20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第32回   覗き魔
ショーケンと紋次郎が、歌いながら手を繋いで仲良く歩いていると、保土ヶ谷龍次がやって来た。
「やあ、お二人さん。どうしたの?」
紋次郎が答えた。
「ショーケンさんが、男同士、仲良く手を繋いで帰ろうと言ったので、こうやって帰るところです。」
ショーケンは笑っていた。
「龍次さん、四輪の電動自転車あずけておきました。特殊なので、修理に時間がかかるそうです。」
「どのくらい?」
「一週間くらいとか。」
「ああ、そうですか。」
紋次郎が、龍次に尋ねた。
「帰ってもよろしいですか?」
「ああ、いいよ。」
ショーケンと紋次郎は、また手を繋いで歩き出した。龍次は笑っていた。そして、食堂に向かって歩き出した。
紋次郎がショーケンに尋ねた。
「あの四輪自転車、ショーケンさんが自転車屋さんに持って行ったんですか?」
「そうだよ。」
「なるほど。」
前方には、なだらかな傾斜の天軸山(てんじくさん)が見えていた。中腹に山小屋があり、電灯が山小屋を照らしていた。ウサギが二匹跳ねていた。
「おっ、ウサギだ。」
ショーケンの声に紋次郎も見た。
「ウサギです。ショーケンさん、目がいいんですね。」
「まあね。」
「あれは、ナカとヨシです。いつも、この時間になると、あの山小屋に行くんですよ。」
「ああ、そう。」
「山の管理人がいて、餌を与えているんです。」
「へぇ〜〜え。おまえ、やけに詳しいねえ。」
「さっき、ヨコタンさんに教えてもらったんです。」
「ヨコタンに?」
「はい。」
山頂近くで、大きな風車が回っていた。
「あの風車、発電用のやつだろう?」
「はい、そうです。人間村にも供給されてます。」
「ああ、そうなんだ。あれ、強風のとき倒れたりしないのかねえ?」
「倒れる前に、倒れるから大丈夫なんです。」
「倒れる前に、倒れる?」
「自分で倒れるんです。」
「ああ、なるほど。」
紋次郎は立ち止まった。
「わたしは、左方向なので、ここで失礼します。」
「えっ、おまえ、こっちなの?」
「はい。今日から、クリスタル・ヨコタンさんと一緒になりました。」
「え〜〜〜、彼女と!?」
「どうしたんですか?」
「…いや、何でもない。」
紋次郎は、頭を下げた。
「じゃあ、また明日。くれぐれもさようなら。」
「くれぐれもさようなら?」
「おかしいですか?」
「おかしいよ。くれぐれは要らないよ。さようならだけでいいんだよ。」
「大変、失礼しました。それでは、さようなら。」
「ああ、さいなら。」
ショーケンは、やってくる秋の風に寂しさを感じ、何気に上空を見上げた。はぐれ雲が一匹、自由に悠々と大空を泳いでいた。
「自由ってのは、寂しいんだなあ…」

山小屋の前では、天軸山の管理人の鎌田が、ウサギに餌を与えていた。餌を与え終えると、山小屋のドアを開けた。
「日が暮れると寒くなるぞ、早く入れ。」
鎌田は、ウサギと一緒に山小屋に入った。中は薄暗かったが、なぜか電灯は点けなかった。ウサギたちは、藁のしかれてある場所に行った。
鎌田は、人間村の見える窓辺にある椅子に座り込んだ。カーテンを静かに開けると、近くのテーブルに無造作に置いてあった双眼鏡を取った。
そして、人間村を覗きはじめた。



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 31446