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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第3回   忍者凧
きょん姉さんが、窓際に座ってぼんやりしていると、測量の道具を持った男たちが近くを歩いていた。
「測量屋さんだわ。」
アニーは、テーブルの前に座り、パソコンで何かをやっていた。
「別荘を建てるんじゃないですか?」
「別荘?」
「このあたりは、最近の温暖化で、避暑地になっているんですよ。」
「ああ、そうなんですか。」
「高野山は、大阪から最も近い高原ですから。」
「高野山が、避暑地にねえ。」
「これからは、きっと宗教の地から、避暑地になるんでしょうねえ。」
「それは、お坊さんも、びっくりですねえ。」
「きっと、弘法大師も驚いていますよ。」
アニーは、少し虚ろな目になっていた。
「あ〜〜〜ぁ、何だか疲れちゃった。」
「まだ、風邪が治ってないんじゃないですか?」
「そうかも知れません。」
「少し横になって休んだほうがいいんじゃないかしら?」
「そうですね。ちょっと休みます。」
アニーは、上着と靴を脱ぐと、ベッドに横たわった。姉さんは立ち上がった。
「ミカンでも買ってきましょうか?」
「彼が、今日持ってきます。だいじょうぶです。」
「そうですか。」
福之助がやってきて、アニーを見つめていた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと、体温計で熱を計ってみるわ。持ってきてくれない?」
「はい。」
ドアベルが鳴った。
『山田で〜〜す!』
「あっ、噂をすればだわ。」
姉さんが対応して、ドアを開けた。慈尊院(じそんいん)の忍者男の山田が立っていた。
「今日の配給です!」
「どうもごくろうさま!」
山田は、テーブルの上に、バッグから取り出したポリエチレンの大きな袋を置いた。
「もう一つあります!」
と言って、足早に出て行った。直ぐに戻って来た。
左手に大きな鳥型の凧を持っていた。右手には紙袋を持っていた。
「カイトと、フォトカイト用のカメラと双眼鏡カメラです。」
山田は、紙袋をテーブルの上に置くと、周りを見回した。
「この凧、どこに置きましょうか?」
アニーが返事した。
「奥の床に置いておいて。」
「はい。」
支持された場所に置くと、山田はアニーの傍らにやってきた。
「ご注文のミカンも入っています」
「どうもありがとう。」
「大丈夫ですか?」
「高熱じゃないから、インフルエンザじゃないわ。大丈夫。」
「何か欲しいものがあったら、直ぐに届けますので、電話してください。」
「ありがとう!」
「じゃあ、無理しないで、お大事に。」
「明日も、この時間でいいわ。」
「分かりました!」
山田は、みんなに頭を下げると、出て行った。
姉さんは、カイトを見に行った。
「これどうするんですか?」
「空撮するんです。」
「空撮?」
「テーブルの上の紙袋の中に、カイト用の丸いカメラが入っています。それをぶら下げて撮影するんです。」
姉さんは、テーブルの紙袋の中から、丸いカメラを取り出した。
「これですね。」
「はい。それをカイトにぶら下げて撮影するんです。」
「どうやって撮影するんですか?」
「カイトをあげ、リモコンのスイッテを入れると、自動的に五秒おきに撮影されます。」
「ああ、だからフックのついた紐がついているんですね?」
「そうなんです。」
「どこを撮影するんですか?」
「転軸山(てんじくさん)から、人間村を撮影します。」
「いつ?」
「いつでもいいんです。風が人間村方向に適当に吹いてる日だったら。」
姉さんは、窓際に行って風を眺めた。
「人間村方向っていうと、左斜めですね…」
草花が、左斜めに揺れていた。
「今、その風が吹いてますよ。」
「ああ、そうですか。」
「今、撮影しに行きましょうか?」
「一人で大丈夫ですか?」
「凧揚げは得意でしたら、一人で大丈夫です。」
福之助が声をかけた。
「わたしも行きましょうか?」
「おまえは、目立つからいいよ。」
「わたしは、高野山に来てから、ちっとも役に立たないんですね!」
「そうじゃないよ。見つかったら、やつらに怪しまれるだろう。」
「分かりました!」
「留守番も大事な仕事だよ。アニーさんと、夕食を頼むよ!」
福之助は、直立不動の姿勢で敬礼をした。
「はい、分かりました!隊長!」
姉さんは、カイトとカメラを持って出て行った。
高野三山の中で、九百十五メートルの転軸山(てんじくさん)は、一番低かった。摩尼山(まにさん)は、千四メートル、楊柳山(ようりゅうさん)は、千八メートルあった。
転軸山公園から、転軸山の山頂までは、意外と近かった。
「なあんだ、子供でも楽勝じゃん!」
頂上の周りは芝生だった。姉さんは、人間村方向に少し下った。
「よし、ここらあたりだな。」
凧を右手で持つと、左手でカメラをぶら下げた。
「うん、いい風だ!」
姉さんは手を離した。
凧は、カメラをぶら下げて、ぐんぐんと揚がって行った。三百メートルほど揚がったところで、姉さんはリモコンのスイッチを押した。
「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)!」




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