バス停の方から、婦人と男がやってきた。男は、婦人の後を追うように歩いていた。婦人は、一休さんの妻だった。 「あなた、どうしたのこんなところで?」 「ちょっとな。こいつの実験をしてたんだよ。」 一休さんは、ろうそく熱気球を見せた。それから、男を見た。若い男だった。 「そちらの方は?」 「橋本で、人間村に行きたいというので、連れてきたんですよ。」 「ああ、そう。」 「保土ヶ谷さん、いるかしら?」 「いるとは思うけど。」 「集会所かな?」 「さ〜〜、どうだろう?」 「とにかく行ってみるわ。」 婦人は、若い男を連れて行こうとした。 「ちょっと待った、明子!」 婦人は立ち止まった。 「僕も行くよ。」 ショーケンは紋次郎の肩を、ポンと叩いた。 「じゃあ、俺たちも帰るかな。」 紋次郎は素直に、「はい。」と返事をした。 真由美が、「もう帰っちゃうの?」とショーケンに言った。 「また明日!」 「じゃあ、また明日ね〜!」 一休さんを先頭に、四人と一体のロボットは、人間村に向かって歩き出した。 いつまでも、真由美が手を振っていた。 「また明日ね〜〜!」 仕方なく、ショーケンも、ときどき振り返って手を振っていた。茜色の雲に向かって、カラスが、カ〜カ〜と鳴きながら飛んでいた。 一休さんは、人間村の食堂の前で立ち止まった。 「電話してみよう。」 上着の内ポケットから、携帯電話を取り出した。 「あっ、もしもし、保土ヶ谷さん…」 『…』 「人間村に入りたいという若い人が来てるんですけど…」 『…』 「分かりました。待ってます。」 妻の明子が尋ねた。 「どうしました?」 「食堂で待ってろって。」 みんなは、食堂に入って行った。食堂では、十人ほどの者が食事をしていた。 一休さんが、食堂のみっちゃんに声をかけた。 「さっちゃん、定食は何?」 「やまめ塩焼きに、川のり入り山いも鉄板焼です。」 「じゃあ、それ食べようかな。おまえ何にする?」 「わたしも、それでいいわ。あっ、そうだ。この人のも。」 明子は、若い男の顔を覗いた。 「定食でいい?」 「…はい。」 明子は手持ちの食券を渡した。 「あの〜〜う、いくらなんでしょうか?」 「今日は、おごりよ。お客様だから。」 「えっ?」 「いいのよ。気にしないで。」 明子は、微笑んでみせた。 「この食券を、あそこの女の人に渡すの。」 「…はい。」 注文を終えると、三人は席に着いた。ショーケンと紋次郎は、突っ立っていた。紋次郎がペコリと頭を下げた。 「わたしは、食べないので帰ります。」 一休さんが返事をした。 「あっ、そう。」 「何か用がありますか?」 「別にないよ。」 「じゃあ、さようなら。」 ショーケンが止めた。 「ちょっと待て!俺も帰るよ。」 「ああ、そうですか。」 「男同士で帰ろうぜ。」 「男同士で?」 「おまえ、男だろう?」 「わたしはロボットです。男でも女でもありません。」 「あ〜〜、そうなの?男ロボットとか女ロボットとかはないの?」 「そんなのはありません。」 「ああ、そう。」 「じゃあ、お手々つないで帰ろうか!」 「はい。」 ショーケンが、食堂のみっちゃんに声をかけた。 「みっちゃん、栗御飯おいしかったよ。どうもありがとう!」 みっちゃんは、笑顔で振り向いた。 「どういたしまして。」 ショーケンと紋次郎は、手を繋いで、食堂から出て行った。紋次郎は、歌っていた。食堂の軒先で、糸で吊るされた風電池で光る蛍おもちゃが、くるくると風で舞っていた。
おててつないで のみちをゆけば〜♪ みんなかわい ことりになって うたをうたえば くつがなる〜♪ はれたみそらに くつがなる〜♪
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