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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第29回   ロックロブスター
きょん姉さんは、不安そうに福之助に尋ねた。
「これ、ほんとうに、外からは見えないのかい?」
「大丈夫です。偏光ガラスですから、明るい方から暗い方は、まったく見えません。」
福之助は、姉さんの後ろに立っていた。
姉さんとアニーは、双眼鏡を持って窓際に立っていた。部屋の灯りを消して、カーテンを開けて外を見ていた。ショーケンを見ていた。そして、火の玉みたいな奇妙な飛行体を見ていた。福之助は、それだけを見ていた。
「姉さん、あの光るユーフォーみたいなの、あっちに飛んで行きます。」
「あららら…」
「分かりました。あれは、小さな熱気球体です。」
「熱気球体?」
「はい。中心に揺れる熱源があります。」
「揺れる熱源?」
「ロウソクみたいなものです。」
「ってことは、ロウソクの熱気球…」
「多分…」
「ロウソクの熱気球…、ロウソクで飛ぶのかよう、あんなに?」
「ああやって飛んでいます。」
「大したもんだなあ…」
「そうですねえ。」
「だとしたら、小さな大発明だなあ。」
「そうですねえ。」
アニーは、カメラ付双眼鏡で見ていた。時々、シャッターを押していた。
「ショーケンそのものだわ。」
姉さんは、普通の双眼鏡で見ていた。
「まさしくショーケンだわ〜。」
福之助も、姉さんの背後から見ていた。
「そっくり度、九十八パーセントです!」
姉さんは振り向いた。
「おまえ、そこから双眼鏡も使わずに、よく見えるねえ?」
「そんな双眼鏡よりも、わたしの目のほうが見えます。」
「あんた、ポンコツロボットなんかじゃないよ。」
「それはそれは、ありがとうございます。」
突然、勝手にテレビが点いた。アニーは驚いて振り向いた。
「あれ!?」
きょん姉さんが、微笑んで答えた。
「予約しておいたんです。ショーケンが出るんですよ。」
「え〜〜、ほんと?」
「ええ、最近の本物のショーケンが。」
「そうなの〜。歌うの?」
「さあ?」
テレビでは、すっかりおじさんになったショーケンが映っていた。ドキュメント番組だった。姉さんは、偽者のショーケンを見るのを止めて、テレビの良く見えるテーブルの前の椅子に座った。
「ショーケンも老けたなあ…」
アニーもテーブルの前に座った。
「そうですねえ。事件を起こしてから苦労したんでしょうねえ。」
「これじゃあ、歌える雰囲気じゃないなあ。」
「そうですねえ。」
「ずっと前に、耳が悪いって言ってましたよ。」
「そうなんですか。」
突然、ショーケンが歌い出した。姉さんは驚いた。
「わ〜〜ぁ、なになに!?」
「新曲だわ!」
「違うわ、この曲、ロックロブスターだわ。」
「ロックロブスター?」
姉さんは、洋楽に詳しかった。
「奇妙奇天烈バンド、B-52(ビー・フィフティートゥーズ)のデビュー曲!」
「イギリスのバンドですか?」
「アメリカのバンドです。」
「ひょっとして、ニュー・ウェイヴ?」
「そうです。」
「あっ、思い出したわ、この曲!」
「世界中で、けっこう売れたんですよ。」
「そうだそうだ、この踊り!」
姉さんは、ショーケンの振りを熱心に見ていた。
「やっぱり、天才は天才を選ぶのね。」
「思い出したわ。女性コーラスが二人のバンドですよね。」
「そうです。なんといっても、天才フレッド・シュナイダーのダンスが面白いんです。」
「あのダンス、奇妙で面白いですねえ〜。あれは、誰も真似できませんよ。」
「あらあら、完全に、フレッドおじさんになってるよ。」
「さすが、ショーケン!」
福之助がやってきて踊りだした。
「わ〜〜〜、ロックロブスターだ〜!」
アニーはびっくりした。
「どうしたの、福ちゃん?」
姉さんが答えた。
「福之助の十八番(おはこ)なんですよ、この曲。福之助のテーマソングなんです。」
福之助は、得意げに踊っていた。テレビのショーケンも同じように踊っていた。それはそれは、普通の踊りではない、酔っ払いの踊りのような奇妙な踊りだった。姉さんも踊りだした。アニーもショーケンの真似をして踊りだした。


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