隊長は、寝る前に、荻野目ちゃんの立体映像でダンシングヒーローを見て聞いていた。 「ひゃっほ〜〜、今夜だけでもシンデレラボーイ♪」 副隊長が、立体映像ルームに入って来た。 「今夜もやってますな〜〜、隊長!」 「一日の締めくくりに、これをやらないとね〜〜、どうも。」 「熱心ですな〜。」 「立体は実に面白いぞ。立体は、なかなかリッタイヤしない!な〜んちゃって。」 副隊長には、駄洒落が分からなかった。 「いいですな〜〜、隊長は脳天気で。」 「なんだと!脳天気とは、何だ!偉大なる隊長に向かって!」 「すみません!夕食のてんぷらの食べ過ぎで、つい口が滑ってしまいました。」 「なんだおまえ、てんぷら食ったのか?」 「はい、とっても美味しかったです。…ポジティブという意味です。」 「うん、それなら分かる!こうやって、一緒に踊ってみろ。楽しいから。この荻野目ステップって、難しいぞ〜〜、知らないだろう?おまえもやってみろ!」 「わたしは、ダンスはどうも苦手なんですよ。」 「ダンスが苦手だと、そんなことじゃあ駄目だんす!」 今度の駄洒落は、単純なので分かった。 「面白い!さすが駄洒落の天才の隊長!」 「こうやってやるんだ。よく見とけ。」 「はい。」 「内股でステップ、ステップ♪」 「わ〜〜、隊長お上手ですな〜〜!」 「あたりまえだ。年季が違う!」 「さすが、三百十六歳!」 「お前は何歳だ?」 「まだまだ、百五十二歳の若造です。」 「なんだ、俺の半分か!若いな〜〜。」 「はい。」 「年季がはいった年金生活!な〜〜んちゃってな。」 「面白い!」 「江戸時代の人間は、素朴で良かったんだけどな〜、どうしてこんな風に猿みたいになっちゃったんだろうな〜?」 「そうなんですか?」 「おまえの得意なものは、何だ?」 「民謡なら、盆踊りなら得意です。」 「ああ〜〜〜、もういい!おまえと話してると、脳にコケが生える!」 「そりゃあ〜〜、ひどいですな〜〜。」 「ちょっとテンポを落としてくれない。今一ステップが分からない。」 「はい。ホップ・ステップ・ジャンプ!」 「おまえ、面白いじゃないかよ!」 「ありがとうございます!落としました。」 「もう少し落として。」 「はい。」 「…なるほど、こうか。よし!正常に戻して、最初から。」 「はい。」 副隊長は、下からのアングルで、ニタニタしながらパンチラを見ていた。 「おまえは、そういう趣味だったのか!」 「はい!」 「下劣な奴だな〜。」 「下劣ですみません!」 「どれどれ…」 隊長も降りてきた。 「お〜〜〜〜!も〜れつ!」 「小川ローザですね。古いですね〜、隊長!」 「だいぶ古かったな。」 副隊長は大事なことを思い出した。 「隊長、隣のアパートで、子供の泣き声が聞こえるんです。普通じゃない、鳴き声なんですよ。ひょっとしたら、児童虐待ではないかと思いまして。」 「そうか、児童虐待かも知れんな…」 隊長は、踊りを止めて、立体映像の電源を切った。 「一緒に見に行こう!事が起こった後からでは大変だ。」 「はい!」 「猿どもは、俺たちと違って、平気で子供を虐待するからな〜〜。」 「はい。恐ろしい動物です。」 「まったくだ。」 「警察には、連絡したのかね?」 「まだです。」 「そうだな、確認してからだな。」 「まったく、心のない動物ですねえ。」 「猿には、心なんかないよ。あるのは食欲と性欲と闘争欲だけだよ。」 「恐ろしい動物ですな〜〜。」 「まったくだ。宇宙の獣だな。あ〜〜、恐ろしい、恐ろしい!」 隊長は、身震いがした。アパートは、会社の隣にあった。雨は降っていた。二人は傘を差して出て行った。「隊長、ここです。」副隊長は、二階建てアパートの二階を指差した。「やっぱり止めよう。」隊長は、なぜか足を止め、ユーターンした。 「面倒なことにになって、会社を恨まれたら大変だ。猿は恨むと何をするか分からん。」 「はい。」 「猿は、欲望が満たされなくなると、周りに八つ当たりするからな〜。」 「実に恐ろしい動物です。」 「猿どもは、平和になれば、今度は幸福で競い合うんだよ。俺のほうが幸せだろう、俺のほうが豊かで幸福だろうってね。」 「下等な動物ですな〜。」 「競い合って差別を作ることでやっと生きてる、野蛮な動物なんだよ。 「実に野蛮な動物ですな〜。」 「吐き気がしてくるな。」 「はい!吐き気がしてきます!」 「取り合えず、警察に連絡しとこう。我々には。それしかできないよ。」 「はい。」 子供の異常な泣き声は、まだ時々聞こえていた。 「最近の地球人の書く小説は、暴力と虐待とセックスだけだし。実に恐ろしい動物だな〜。」 「はい、実に恐ろしい動物です。」 「病気だな完全に、この世界は。どうかなってるよ。」 「恐ろしい地球になってきましたな〜、隊長。」 「ああ、身震いがしてきたよ。しかし、子供の泣き声と、暴走族のバイクの爆音って似てるな〜。」 「えっ?」 「なんか、俺にはそういう風に聞こえるんだよ。」 この世を恨むような雨が、暴走族の爆音のように、ごうごうと激しく降っていた。 「猿のいざこざに関わっていたら、きりがない。寝るぞ。」 「はい。」 「あっしには関わりあいのないことで。」 「はい。」 上空を、木枯し紋次郎のような風が吹いていた。 その日の深夜、雪だらけの龍の玉が上空に現れ、まるで巣に帰るように高野山に向かって飛んで行った。
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