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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第27回   やぶきたみどり
きょん姉さんが「接近遭遇!接近遭遇!」と言いながら帰ってきた。
福之助は尋ねた。
「どうしたんですか?」
「ショーケン、ショーケン!」
「ショーケン?」
「ショーケンに接近遭遇したんだよ〜!」
アニーが興味深く聴いた。
「ショーケンに逢ったんですか?」
「そうなんですよ〜!」
「どこで?」
「そこで。目の前で。通り過ぎて行きましたけどね。」
「見たんですか?」
「ちらっと、人間村の住民らしいので、慌てて戻ってきました。」
「人間村の住民?」
「どうやら、そうらしいです。」
「やっぱり、クローンのショーケンだったんですねえ。」
「まるっきし、そっくりでしたよ。歩き方まで、風の中のあいつ、そのものでしたよ。びっくりして感激しちゃった〜!」
「それは見たかったなあ〜。葛城さんのほうを見たんですか?」
「ショーケンが?」
「いいえ、見なかったと思うんですけど…」
「確認できなかったのですね?」
「はい。」
「とにかく、九分九厘間違いないでしょう。」
「報告するんですか?」
「いいえ、今回の任務とは、関係ない内容のものですから。しません。」
「ああ、良かった。」
「えっ?」
「いや、なんとなく…」
「彼を、そっとしてあげたいんですね?」
「はい。」
「彼に、無事に逃げて欲しいと思っているんですね?」
「…はい。」
アニーは、軽く頷いた。姉さんは、テーブルの前に座った。
「あ〜〜〜、なんだか疲れちゃった!」
福之助が声をかけた。
「じゃあ、お茶でも飲みますか?」
「そうだねえ…」
「和歌山の茎茶がありますよ。」
「なんだか、その発音、美味しそうだねえ。」
「静岡の瀬戸川源流域の水車村農園の無農薬茎茶、やぶきたみどりです。」
「やぶきたみどり?」
「ネットで一番人気の、渋味と甘味のバランスが絶妙の茎茶です。飲みますか?」
「じゃあ、頼むよ。」
「たまには、娯楽番組のテレビでも見て休んだほうがいいですよ。」
「そうだなあ。」
福之助は、お茶を持って来た。
「はい!」
「これが、その一番人気の無農薬の茎茶かい?」
「はい。」
「どれみふぁ…」
「ドレミファ?」
「どれどれ、の間違い。」
姉さんは、飲む前に匂いを嗅いだ。
「いい匂いだねえ。」
そう言うと、利き手の左手で持って、静かに一口飲んだ。そして、静かに置いた。左手を大きく上げた。
「美味しいねえ!日本の味だわ〜。日本人に生まれて良かったなあ〜って味だねえ〜。」
アニーが上半身を起こした。
「え〜〜、そんなに美味しいんですか〜?」
福之助が尋ねた。
「アニーさんも飲みますか?」
「じゃあ、わたしも飲もうかしら。」
アニーは、パジャマ姿で起き上がると、飲みにやってきた。そして、静かにテーブル席に座った。福之助が来て、お茶の入った湯飲みをアニーの前に置いた。
「はい、どうぞ、アニーさん。」
「どうもありがとう。」
アニーは一口飲んだ。
「わ〜〜、美味しい!」
「どうもありがとうございます。」
姉さんが、お茶を飲みながら言った。
「なんで、お前が礼を言うんだよ。」
「わたしの入れ方が上手だったんですよ。」
「そうかな?」
「はい。」
「もともと美味しいんじゃないの?」
「そうかも知れませんね。」
「そうに決まってるよ。」
福之助は、姉さんの背後に廻った。
「肩でも揉みましょうか?」
「君が悪いなあ〜?」
「スプーキーですか?」
「スプーキー?」
アニーが答えた。
「気味が悪いの英語ですよ。」
姉さんは、上目遣いで福之助を睨んだ。
「変なときに、変な英語を使うなよ!」
「すみません!」
道路側の窓は、カーテンがかかっていたが、広場の側の窓は、まだカーテンはされていなかった。空は赤く、薄暗くなっていた。姉さんは、窓の外を見ていた。
「なんだ、ありゃあ?」
姉さんの声に反応して、アニーと福之助も、窓の外を見た。光ながら変なものが、ふわふわと飛んでいた。姉さんは立ち上がった。そして、窓の近くまで行って、それをしげしげと眺めた。
「何かしら?」
アニーと福之助もやってきた。火の玉のようなものが、ふわりふわりと空中を彷徨っていた。
姉さんは、苦笑いしていた。
「ここは、妙なものが、次から次とやって来るねえ…」


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