20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第26回   真っ赤な彼岸花
初秋の高野山の風に夕陽が体当たりをして、風をよろよろと揺らしていた。ススキがふらふらと酔っ払いのように、仲良く揺れ合っていた。その風を見ながら、ショーケンは歩いてやってきたようだった。

 通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪
 行きは良い良い〜 帰りは酔っ払い ♪

ショーケンは、真由美ちゃんの前で立ち止まった。
「変な歌だねえ?」
真由美は歌うのを止めた。
「お父さんが歌ってたの。」
「じゃあ、お父さんが作った歌だな。」
「そうなの。」
ショーケンは、しゃがみこんだ。
「一人で何してるの?」
「お兄ちゃんを待ってるの。」
「お兄ちゃんは、どこに行ったの?」
「コンビニでアルバイトしてるの。」
「コンビニって、ゼニヤとかいう店?」
「そう。よく知ってますねえ。」
「今、郵便局の裏にある店だろう?」
「そうです。」
「あそこでアルバイトしているんだ?」
「そうです。」
「いつも、ここで待ってるの?」
「そう。」
「こんなところにいると、人攫(ひとさら)いに連れて行かれるぞ!」
「ひとさらいって、なあに?」
「子供を泥棒して、遠くにつれていく悪いやつ。」
「そういう人がいるの?」
「ああ、いるよ。」
「でも、高野山には、そんな悪い人はいないわ。」
「そうだなあ…、でも熊は出てくるぞ〜!」
「熊が出てきたら、これを鳴らすの。」
真由美は、上着のポケットから道具を取り出して、ショーケンに見せた。
「ああ、この紐を引っ張って取ると、大きな音がするやつか。」
「そう。」
ショーケンは、厳しく戒めた。
「ここは危ないから、もっと家の近で待っていなさい。」
「はあい!」
「じゃあ、一緒に行こう!」
家まで、五十メートルほど離れていた。玄関の前には、階段の石が三段あった。
「ここで待ってなさい。」
「はあい。」
真由美は座った。ショーケンも座った。
「ここなら、お母さんの声も聞こえるだろう。」
「そうですね。」
「遠くへ行っちゃうと、お母さんが心配するだろう。」
「はあい。」
「お母さんに、心配をかけたら、お父さんが怒るよ。」
「はあい。」
家の中から、母親の声が聞こえた。
「真由美ちゃ〜〜〜ん!」
真由美は「は〜〜い!」と言って、家の中に入って行った。
お茶を、お盆に載せて戻ってきた。
「はい、お茶をどうぞ。」
「お〜〜、ありがとう!」
「お母さんが、持っていけって言ったの。」
ショーケンは、大きな声で怒鳴った。
「どうもありがとうございま〜〜〜す!」
真由美は、驚いた。
「あ〜〜〜、びっくりした!」
「ごめん、ごめん!」
猫のタマがやってきて、ショーケンにじゃれ始めた。ショーケンは、タマを撫でた。
「この猫、なれなれしいなあ〜。」
真由美は、お茶を、おいしそうに飲んでいた。
道の向こう側で、夕陽のような真っ赤な彼岸花が、秋の匂いの風に揺れていた。
「彼岸花の根には、毒があるから気をつけないといけないよ。」
「そうです、知ってますよ。」
「さすがに真由美ちゃんは、知ってるねえ。」
「お父さんが教えてくれたの。」
「山には、いろんな危ない花があるから、気をつけないとね。」
「はい。」
「勝手に食べたり料理したりしたらいけないよ。」
「はあい!」
ショーケンは、大菩薩の山に咲く花々を思い出していた。
「お茶、おいしいねえ〜。」
「うちでつくっているの。」
「とってもおいしいよ。」
「ありがとうございます。」
真由美は、ペコリと頭を下げた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 31446