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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第28回   ロマンタッチング
「あらら、あらら!」
夕暮れの真由美ちゃん家の前を、老婆が歩いてきた。
「あららのお婆ちゃんだわ。お婆ちゃん、どこに行くの?」
「ちょっと、買い物だよ。」
お婆ちゃんは、買い物のキャリーバッグを引いていた。歩くスピードは、とっても遅かった。
「お婆ちゃん、気をつけてね。クルマに気をつけてね。」
「これを点けてれば大丈夫だよ。」
手に持っている懐中電灯を見せた。もどかしいくらいに、ゆっくりと歩いていた。それでも、お婆ちゃんは、元気に歩いていた。
ショーケンが気遣った。
「おばあさん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。…おや!?」
「何ですか?」
「あんた、ショーケンに似てるねえ?」
「よく言われます。そっくりだって。」
「似てるわ〜、びっくりしちゃった!」
そう言うと、お婆さんは、コンビニの方に歩き出した。
ショーケンは、真由美の顔を見た。
「コンビニまで、けっこうあるよ。」
「ここの人は、あのくらいは平気だわ。」
「帰りも、ああやって帰ってくるの?」
「帰りは、道案内ロボットが、キャリーバッグを引いて来るわ。」
「ええ、どういうこと?」
「お婆ちゃんは、いつもロボットに、わたしボケてて道に迷っちゃった〜って言うの。そしたら、ロボットが案内してくれるの。キャリーバッグを引いて。」
「ずるいなあ。」
「ちょっとだけ、ずるいかな。」
「なるほどねえ、あたまいいなあ。」
「そうですねえ。」
男が二人、やって来た。二人は同時に、真由美に言った。
「ワン・シャン・ハオ!」
真由美は、少し笑いながら少し大きな声で答えた。
「ワン・シャン・ハオ!」
二人は、手を振りながら山の方へ去って行った。
ショーケンはびっくりした。
「へ〜〜〜、ひょっとして、中国語?」
「そうです。」
「何て言ったの?」
「こんばんわ。」
「真由美ちゃんは凄いなあ〜、中国語もできるんだ〜。」
「あいさつだけですよ。」
「それにしても、凄いよ。」
「奥に、高野山大学の留学生の家があるんです。」
「あ〜〜、そうなんだ。」
また、同じような男がやって来た。
「ワン・シャン・ハオ!」
真由美は、にこっと笑って、さっきと同じように答えた。
「ワン・シャン・ハオ!」
男は立ち止まった。
「コンド、マタ、ショウギ、オシエテね!」
「いいですよ。」
「じゃあネ!」
男は、さっきの二人と同じ方向に去って行った。
ショーケンは尋ねた。
「ショウギって、ゲームの将棋のこと?」
「そうです。」
「真由美ちゃん、できるの?」
「できますよ。」
「教えてって、言ってたけど、真由美ちゃん、ひょっとして強いの?」
「そんなには強くないけど、お兄ちゃんよりは強いの。」
「え〜〜〜、ほんと?」
「ほうとよ。」
「誰に教わったの?」
「お父さん。」
「へ〜〜〜、お兄ちゃんよりも強いんだ〜!」
「今度、高野山ちびっこ将棋大会に出るの。」
「ほ〜〜〜〜〜、大したもんだ!」
「アキラって、知ってる?」
「はい、知ってます。」
「アキラも強いんだよ。」
「そうなんですか。」
「どっちが強いのかなあ?」
「やってみないと分からないわ。」
「あいつは、穴熊の臆病将棋だから、真由美ちゃんが勝つよ。」
「あなぐませんぽうですか?」
「知ってるの?」
「はい。」
「そんなのがあるんだぁ?」
「はい。」
「ほ〜〜〜お。」
「知らないんですか?」
「知らなかった〜ぁ。じゃあ、真由美ちゃんは、義経戦法だ?」
「え〜〜、何それ?」
「そんなのはないんだ。はっはっは。」
変な光るものが、ログハウスの方向から、ふわふわと飛んできた。
「ショーケンさん、何あれ!?」
ショーケンは振り向いた。
「なんだ、ありゃあ?」
火の玉のようなものが、とってもとってもロマンタッチングに、不気味に飛んでいた。そして、一休さんと紋次郎が、人間村の方から走って来た。



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