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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第186回   五・七・五
「おまえは、お茶のだしかただけは上手いね!」
「ありがとうございます。正確に急須から湯飲みに注ぐ時間を計ってますから。」
「そういうことか。」
「はい。そういうことです。」
「お茶飲めば、隣は何をする人ぞ…」
「何をする人ぞって、アニーさんじゃないですか?失礼じゃないですか!」
「句だよ、句!」
「く?」
朝食が終わり、姉さんは美味そうに茶を飲んでいた。アニーも同じ茶を飲んでいた。
「あんた、句を知らないの?」
「八の次。」
「アホ!」
「アホとは何ですか!失礼な!」
「五・七・五だよ。」
「五・七・五?どうして、九が五・七・五なんですか?足したら、十七ですけど?」
「アホ!俳句だよ、俳句。松尾芭蕉の世界。」
「あ〜〜〜、松尾さん!」
「松尾さん?あんた分かってるの?」
「どこの人なんですか?」
「やっぱりな!」
「お知り合いですか?」
「そうだと思ったよ。昔の人。」
「ああ、そうなんですか。」
「これ以上説明しても無駄だから、止〜めた!」
アニーが説明を始めた。
「五・七・五って言うのは、五つの言葉、七つの言葉、五つの言葉で作る言葉の遊び、かな。分かった?」
「お茶飲めば、隣は何を、する人ぞ。なるほど、五・七・五だ!」
「何か作ってごらん。」
「はい。」福之助は、十秒ほど考えた。
「できました!」
「どんなの?」
「姉さんは、食いしん坊の、変な人!」
姉さんは怒った。
「なんだよそりゃあ!ただの日常会話じゃないか。何にもないじゃないかよ。」
「何にもない?」
「遊びがないんだよ。言葉で遊ぶの。」
「言葉で遊ぶ?」
「情緒を感じて。」
「情緒を感じて?」
「あ〜〜〜、もういい!」
「やっぱり、電子頭脳の福ちゃんには無理かな。」
「言葉の無駄使いですよ、それは。貴重で大切な言葉が可哀想ですよ。」
「は〜〜〜あ?」
「福ちゃん、わたしたちこれから仕事に行くから、インターネットで勉強しておいてよ。」
「分かりました。五・七・五のはいくですね。」
「そう。」
「何時ごろ帰ってくるんですか?」
「今日は早いわ、十時ごろ。」
「分かりました!」
二人は、用意を終えるとドアに向かった。姉さんが福之助に言った。
「福之助、真由美ちゃんが来たら、トマトを六つ買っておいて。」
「はい。」
ちょうど七時だった。二人が出た後、福之助は呟いた。
「ふたりとも・ぼくをのこして・いきました。」





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