きょん姉さんは、片手鍋を利き手の左手に持ちながら呟いた。 「高野山の夕方は、やけに夕方だなあ〜や!」 近くでカラスが、カカァ〜と鳴いていた。姉さんは振り向いた。 「カラスの平吉だ!」 近くで一番大きな木の上にいた。ぎょろ目が光っていて姉さんを睨んでいた。今にも飛びかかって来そうな雰囲気に、姉さんは家路を急いだ。 「この御飯だけは、絶対にやらないからな!」 姉さんは、あたふたとログハウスに入って行った。バタンとドアを閉めた。 台所にいた福之助がびっくりして、首だけが高速回転して振り向いた。 「どうしたんですか、姉さん?」 「あのやろうが出てきたんだよ!」 「あのやろう?」 「カラスの平吉だよ!」 「やっぱり、お知り合いのカラスだったんですか?」 「カラスに知り合いなんかいねえよ!」 「ああ、そうなんですか?」 アニーは、白雪姫のようにすやす〜やと寝てるように見えた。 姉さんは、テーブルの上の鍋敷きに、いい感じで鍋を置いた。 「いい感じの御飯ができたよ〜〜ぅ、福ちゃわん!」 「わたしは、茶碗じゃありませんよ!」 アニーが目を開けて返事をした。 「お帰りなさい。よく炊けました?」 姉さんは、子供のように無邪気にその言葉に喜んだ。 「はい、とっても!」 姉さんは、鍋の蓋をちょっとだけ開けて匂いを嗅いだ。急いで蓋を閉めた。 「あ〜〜〜ぁ、いい匂い!脳細胞がとろけるわ!」 「脳細胞がですか?」 「はい。」 姉さんの頭の中では、アラム・ハチャトゥリアンの剣(つるぎ)の舞が、ちゃんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃんと鳴っていた。 「これで、カレーを食べると美味しいだろうな〜、ひゃほ〜〜!」 浮かれていた。 「おい、福!早くカレー持って来い!」 福之助は、 「姉さんは、めでたいですねえ。」と言いながら、カレーの入った鍋を持って来た。 「皿、持って来い!」 「はいはいはい!」 直ぐに持って来た。 「よお〜〜し、食べるぞ〜〜!」 姉さんはアニーを見て、目が白雪姫のようにぱっちり見開いているのを確認してから、親切に尋ねた。 「アニーさんも、お召し上がりになります、お食べになります?」 アニーは、上半身を白雪姫のように起こした。 「お食べになります。」 「はい、分かりました!」 姉さんは、にこにこしながら早速に皿に御飯をよそった。そいから、福之助のつくったカレーを御飯の脇役によそった。姉さんは、カレーの匂いを嗅いだ。 「うん、いい匂いだ!でかしたぞ、福之助!」 福之助は、隣にいた。 「でかした?」 「あ〜〜〜、でかした、でかした!たいしたもんだ!」 「でも、食べてみないと分かりませんよ?」 「この匂いだったら、大丈夫だよ〜!もっと自分に自信を持てよ〜、福ちゃわ〜〜ん!」 「わたしは、茶碗じゃありませんよ!」 「大丈夫、大丈夫!わたしが言ってるんだから!」 アニーは、白雪姫のようにテーブルの前に座った。 「アニーさん、大丈夫?」 「うん、さっきよりは大分良くなったわ。」 「それは良かったわ。」 「お召し上がりになります?」 「はい!」 「じゃあ、神様に感謝をして頂きましょうか?」 「はい。」 アニーは、白雪姫のように、しおらしかった。姉さんは手を合わせた。 「頂きまする〜!」 アニーは「頂きま〜す。」と言った。 二人は、仲の良い姉妹のように食べ始めた。福之助は、木の上に立って見る親のように、二人を見ていた。高野山の鐘が鳴っていた。 姉さんは、御飯を噛み噛みしながら目を丸くしていた。 「わ〜〜〜、この御飯、月とスッポンポンだわ〜〜!」
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