きょん姉さんは、不安そうに福之助に尋ねた。 「これ、ほんとうに、外からは見えないのかい?」 「大丈夫です。偏光ガラスですから、明るい方から暗い方は、まったく見えません。」 福之助は、姉さんの後ろに立っていた。 姉さんとアニーは、双眼鏡を持って窓際に立っていた。部屋の灯りを消して、カーテンを開けて外を見ていた。ショーケンを見ていた。そして、火の玉みたいな奇妙な飛行体を見ていた。福之助は、それだけを見ていた。 「姉さん、あの光るユーフォーみたいなの、あっちに飛んで行きます。」 「あららら…」 「分かりました。あれは、小さな熱気球体です。」 「熱気球体?」 「はい。中心に揺れる熱源があります。」 「揺れる熱源?」 「ロウソクみたいなものです。」 「ってことは、ロウソクの熱気球…」 「多分…」 「ロウソクの熱気球…、ロウソクで飛ぶのかよう、あんなに?」 「ああやって飛んでいます。」 「大したもんだなあ…」 「そうですねえ。」 「だとしたら、小さな大発明だなあ。」 「そうですねえ。」 アニーは、カメラ付双眼鏡で見ていた。時々、シャッターを押していた。 「ショーケンそのものだわ。」 姉さんは、普通の双眼鏡で見ていた。 「まさしくショーケンだわ〜。」 福之助も、姉さんの背後から見ていた。 「そっくり度、九十八パーセントです!」 姉さんは振り向いた。 「おまえ、そこから双眼鏡も使わずに、よく見えるねえ?」 「そんな双眼鏡よりも、わたしの目のほうが見えます。」 「あんた、ポンコツロボットなんかじゃないよ。」 「それはそれは、ありがとうございます。」 突然、勝手にテレビが点いた。アニーは驚いて振り向いた。 「あれ!?」 きょん姉さんが、微笑んで答えた。 「予約しておいたんです。ショーケンが出るんですよ。」 「え〜〜、ほんと?」 「ええ、最近の本物のショーケンが。」 「そうなの〜。歌うの?」 「さあ?」 テレビでは、すっかりおじさんになったショーケンが映っていた。ドキュメント番組だった。姉さんは、偽者のショーケンを見るのを止めて、テレビの良く見えるテーブルの前の椅子に座った。 「ショーケンも老けたなあ…」 アニーもテーブルの前に座った。 「そうですねえ。事件を起こしてから苦労したんでしょうねえ。」 「これじゃあ、歌える雰囲気じゃないなあ。」 「そうですねえ。」 「ずっと前に、耳が悪いって言ってましたよ。」 「そうなんですか。」 突然、ショーケンが歌い出した。姉さんは驚いた。 「わ〜〜ぁ、なになに!?」 「新曲だわ!」 「違うわ、この曲、ロックロブスターだわ。」 「ロックロブスター?」 姉さんは、洋楽に詳しかった。 「奇妙奇天烈バンド、B-52(ビー・フィフティートゥーズ)のデビュー曲!」 「イギリスのバンドですか?」 「アメリカのバンドです。」 「ひょっとして、ニュー・ウェイヴ?」 「そうです。」 「あっ、思い出したわ、この曲!」 「世界中で、けっこう売れたんですよ。」 「そうだそうだ、この踊り!」 姉さんは、ショーケンの振りを熱心に見ていた。 「やっぱり、天才は天才を選ぶのね。」 「思い出したわ。女性コーラスが二人のバンドですよね。」 「そうです。なんといっても、天才フレッド・シュナイダーのダンスが面白いんです。」 「あのダンス、奇妙で面白いですねえ〜。あれは、誰も真似できませんよ。」 「あらあら、完全に、フレッドおじさんになってるよ。」 「さすが、ショーケン!」 福之助がやってきて踊りだした。 「わ〜〜〜、ロックロブスターだ〜!」 アニーはびっくりした。 「どうしたの、福ちゃん?」 姉さんが答えた。 「福之助の十八番(おはこ)なんですよ、この曲。福之助のテーマソングなんです。」 福之助は、得意げに踊っていた。テレビのショーケンも同じように踊っていた。それはそれは、普通の踊りではない、酔っ払いの踊りのような奇妙な踊りだった。姉さんも踊りだした。アニーもショーケンの真似をして踊りだした。
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