きょん姉さんが「接近遭遇!接近遭遇!」と言いながら帰ってきた。 福之助は尋ねた。 「どうしたんですか?」 「ショーケン、ショーケン!」 「ショーケン?」 「ショーケンに接近遭遇したんだよ〜!」 アニーが興味深く聴いた。 「ショーケンに逢ったんですか?」 「そうなんですよ〜!」 「どこで?」 「そこで。目の前で。通り過ぎて行きましたけどね。」 「見たんですか?」 「ちらっと、人間村の住民らしいので、慌てて戻ってきました。」 「人間村の住民?」 「どうやら、そうらしいです。」 「やっぱり、クローンのショーケンだったんですねえ。」 「まるっきし、そっくりでしたよ。歩き方まで、風の中のあいつ、そのものでしたよ。びっくりして感激しちゃった〜!」 「それは見たかったなあ〜。葛城さんのほうを見たんですか?」 「ショーケンが?」 「いいえ、見なかったと思うんですけど…」 「確認できなかったのですね?」 「はい。」 「とにかく、九分九厘間違いないでしょう。」 「報告するんですか?」 「いいえ、今回の任務とは、関係ない内容のものですから。しません。」 「ああ、良かった。」 「えっ?」 「いや、なんとなく…」 「彼を、そっとしてあげたいんですね?」 「はい。」 「彼に、無事に逃げて欲しいと思っているんですね?」 「…はい。」 アニーは、軽く頷いた。姉さんは、テーブルの前に座った。 「あ〜〜〜、なんだか疲れちゃった!」 福之助が声をかけた。 「じゃあ、お茶でも飲みますか?」 「そうだねえ…」 「和歌山の茎茶がありますよ。」 「なんだか、その発音、美味しそうだねえ。」 「静岡の瀬戸川源流域の水車村農園の無農薬茎茶、やぶきたみどりです。」 「やぶきたみどり?」 「ネットで一番人気の、渋味と甘味のバランスが絶妙の茎茶です。飲みますか?」 「じゃあ、頼むよ。」 「たまには、娯楽番組のテレビでも見て休んだほうがいいですよ。」 「そうだなあ。」 福之助は、お茶を持って来た。 「はい!」 「これが、その一番人気の無農薬の茎茶かい?」 「はい。」 「どれみふぁ…」 「ドレミファ?」 「どれどれ、の間違い。」 姉さんは、飲む前に匂いを嗅いだ。 「いい匂いだねえ。」 そう言うと、利き手の左手で持って、静かに一口飲んだ。そして、静かに置いた。左手を大きく上げた。 「美味しいねえ!日本の味だわ〜。日本人に生まれて良かったなあ〜って味だねえ〜。」 アニーが上半身を起こした。 「え〜〜、そんなに美味しいんですか〜?」 福之助が尋ねた。 「アニーさんも飲みますか?」 「じゃあ、わたしも飲もうかしら。」 アニーは、パジャマ姿で起き上がると、飲みにやってきた。そして、静かにテーブル席に座った。福之助が来て、お茶の入った湯飲みをアニーの前に置いた。 「はい、どうぞ、アニーさん。」 「どうもありがとう。」 アニーは一口飲んだ。 「わ〜〜、美味しい!」 「どうもありがとうございます。」 姉さんが、お茶を飲みながら言った。 「なんで、お前が礼を言うんだよ。」 「わたしの入れ方が上手だったんですよ。」 「そうかな?」 「はい。」 「もともと美味しいんじゃないの?」 「そうかも知れませんね。」 「そうに決まってるよ。」 福之助は、姉さんの背後に廻った。 「肩でも揉みましょうか?」 「君が悪いなあ〜?」 「スプーキーですか?」 「スプーキー?」 アニーが答えた。 「気味が悪いの英語ですよ。」 姉さんは、上目遣いで福之助を睨んだ。 「変なときに、変な英語を使うなよ!」 「すみません!」 道路側の窓は、カーテンがかかっていたが、広場の側の窓は、まだカーテンはされていなかった。空は赤く、薄暗くなっていた。姉さんは、窓の外を見ていた。 「なんだ、ありゃあ?」 姉さんの声に反応して、アニーと福之助も、窓の外を見た。光ながら変なものが、ふわふわと飛んでいた。姉さんは立ち上がった。そして、窓の近くまで行って、それをしげしげと眺めた。 「何かしら?」 アニーと福之助もやってきた。火の玉のようなものが、ふわりふわりと空中を彷徨っていた。 姉さんは、苦笑いしていた。 「ここは、妙なものが、次から次とやって来るねえ…」
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