の光る飛行物体は、真由美とショーケンの五メートルほど上空を、ふわふわと飛んでいた。突然に真由美が立ち上がって、右手でチョキを出しながら振り上げ、飛行物体に向かって大きな甲高い声を発した。 「きえ〜〜〜い!」 ショーケンはびっくりして、真由美を見た。 「どうしたの、真由美ちゃん!?」 真由美は、飛行物体を睨んでいた。 「やっぱり駄目だわ。」 「どうしたの?」 「やっぱり、わたしじゃ落ちないわ。」 「何のこと?」 「マイケルさんの真似をしたの。」 「えっ?」 「マイケルさん、知ってる?」 「ああ、知ってるよ。凄い人だろう?」 「そう。飛んでるカラスを、キエ〜イって落としたの。」 「カラスを落としたの?」 「そうなの、びっくりしちゃった。」 一休さんと紋次郎がやって来て、二人の前で止まった。カラスが飛んできた。そして、飛行物体を突ついた。飛行物体は、ひらひらと落っこちた。 みんなは駆け寄った。カラスは、山奥の方に、カァ〜と言いながら飛んでいった。真由美は、そのカラスを見ていた。一休さんは、黙って飛行物体を拾い上げた。 「おお、落ちて良かった!」 紋次郎が隣にいた。 「カラスに御礼を言わなければいけませんねえ。」 「そうだねえ。」 紋次郎は、カラスの飛んで行った方向に向かって頭を下げた。 「カラスさん、どうもありがとう。」 ショーケンは、一休さんの飛行物体を見ていた。 「これ、何ですか?」 「ろうそく熱気球です。」 「ろうそく熱気球…、ってことは、ろうそくで飛ぶの?」 「そうです。ろうそくで飛びます。」 「それは凄いなあ〜。」 「カラスに突つかれて落ちるようじゃあ、駄目だなあ。インプルーブの必要があるな。」 「インプルーブ?」 「あっ、改良です。」 「それ、見たことあるわ〜〜!」 突然の真由美の声に、一休さんはびっくりした。 「えっ、どこで?」 「韓国で見たわ。」 「韓国で?」 「お父さんと韓国に行ったの。そこで見たわ。」 「韓国の、どこ?」 「どこだったか忘れたけど、韓国のどこかで見たわ。」 「同じもの?」 「とっても似てるわ。ろうそくで飛んでいたわ。」 「あっ、そう。」 一休さんは、少しショックだった。 真由美の兄のまさとが手を振りながら帰ってきた。 「あっ、お兄ちゃんだわ!」 真由美は大きく手を振った。 「お兄ちゃ〜〜ん!」 まさとは、少し駆けながらやって来た。そして、みんなの前で止まった。 「何かあったんですか?」 一休さんが答えた。 「こいつを追いかけて、ここまで来たんだよ。」 「何ですか、それ?」 「ろうそく熱気球。」 「ろうそく熱気球?」 「ろうそくで飛ぶ熱気球。」 「それ、ろうそくで飛ぶんですか?」 「そうです。」 「これを、三人で追いかけてきたんですか?」 「わたしと紋次郎くんで追いかけて来たんだよ。」 ショーケンは、玄関の前の階段に座っていた。 「僕は、村に帰るところだったんだよ。」 真由美が大きな声で言った。 「ショーケンさんと、ここに座って待っていたの。」 「ああ、そうなんですか。」 「これで安心、もう帰るよ。」 真由美が、だだをこねた。 「もう帰っちゃうの〜!?」 「また、明日ね。」 真由美は、寂しい顔になった。 「真由美ちゃんは、寂しがり屋だなあ。」 「じゃあ、明日もこの時間に来てね。」 「仕事が終わったら、きっと来るよ。あっ、そうだ。クラッカーあげる。」 ショーケンは、手に持っていた紙袋を手渡した。 「あたり前だのクラッカー。」 「あたりまえだのクラッカー?」 一休さんが喜んだ。 「お〜〜〜、懐かしいなあ〜、あたり前田のクラッカー!」 一休さん以外は、その名前のクラッカーを知らなかった。きょとんとしていた。 「えっ、みんな知らないの?当たり前田のクラッカーを?」 みんなは、やっぱり知らぬ存ぜぬの顔で、少し首を傾けてきょとんとしていた。 「俺がこんなに強いのも、 あたりまえだのクラッカー!」 遠くの山で、カラスが鳴いていた。今日一日を温かく照らしてくれてた太陽が音もなく静かに隠れようとしていた。
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