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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第180回   新共産主義
ヨコタンは窓越しに雨を見ていた。手にはタオルを持っていた。
「紋ちゃん、大丈夫かしら…」
ドアが開いて、紋次郎が帰ってきた。
「うわ〜〜〜、どしゃ降りだ〜〜!」
ヨコタンは紋次郎に駆け寄った。
「あ〜〜〜あ、こんなに濡れちゃって!」
「でも、全部回ってきました。」
「そうなの、偉いわねえ〜。ちょっと待って、ボディを拭いてあげるから。」
「ありがとうございます。」
ヨコタンはタオルで拭き始めた。
「アライグマが川にいました。」
「タヌキじゃなかったの?」
「タヌキじゃありません。しっぽが長くて縞がありましたから。」
「じゃあ、アライグマね。手を出して。」
「はい。」
「あら、どうしたの?左手の中指がへっこんでるよ?」
「間違って、金槌で打ったんです。何ともありません。」
「人間だったら、大怪我してるわ。気をつけないと駄目よ。」
「はい、明日からは気をつけます。」
「後ろ向いて。」
「はい。」
紋次郎は素直に後ろを向いた。
中国語の人達が傘をさして歩いていました。」
「何人くらい?」
「三人です。」
「こんな遅くにねえ。元気がいいわね〜。」
「仙人郷旅館という名前が傘に書いてありました。」
「旅館の宿泊客か。」
「そうだと思います。」
「中国の新共産主義政策だわ。」
「何ですか、それ?」
「世界革命政策よ。」
「はっ?」
「銃による革命じゃなくて、マネーによる世界革命政策。」
「マネーによる?」
「資本主義を利用して、国民の金欲や競争心を煽って、世界中に飛び立たせて土地や物を買占め中国を富ませて一番になり、世界の頂点に立つ、これが中国の世界革命政策よ。」
「そうなんですか。」
「だから、中国国内の土地は買えないでしょう。国家管理の社会だから。全ては、経済の上に立つ中国共産党がコントロールしてるの。」
「じゃあ、彼らは、中国だけではなくって、全世界をコントロールしようとしてるんですか?」
「資本主義の弱点である、経済はコントロールできないということを、逆利用しているの。」
「コンピュータで言う、セキュリティホールってやつですか?」
「もっと、基本的な根源的なものだね。」
「つまり、世の中を根底から変えようとしてるんですね?」
「そう、根底から彼らの考える新共産主義にね。」
「共産主義にですか?共産主義ってのは、平等社会の実現ではないんですか?」
「新共産主義って言うのは、富める者から経済尖兵になれという考えなの。」
「国民は兵隊なんですか?」
「まあ、そうだね。お金が武器の兵隊なの。」
「国民は納得してるんですか?」
「国民は、そんなこと知らないわ。」
「それは、誰の考えなんですか?」
「わたしの考え。」
「じゃあ、中国は資本主義を目指しているんじゃないんですね?」
「彼らは、中国の共産主義はアメリカの資本主義に敗北したとは思ってないのよ。」
「それは、誰の考えなんですか?」
「わたしの考え。資本主義にも色々あるように、共産主義にも色々あるってことね。」
「さすが、囲碁発祥の地ですね〜、考えが深い!中国流布石ってやつですね。」
「はっ?」
ヨコタンは、紋次郎の変な答えに戸惑った。そして笑った。
「そういう感想もあるんだね。」
「じゃあ、中国は敵なんですか?」
「敵と言えば、外国はみんな敵だよ。競争相手という意味だよ。」
「どこの国も、自分の国を豊かにするのに必死なんですね。」
「そういうことです。」
「雨が多いと目に入って、見えなくなってくるんです。」
「そうか〜。紋ちゃんは眉毛がないからねえ〜。目の上にひさしがあるといいんだけどね〜。」
「そうですか?」
「そうだ、帽子をあげるよ。大きい帽子があったわ。」
ヨコタンは、中国人のかぶるようなツイードのハンチング帽を持って来た。
「はい。」
ヨコタンは、紋次郎の頭に被せた。「わ〜〜、ぴったり!」
「そうですか?」
「まるで、ドラマに出てくる刑事みたいだわ。」
紋次郎は歩いて見せた。
「わ〜〜、なかなか似合ってるわ。」
紋次郎は、とってもとっても微笑んでいた。
「熊さん、何て言うかな〜〜、楽しみだな〜。」
「明日も、熊さんとやるの?」
「そうです。正男くんの子守をしながら。」
「アライグマの映像ある?」
「はい、ちゃんと撮ってあります。」
「ちょっと見せて。」
「はい。」紋次郎は暗い部屋の白い壁に目と目の中央にある小さな映写窓から光を放った。アライグマが壁に映っていた。
「やっぱり、アライグマだわ。」
紋次郎は、映写を止めた。
「高野山には、猿はいないけど、猿のいるところでは、アライグマが洗っているときに、よく猿に横取りされるのよ。横取りは、猿は得意だから。」
「そうなんですか。猿って、ずるいんですね〜〜。」
「アライグマが、ぼんやりしてるからよ。」
「じゃあ、アライグマは猿を恨んでいるんですね。」
「そうかも知れないね。」
「きっと恨んでますよ、心の底から。」


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