ショーケンと紋次郎が、歌いながら手を繋いで仲良く歩いていると、保土ヶ谷龍次がやって来た。 「やあ、お二人さん。どうしたの?」 紋次郎が答えた。 「ショーケンさんが、男同士、仲良く手を繋いで帰ろうと言ったので、こうやって帰るところです。」 ショーケンは笑っていた。 「龍次さん、四輪の電動自転車あずけておきました。特殊なので、修理に時間がかかるそうです。」 「どのくらい?」 「一週間くらいとか。」 「ああ、そうですか。」 紋次郎が、龍次に尋ねた。 「帰ってもよろしいですか?」 「ああ、いいよ。」 ショーケンと紋次郎は、また手を繋いで歩き出した。龍次は笑っていた。そして、食堂に向かって歩き出した。 紋次郎がショーケンに尋ねた。 「あの四輪自転車、ショーケンさんが自転車屋さんに持って行ったんですか?」 「そうだよ。」 「なるほど。」 前方には、なだらかな傾斜の天軸山(てんじくさん)が見えていた。中腹に山小屋があり、電灯が山小屋を照らしていた。ウサギが二匹跳ねていた。 「おっ、ウサギだ。」 ショーケンの声に紋次郎も見た。 「ウサギです。ショーケンさん、目がいいんですね。」 「まあね。」 「あれは、ナカとヨシです。いつも、この時間になると、あの山小屋に行くんですよ。」 「ああ、そう。」 「山の管理人がいて、餌を与えているんです。」 「へぇ〜〜え。おまえ、やけに詳しいねえ。」 「さっき、ヨコタンさんに教えてもらったんです。」 「ヨコタンに?」 「はい。」 山頂近くで、大きな風車が回っていた。 「あの風車、発電用のやつだろう?」 「はい、そうです。人間村にも供給されてます。」 「ああ、そうなんだ。あれ、強風のとき倒れたりしないのかねえ?」 「倒れる前に、倒れるから大丈夫なんです。」 「倒れる前に、倒れる?」 「自分で倒れるんです。」 「ああ、なるほど。」 紋次郎は立ち止まった。 「わたしは、左方向なので、ここで失礼します。」 「えっ、おまえ、こっちなの?」 「はい。今日から、クリスタル・ヨコタンさんと一緒になりました。」 「え〜〜〜、彼女と!?」 「どうしたんですか?」 「…いや、何でもない。」 紋次郎は、頭を下げた。 「じゃあ、また明日。くれぐれもさようなら。」 「くれぐれもさようなら?」 「おかしいですか?」 「おかしいよ。くれぐれは要らないよ。さようならだけでいいんだよ。」 「大変、失礼しました。それでは、さようなら。」 「ああ、さいなら。」 ショーケンは、やってくる秋の風に寂しさを感じ、何気に上空を見上げた。はぐれ雲が一匹、自由に悠々と大空を泳いでいた。 「自由ってのは、寂しいんだなあ…」
山小屋の前では、天軸山の管理人の鎌田が、ウサギに餌を与えていた。餌を与え終えると、山小屋のドアを開けた。 「日が暮れると寒くなるぞ、早く入れ。」 鎌田は、ウサギと一緒に山小屋に入った。中は薄暗かったが、なぜか電灯は点けなかった。ウサギたちは、藁のしかれてある場所に行った。 鎌田は、人間村の見える窓辺にある椅子に座り込んだ。カーテンを静かに開けると、近くのテーブルに無造作に置いてあった双眼鏡を取った。 そして、人間村を覗きはじめた。
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