前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、窓などはない銀色の車体が、ログハウスの前の道を山に向かって、ゆっくりと走っていた。高野山パトロール隊の巡回威嚇ロボット・ゴン太だった。太鼓をゴンゴンと打ちながら、「夜になると動物が出てきます。気をつけましょう。」とアナウンスしながら走っていた。車体の上には、きょろきょろしながら、狸の親子が乗っていた。 「福之助、見ろよ。ロボットカーの上に狸が乗っかってるよ。面白いなあ〜。」 福之助が来て、窓から覗いた。 「ほんとうだ、面白いなあ〜。」 「やっぱり狸は、頭がいいんだな。」 「そうですねえ。」 アニーもやって来た。 「わ〜〜、面白い。」 姉さんは、しきりに笑っていた。 「動物を追い払うロボットに、動物が乗ってるよ。あ〜〜、可笑しい!」 高野山の風は、とんとん拍子に流れていた。薄暗い空に、月が顔を出していた。 「今日は、なんだか、おんぼろ月夜だなあ〜。」 「おんぼろ月夜?」 「ごめん、ごめん!おぼろ月夜の間違い。」 「姉さん、わざと間違えたでしょう!?」 「分かった?」 「みえみえですよ。」 「あんたも、頭良くなったねえ〜。」 「からかわないでください。ロボットは真面目なんですから。」 「ちょっと、退屈だったから。」 「わたしは、オモチャではありません。」 「ごめん、ごめん!つい、口が滑っちゃったんだよ。」 「口が滑った?姉さんの口は、スキーみたいに滑るんですか?」 「おまえ、何言ってるんだよ?」 「姉さん、もっと真面目に生きてくださいよ。」 「わたしは、いつでも真面目だよ。」 「それで?」 「ロボットみたいにはなれないよ。わたしは人間だから。」 「姉さんは、ふざけすぎですよ。」 きょん姉さんは、突然、「空きあり〜〜!」と言って、福之助の頭を手の平で叩き、逃げるように素早く、テーブルの前に座った。 「はたして、今日の高野山のニュースは、っと?」 姉さんは、テレビを点け、高野山放送に切り替えた。
今朝八時半頃 ガソリン猿人の暴走車が 高野山に侵入しました 直ちに いかミサイルが発射され 暴走車は確保静止されました その後 暴走車は メリーゴーランドのものと判明されました 不思議なことに メリーゴーランド本人は行方不明 いまだに発見されておりません 目撃者のはなしによると いかミサイルによって 停止させられた直後に 白煙が車体からあがったそうです まだ メリーゴーランド本人は高野山内に潜んでる可能性がありますので 注意してください
姉さんは、朝方のことを思い出していた。 「メリーゴーランド…」 姉さんは、洋服掛けにかけてある上着を取りに行き、内ポケットから紙を取り出し、テーブルに戻ってから、折り畳んである紙を見開いた。 「…やっぱり、メリーゴーランドだわ。」 アニーがやってきた。 「どうしたんですか?」 姉さんは、その紙を見せた。 「今朝、拾った紙です。」 アニーは注意深く見た。 「確かに、メリーゴーランドって書いてあるわね。」 「あの時、すれ違った男かしら?」 「そうかも知れませんね。」 アニーが、紙に書いてあるものを読み始めた。
ブルーの空 はじける絶望 僕らには これしかなく ただ真っ只中に突っ走るしかなく 闇雲に ひた走るしかなく 希望のない明日を ぶっ飛ばしに行くしかなく 僕の心は どこにあるのだろう ここにはなく ここには絶望しかなく ただ ここには乾いた涙しかなく 泣くこともできない僕しかなく 闇雲に叫び 闇に向かって走る 僕しかなく! メリーゴーランド!
|
|