きょん姉さんは、道側の窓のカーテンを閉めるためめに、窓際に立ちカーテンを引いた。途中で止めて、窓の外を見ていた。福之助が来た。 「どうしたんですか?」 「真由美ちゃん、何やってんだ、一人ぼっちで?」 遠くで、真由美ちゃんが、とぼとぼと歩いていた。福之助は首をひねった。 「何やってるんでしょうね?」 姉さんは、上着を取ると、「ちょっと行って来る。」と、福之助に言い残し、出て行った。 福之助は、姉さんが駆けていくのを、窓から見ていた。アニーが尋ねた。 「どうしたの、福ちゃん?」 「真由美ちゃんのことが気になって出て行ったみたいなんです。」 「真由美ちゃんに、何かあったの?」 「いいえ、別に。ただ、一人で歩いていたもので。それが気になったみたいなんです。」 「葛城さんは、心が優しいし、霊感が強いからねえ。」 「はい。姉さんは、口と心がまったく違うんです。」 「そうだねえ。」 真由美は、歌いながら歩いていた。
通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪ 行きはよいよい 帰りは酔っ払い ♪
きょん姉さんが小走りでやって来た。 「真由美ちゃん、どうしたの?」 真由美は、きょとんとした顔で返事をした。 「お兄ちゃんを待ってるの。」 「お兄ちゃんを待ってる?」 「お兄ちゃんは、もうすぐ帰って来るの。」 「お兄ちゃんは、どこに行ったの?」 「コンビニのアルバイトに行ってるの。」 「ああ、そうなの。いつも待ってるんだ?」 「そう、いつも待ってるの。」 「ご飯は食べたの?」 「まだ。お兄ちゃんと一緒に食べるの。」 「そうなの〜、偉いわねえ〜。」 「お姉さんは、もう食べたんですか?」 「もう食べちゃった。」 「それは、それは、良かったですねえ〜。」 「その歌、いつも歌っているの?」 「そう…」 真由美は、少し悲しい目をした。 「天国に行った、お父さんが、いつも歌っていたの。帰りながら、歌っていたの。」 「そうなの〜…」 姉さんも、なんだか悲しくなった。 「お母さんは?」 「お母さんは、病気で歩けないの。でも、何でも出来るの。おいしい料理も作るの。」 「そうなんだ…」 「お母さんも、お兄ちゃんが帰ってくるまで待ってるの。」 「そうなんだ…」 夕陽の落ちる山々辺りと、近くで寄り添い漂う雲たちが、ノスタルジックな茜色に染まろうとしていた。 真由美は、また歌いだした。違う歌を。
すりー つー わ〜ん お〜イェ〜 ♪ 二人がいつも〜 逢うときは〜 これが秘密の合言葉〜 ♪
姉さんも歌いだした。
何も言わずに〜 何も言わずに〜 黙っていても〜分かるのさ〜 ♪
真由美はびっくりした。 「え〜〜〜、それ、この歌の続きなの〜?」 「そうよ。」 「わ〜〜、どうして知ってるの?」 「わたし、ショーケンのファンだから。」 「え〜〜〜、ショーケンの〜?」 「どうしたの?」 「昨日、ショーケンという、歌手みたいに歌の上手い、かっこいいい人が来たの。」 「え〜、ほんと!?」 「うん、そうだよ。」 「で、どうしたの?」 「きれいなお姉さんと一緒に帰って行ったの。」 「え〜〜?どこの御姉さん?」 「人間村の頭のいい、パソコンの先生のお姉さん。」 「あ〜、そう。じゃあ、ショーケンも人間村にいるの?」 「いるよ。」 「あ〜、そう!」 「でも、お母さんが、あれはショーケンのそっくりさんって言ってたわ。」 「ああ、そう。」 「でも、本物の歌手みたいに上手かったわ。」 「そんなに上手かったんだ。」 「とっても上手かったわ。」 「そぉお…」 高野町本通りに向かう道から、誰かが大きく手を振って歩いていた。真由美がすぐに反応した。 「あっ、ショーケンさんだわ!」 真由美も手を振った。 「ショーケンさ〜〜ん!」 姉さんは驚き、戸惑った。 「あれっ、どうしよう…」 姉さんは、真由美ちゃんの頭を撫でた。 「じゃあ、真由美ちゃん、またね!」 「あれえ、行っちゃうの〜?」 姉さんは、ログハウスに逃げていった。カラスの平吉が遠くで鳴いていた。
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