「おまえは、お茶のだしかただけは上手いね!」 「ありがとうございます。正確に急須から湯飲みに注ぐ時間を計ってますから。」 「そういうことか。」 「はい。そういうことです。」 「お茶飲めば、隣は何をする人ぞ…」 「何をする人ぞって、アニーさんじゃないですか?失礼じゃないですか!」 「句だよ、句!」 「く?」 朝食が終わり、姉さんは美味そうに茶を飲んでいた。アニーも同じ茶を飲んでいた。 「あんた、句を知らないの?」 「八の次。」 「アホ!」 「アホとは何ですか!失礼な!」 「五・七・五だよ。」 「五・七・五?どうして、九が五・七・五なんですか?足したら、十七ですけど?」 「アホ!俳句だよ、俳句。松尾芭蕉の世界。」 「あ〜〜〜、松尾さん!」 「松尾さん?あんた分かってるの?」 「どこの人なんですか?」 「やっぱりな!」 「お知り合いですか?」 「そうだと思ったよ。昔の人。」 「ああ、そうなんですか。」 「これ以上説明しても無駄だから、止〜めた!」 アニーが説明を始めた。 「五・七・五って言うのは、五つの言葉、七つの言葉、五つの言葉で作る言葉の遊び、かな。分かった?」 「お茶飲めば、隣は何を、する人ぞ。なるほど、五・七・五だ!」 「何か作ってごらん。」 「はい。」福之助は、十秒ほど考えた。 「できました!」 「どんなの?」 「姉さんは、食いしん坊の、変な人!」 姉さんは怒った。 「なんだよそりゃあ!ただの日常会話じゃないか。何にもないじゃないかよ。」 「何にもない?」 「遊びがないんだよ。言葉で遊ぶの。」 「言葉で遊ぶ?」 「情緒を感じて。」 「情緒を感じて?」 「あ〜〜〜、もういい!」 「やっぱり、電子頭脳の福ちゃんには無理かな。」 「言葉の無駄使いですよ、それは。貴重で大切な言葉が可哀想ですよ。」 「は〜〜〜あ?」 「福ちゃん、わたしたちこれから仕事に行くから、インターネットで勉強しておいてよ。」 「分かりました。五・七・五のはいくですね。」 「そう。」 「何時ごろ帰ってくるんですか?」 「今日は早いわ、十時ごろ。」 「分かりました!」 二人は、用意を終えるとドアに向かった。姉さんが福之助に言った。 「福之助、真由美ちゃんが来たら、トマトを六つ買っておいて。」 「はい。」 ちょうど七時だった。二人が出た後、福之助は呟いた。 「ふたりとも・ぼくをのこして・いきました。」
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