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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第23回   風の魔の秘術
隼人がやって来た。ヨコタンに尋ねた。
「龍次さん来なかった?」
「ポンポコリンのドームハウスに行きました。」
「あっ、そう。」
熊さんが、ニワトリを追いかけながら、反対側からやって来た。
「お〜〜〜い、そのニワトリ、捕まえてくれ〜!」
ニワトリは、首を振りながら早足でやって来た。
紋次郎が、捕まえようとしたが、失敗した。ヨコタンも捕まえようとしたが、失敗した。
なぜが、ニワトリは、隼人を避けながら通り過ぎて行った。熊さんが、みんなの前を通り過ぎて行った。
「誰か〜、捕まえてくれ〜〜!」
近くのドームハウスの前で、二人が焚き火をしながら焼き芋を焼いていた。その二人が、ニワトリを追いかけ出した。ニワトリは、こっちにやって来た。
ヨコタンと隼人以外は、捕り物騒ぎとなった。
隼人は鋭い忍者の目になっていた。
「あんなんじゃ捕まらないよ。」
突然、隼人は両手で印を結ぶと奇声を発した。
「キェ〜〜イ!」
ニワトリは、突然動かなくなった。蝋人形のように固まっていた。
みんなは、唖然として、ニワトリと隼人を、交互に見ていた。
ヨコタンも同じだった。
「なに、今の!?」
「風魔の不動金縛りです。」
「えっ〜〜!、って言うと、忍術?」
「はい。」
熊さんは、ニワトリを抱きかかえてやってきた。
「何だよ、今のは?隼人さんがやったの?」
隼人は頷いた。
「はい。三十秒くらいで元に戻ります。注意してください。」
「ああ、そうなの?」
「動かないうちに、持って行ったほうがいいですよ。」
「分かった!」
熊さんは、走って戻って行った。
紋次郎が尋ねた。
「今のは、何なんですか?」
「忍術だよ。」
「にんじゅつ?」
「今でいう、瞬間催眠だよ。」
「しゅんかんさいみん…」
ヨコタンが質問した。
「あれ、人間もああなっちゃうの?」
「わたしの力では無理です。」
「じゃあ、できる人もいるの?」
「いるでしょうね。でも分かりません。」
「分からない?」
「昔はいたらしいんですけど、今はいないと思いますが、ひょっとしたら、どこかにいるかも知れません。ひょっとしたら、秀でた修験者だったら出来るかも知れませんが、分かりません。」
「秀でた修験者?」
「マイケル聖(ひじり)とか。」
「マイケル聖…、あなたの先生は?」
「わたしの師匠もできませんでした。」
「こんなの初めて見たわ。」
「なんでも、ご先祖の風魔小太郎様は、人の呼吸も止めることができたそうです。」
「じゃあ、死んじゃうじゃない?」
「はい。風の魔の秘術なんです。」
「風の魔の秘術、…だから風魔って言うんだ?」
「はい。」
「じゃあ、催眠術でも、そういうことができるってことなのかしら?」
「呼吸止めですか?」
「ええ。」
「優れた術者だったら、できると思います。できるはずです。」
「え〜〜?怖〜〜〜い!」
科学者のヨコタンには、信じられないものだった。
「じゃあ、熊とかはできるの?」
「さ〜〜〜、どうでしょう。やったことありませんから。」
「でも、彼だったら出来るって言ってたなあ。人間もできるって言ってたなあ。」
「彼?」
「伊賀さんです。」
「伊賀十兵衛さん!?」
「はい。」
風は、光と闇の間のトワイライトな怪しい風魔の風になっていた。
「別に、催眠術でなくても、自分で暗示をかければ、息くらい苦しくなりますよ。死ぬかどうかは分かりませんけど。」
「自己暗示で?」
「息が苦しい、息が苦しい、息が詰まる、って、一分くらい唱えていれば。」
「もし、ほんとうに息が苦しくなったら、どうすればいいの?」
「そんときは、南無妙法蓮華経!とでも唱えれば、消えます。」
「それって、たしか日蓮の言葉だよね?」
「そうです。さすがですね。」
「そのくらいは知ってるわよ。高校のときに、歴史で習ったから。」
「でも、それどういう意味なの?」
「簡単に言うと、呪文です。今苦しんでいる私を救ってくださいという。」
「そういう意味だったんだ?」
「はい。ただし、信じて唱えないと駄目ですよ。口先だけでは。」
「自己暗示ね。」
「まあ、そうです。」
「忍者も、そう言うの?」
「忍者ですか?忍者は、そういう長いのは言いませんねえ。」
「じゃあ、何て唱えるの?」
「即席の、南無三(なむさん)、かな?」
「どいうときに?」
「…やばいときに。」
「よく言うよね、それ。」
「はい。普通の人でも言いますね。」
「侍映画で、よく言うよね。」
「はい。侍が、戦う前に言うんですよ。」
「そういうことか。じゃあ、わたしも南無三にしよう!」
隼人は、にやっと笑って見せた。
「どういう意味なの?」
「仏・法・僧の三宝の救いを請うという意味です。」
「ふ〜〜〜ん。さすが忍者だね。」




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