「あらら、あらら!」 夕暮れの真由美ちゃん家の前を、老婆が歩いてきた。 「あららのお婆ちゃんだわ。お婆ちゃん、どこに行くの?」 「ちょっと、買い物だよ。」 お婆ちゃんは、買い物のキャリーバッグを引いていた。歩くスピードは、とっても遅かった。 「お婆ちゃん、気をつけてね。クルマに気をつけてね。」 「これを点けてれば大丈夫だよ。」 手に持っている懐中電灯を見せた。もどかしいくらいに、ゆっくりと歩いていた。それでも、お婆ちゃんは、元気に歩いていた。 ショーケンが気遣った。 「おばあさん、大丈夫?」 「大丈夫だよ。…おや!?」 「何ですか?」 「あんた、ショーケンに似てるねえ?」 「よく言われます。そっくりだって。」 「似てるわ〜、びっくりしちゃった!」 そう言うと、お婆さんは、コンビニの方に歩き出した。 ショーケンは、真由美の顔を見た。 「コンビニまで、けっこうあるよ。」 「ここの人は、あのくらいは平気だわ。」 「帰りも、ああやって帰ってくるの?」 「帰りは、道案内ロボットが、キャリーバッグを引いて来るわ。」 「ええ、どういうこと?」 「お婆ちゃんは、いつもロボットに、わたしボケてて道に迷っちゃった〜って言うの。そしたら、ロボットが案内してくれるの。キャリーバッグを引いて。」 「ずるいなあ。」 「ちょっとだけ、ずるいかな。」 「なるほどねえ、あたまいいなあ。」 「そうですねえ。」 男が二人、やって来た。二人は同時に、真由美に言った。 「ワン・シャン・ハオ!」 真由美は、少し笑いながら少し大きな声で答えた。 「ワン・シャン・ハオ!」 二人は、手を振りながら山の方へ去って行った。 ショーケンはびっくりした。 「へ〜〜〜、ひょっとして、中国語?」 「そうです。」 「何て言ったの?」 「こんばんわ。」 「真由美ちゃんは凄いなあ〜、中国語もできるんだ〜。」 「あいさつだけですよ。」 「それにしても、凄いよ。」 「奥に、高野山大学の留学生の家があるんです。」 「あ〜〜、そうなんだ。」 また、同じような男がやって来た。 「ワン・シャン・ハオ!」 真由美は、にこっと笑って、さっきと同じように答えた。 「ワン・シャン・ハオ!」 男は立ち止まった。 「コンド、マタ、ショウギ、オシエテね!」 「いいですよ。」 「じゃあネ!」 男は、さっきの二人と同じ方向に去って行った。 ショーケンは尋ねた。 「ショウギって、ゲームの将棋のこと?」 「そうです。」 「真由美ちゃん、できるの?」 「できますよ。」 「教えてって、言ってたけど、真由美ちゃん、ひょっとして強いの?」 「そんなには強くないけど、お兄ちゃんよりは強いの。」 「え〜〜〜、ほんと?」 「ほうとよ。」 「誰に教わったの?」 「お父さん。」 「へ〜〜〜、お兄ちゃんよりも強いんだ〜!」 「今度、高野山ちびっこ将棋大会に出るの。」 「ほ〜〜〜〜〜、大したもんだ!」 「アキラって、知ってる?」 「はい、知ってます。」 「アキラも強いんだよ。」 「そうなんですか。」 「どっちが強いのかなあ?」 「やってみないと分からないわ。」 「あいつは、穴熊の臆病将棋だから、真由美ちゃんが勝つよ。」 「あなぐませんぽうですか?」 「知ってるの?」 「はい。」 「そんなのがあるんだぁ?」 「はい。」 「ほ〜〜〜お。」 「知らないんですか?」 「知らなかった〜ぁ。じゃあ、真由美ちゃんは、義経戦法だ?」 「え〜〜、何それ?」 「そんなのはないんだ。はっはっは。」 変な光るものが、ログハウスの方向から、ふわふわと飛んできた。 「ショーケンさん、何あれ!?」 ショーケンは振り向いた。 「なんだ、ありゃあ?」 火の玉のようなものが、とってもとってもロマンタッチングに、不気味に飛んでいた。そして、一休さんと紋次郎が、人間村の方から走って来た。
|
|