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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第31回   おててつないで
バス停の方から、婦人と男がやってきた。男は、婦人の後を追うように歩いていた。婦人は、一休さんの妻だった。
「あなた、どうしたのこんなところで?」
「ちょっとな。こいつの実験をしてたんだよ。」
一休さんは、ろうそく熱気球を見せた。それから、男を見た。若い男だった。
「そちらの方は?」
「橋本で、人間村に行きたいというので、連れてきたんですよ。」
「ああ、そう。」
「保土ヶ谷さん、いるかしら?」
「いるとは思うけど。」
「集会所かな?」
「さ〜〜、どうだろう?」
「とにかく行ってみるわ。」
婦人は、若い男を連れて行こうとした。
「ちょっと待った、明子!」
婦人は立ち止まった。
「僕も行くよ。」
ショーケンは紋次郎の肩を、ポンと叩いた。
「じゃあ、俺たちも帰るかな。」
紋次郎は素直に、「はい。」と返事をした。
真由美が、「もう帰っちゃうの?」とショーケンに言った。
「また明日!」
「じゃあ、また明日ね〜!」
一休さんを先頭に、四人と一体のロボットは、人間村に向かって歩き出した。
いつまでも、真由美が手を振っていた。
「また明日ね〜〜!」
仕方なく、ショーケンも、ときどき振り返って手を振っていた。茜色の雲に向かって、カラスが、カ〜カ〜と鳴きながら飛んでいた。
一休さんは、人間村の食堂の前で立ち止まった。
「電話してみよう。」
上着の内ポケットから、携帯電話を取り出した。
「あっ、もしもし、保土ヶ谷さん…」
『…』
「人間村に入りたいという若い人が来てるんですけど…」
『…』
「分かりました。待ってます。」
妻の明子が尋ねた。
「どうしました?」
「食堂で待ってろって。」
みんなは、食堂に入って行った。食堂では、十人ほどの者が食事をしていた。
一休さんが、食堂のみっちゃんに声をかけた。
「さっちゃん、定食は何?」
「やまめ塩焼きに、川のり入り山いも鉄板焼です。」
「じゃあ、それ食べようかな。おまえ何にする?」
「わたしも、それでいいわ。あっ、そうだ。この人のも。」
明子は、若い男の顔を覗いた。
「定食でいい?」
「…はい。」
明子は手持ちの食券を渡した。
「あの〜〜う、いくらなんでしょうか?」
「今日は、おごりよ。お客様だから。」
「えっ?」
「いいのよ。気にしないで。」
明子は、微笑んでみせた。
「この食券を、あそこの女の人に渡すの。」
「…はい。」
注文を終えると、三人は席に着いた。ショーケンと紋次郎は、突っ立っていた。紋次郎がペコリと頭を下げた。
「わたしは、食べないので帰ります。」
一休さんが返事をした。
「あっ、そう。」
「何か用がありますか?」
「別にないよ。」
「じゃあ、さようなら。」
ショーケンが止めた。
「ちょっと待て!俺も帰るよ。」
「ああ、そうですか。」
「男同士で帰ろうぜ。」
「男同士で?」
「おまえ、男だろう?」
「わたしはロボットです。男でも女でもありません。」
「あ〜〜、そうなの?男ロボットとか女ロボットとかはないの?」
「そんなのはありません。」
「ああ、そう。」
「じゃあ、お手々つないで帰ろうか!」
「はい。」
ショーケンが、食堂のみっちゃんに声をかけた。
「みっちゃん、栗御飯おいしかったよ。どうもありがとう!」
みっちゃんは、笑顔で振り向いた。
「どういたしまして。」
ショーケンと紋次郎は、手を繋いで、食堂から出て行った。紋次郎は、歌っていた。食堂の軒先で、糸で吊るされた風電池で光る蛍おもちゃが、くるくると風で舞っていた。

 おててつないで のみちをゆけば〜♪
  みんなかわい ことりになって うたをうたえば くつがなる〜♪ はれたみそらに くつがなる〜♪



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