隼人がやって来た。ヨコタンに尋ねた。 「龍次さん来なかった?」 「ポンポコリンのドームハウスに行きました。」 「あっ、そう。」 熊さんが、ニワトリを追いかけながら、反対側からやって来た。 「お〜〜〜い、そのニワトリ、捕まえてくれ〜!」 ニワトリは、首を振りながら早足でやって来た。 紋次郎が、捕まえようとしたが、失敗した。ヨコタンも捕まえようとしたが、失敗した。 なぜが、ニワトリは、隼人を避けながら通り過ぎて行った。熊さんが、みんなの前を通り過ぎて行った。 「誰か〜、捕まえてくれ〜〜!」 近くのドームハウスの前で、二人が焚き火をしながら焼き芋を焼いていた。その二人が、ニワトリを追いかけ出した。ニワトリは、こっちにやって来た。 ヨコタンと隼人以外は、捕り物騒ぎとなった。 隼人は鋭い忍者の目になっていた。 「あんなんじゃ捕まらないよ。」 突然、隼人は両手で印を結ぶと奇声を発した。 「キェ〜〜イ!」 ニワトリは、突然動かなくなった。蝋人形のように固まっていた。 みんなは、唖然として、ニワトリと隼人を、交互に見ていた。 ヨコタンも同じだった。 「なに、今の!?」 「風魔の不動金縛りです。」 「えっ〜〜!、って言うと、忍術?」 「はい。」 熊さんは、ニワトリを抱きかかえてやってきた。 「何だよ、今のは?隼人さんがやったの?」 隼人は頷いた。 「はい。三十秒くらいで元に戻ります。注意してください。」 「ああ、そうなの?」 「動かないうちに、持って行ったほうがいいですよ。」 「分かった!」 熊さんは、走って戻って行った。 紋次郎が尋ねた。 「今のは、何なんですか?」 「忍術だよ。」 「にんじゅつ?」 「今でいう、瞬間催眠だよ。」 「しゅんかんさいみん…」 ヨコタンが質問した。 「あれ、人間もああなっちゃうの?」 「わたしの力では無理です。」 「じゃあ、できる人もいるの?」 「いるでしょうね。でも分かりません。」 「分からない?」 「昔はいたらしいんですけど、今はいないと思いますが、ひょっとしたら、どこかにいるかも知れません。ひょっとしたら、秀でた修験者だったら出来るかも知れませんが、分かりません。」 「秀でた修験者?」 「マイケル聖(ひじり)とか。」 「マイケル聖…、あなたの先生は?」 「わたしの師匠もできませんでした。」 「こんなの初めて見たわ。」 「なんでも、ご先祖の風魔小太郎様は、人の呼吸も止めることができたそうです。」 「じゃあ、死んじゃうじゃない?」 「はい。風の魔の秘術なんです。」 「風の魔の秘術、…だから風魔って言うんだ?」 「はい。」 「じゃあ、催眠術でも、そういうことができるってことなのかしら?」 「呼吸止めですか?」 「ええ。」 「優れた術者だったら、できると思います。できるはずです。」 「え〜〜?怖〜〜〜い!」 科学者のヨコタンには、信じられないものだった。 「じゃあ、熊とかはできるの?」 「さ〜〜〜、どうでしょう。やったことありませんから。」 「でも、彼だったら出来るって言ってたなあ。人間もできるって言ってたなあ。」 「彼?」 「伊賀さんです。」 「伊賀十兵衛さん!?」 「はい。」 風は、光と闇の間のトワイライトな怪しい風魔の風になっていた。 「別に、催眠術でなくても、自分で暗示をかければ、息くらい苦しくなりますよ。死ぬかどうかは分かりませんけど。」 「自己暗示で?」 「息が苦しい、息が苦しい、息が詰まる、って、一分くらい唱えていれば。」 「もし、ほんとうに息が苦しくなったら、どうすればいいの?」 「そんときは、南無妙法蓮華経!とでも唱えれば、消えます。」 「それって、たしか日蓮の言葉だよね?」 「そうです。さすがですね。」 「そのくらいは知ってるわよ。高校のときに、歴史で習ったから。」 「でも、それどういう意味なの?」 「簡単に言うと、呪文です。今苦しんでいる私を救ってくださいという。」 「そういう意味だったんだ?」 「はい。ただし、信じて唱えないと駄目ですよ。口先だけでは。」 「自己暗示ね。」 「まあ、そうです。」 「忍者も、そう言うの?」 「忍者ですか?忍者は、そういう長いのは言いませんねえ。」 「じゃあ、何て唱えるの?」 「即席の、南無三(なむさん)、かな?」 「どいうときに?」 「…やばいときに。」 「よく言うよね、それ。」 「はい。普通の人でも言いますね。」 「侍映画で、よく言うよね。」 「はい。侍が、戦う前に言うんですよ。」 「そういうことか。じゃあ、わたしも南無三にしよう!」 隼人は、にやっと笑って見せた。 「どういう意味なの?」 「仏・法・僧の三宝の救いを請うという意味です。」 「ふ〜〜〜ん。さすが忍者だね。」
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