろ月夜の間違い。」
「姉さん、わざと間違えたでしょう!?」
「分かった?」
「みえみえですよ。」
「あんたも、頭良くなったねえ〜。」
「からかわないでください。ロボットは真面目なんですから。」
「ちょっと、退屈だったから。」
「わたしは、オモチャではありません。」
「ごめん、ごめん!つい、口が滑っちゃったんだよ。」
「口が滑った?姉さんの口は、スキーみたいに滑るんですか?」
「おまえ、何言ってるんだよ?」
「姉さん、もっと真面目に生きてくださいよ。」
「わたしは、いつでも真面目だよ。」
「それで?」
「ロボットみたいにはなれないよ。わたしは人間だから。」
「姉さんは、ふざけすぎですよ。」
きょん姉さんは、突然、「空きあり〜〜!」と言って、福之助の頭を手の平で叩き、逃げるように素早く、テーブルの前に座った。
「はたして、今日の高野山のニュースは、っと?」
姉さんは、テレビを点け、高野山放送に切り替えた。

 今朝八時半頃 ガソリン猿人の暴走車が 高野山に侵入しました
 直ちに いかミサイルが発射され 暴走車は確保静止されました
 その後 暴走車は メリーゴーランドのものと判明されました
 不思議なことに メリーゴーランド本人は行方不明 いまだに発見されておりません
 目撃者のはなしによると
 いかミサイルによって 停止させられた直後に 白煙が車体からあがったそうです
 まだ メリーゴーランド本人は高野山内に潜んでる可能性がありますので 注意してください

姉さんは、朝方のことを思い出していた。
「メリーゴーランド…」
姉さんは、洋服掛けにかけてある上着を取りに行き、内ポケットから紙を取り出し、テーブルに戻ってから、折り畳んである紙を見開いた。
「…やっぱり、メリーゴーランドだわ。」
アニーがやってきた。
「どうしたんですか?」
姉さんは、その紙を見せた。
「今朝、拾った紙です。」
アニーは注意深く見た。
「確かに、メリーゴーランドって書いてあるわね。」
「あの時、すれ違った男かしら?」
「そうかも知れませんね。」
アニーが、紙に書いてあるものを読み始めた。

 ブルーの空 はじける絶望
  僕らには これしかなく ただ真っ只中に突っ走るしかなく
    闇雲に ひた走るしかなく 希望のない明日を ぶっ飛ばしに行くしかなく
 僕の心は どこにあるのだろう ここにはなく ここには絶望しかなく
  ただ ここには乾いた涙しかなく 泣くこともできない僕しかなく
    闇雲に叫び 闇に向かって走る 僕しかなく! メリーゴーランド!



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