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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第177回   縄文人間党
極限正義党の連中は、二人の猿人間キーキーが「下界に帰る!」と言って、合計八人になっていた。そのなかには、温泉ホームレスも二人いた。
「あの二人、また戻ってくるさ。」
「そうだ、そうだ。」
「いいじゃないか、人間は皆自由なんだから。」
「そうだ!あんたは百パーセント正しい!」
ラジオがニュースを流していた。

 今朝、五歳の女の子が、キックボードで遊んでいたところ、ワゴン車にひかれ死亡しました

「あ〜〜〜あ、可哀想にな〜〜!」
「涙が出てくるな〜。」
「わずか五歳で殺されるなんて、まるで戦場だな〜!」
「南無阿弥陀仏!」
「運転席からだと死角になっちゃうんだよ。」
「じゃあ、完全なる欠陥商品だよ!」
「おっそろしい!おっそろしい残酷な社会だな〜〜!」
「今の社会は狂ってるよ!」
「自動車は人を殺す凶器だからな。あんなもの乗ってるからいけないんだよ。」
「まったくだ、まったくだ!」
「凶器準備集合罪だな!」
「いいこと言うね〜〜〜!」
「危険物取締法違反だな。」
「そうだ、そうだ!」
「ありゃあ、人殺しの兵器だよ。」
「こんな危険なものを走らせてる社会が悪いんだよ。銃と同じだよ。」
「銃より危険だよ。」
「爆弾だな。」
「爆弾より危険だよ。何度も殺せるんだからな。」
「いや、作ってる会社が悪いんだよ。こんな危険なものを。平和な道具と偽って。」
「そんなものに騙されて、馬鹿面して乗ってる人間が、一番悪いんじゃないのか?」
「だとしたら、今の人間は血も涙もない鬼だな。」
「鬼だ!罪人だ!」
「とにかく、人や動物を殺せる自動車が悪い!あれは人殺しの道具だ!」
「そうだそうだ、自動車なんか叩き壊せ!命を弁償しろ!」
「そうだ、あんたは百パーセント正しい!」
温泉ホームレスの二人は、ちょっと違う意見だった。
「猿が、生意気に文明とか言って、調子に乗るから事故が起きるんだよ。猿が、あんなのに乗ったら、ああなるに決まっているよ。想像したら分かるだろう。」
「そうだ、われわれは便利よりも、人を傷つけない良心で生きる!」
「そうだ、猿に文明が悪い!猿は縄文時代に戻るべきだ!」
「そうだ、文明は我々を堕落させる!心を腐らせる!」
「我々は、昔の人を殺す兵器のない時代に戻るべきだ!無秩序な野蛮文明反対!」
「そうだ、文明は人殺しの野蛮人になる!機械に頼る怠け者になる!」
「そう通りだ!」
「今の世の中は、人を奴隷のように死ぬまで働かせて、まるで地獄だよ。」
「その通り、この世は地獄だ!」
「金持ちの奴ら、貧乏人の競争心を利用してな!」
「動き回るのが労働と思ってる単純脳の猿が悪いんだよ!」
「そうだ、そうだ!」
「無闇に働いて地球を汚すな!野蛮な労働反対!」
「怠けて、地球を守ろう!」
「怠けちゃ駄目だよ!」
「よく考えてから行動しろってこと。無闇に腹を空かして屁をこくなってこと。メタンガスは炭酸ガスよりも環境に悪いんだよ。みんなのことを考えて働かないと。自分一人で生きているんじゃないんだから。みんながいて、自分があるんだから。」
「なんだ、そういうことか。」
「とにかく、酸素を無駄に使って炭酸ガスを出すなってこと。」
「なんだ、そういうことか。」
「奴らに労働を安くで売るな〜!階級闘争放棄!」
「はっ?」
「狭き門より入れ!」
「はつ?」
「楽しちゃあいけないってことだよ。文明は進化したが、心は縄文時代のままなんだからな。」
「分かった分かった、君たちの意見は分かった!昔のままのほうがいいってことだろう。」
「そういうこと!」「そういうこと!」
「まあ、分からないこともないけど、君たちの意見は過激すぎるよ。」
温泉ホームレスの二人は、安い焼酎を飲んでいた。なぜか、猿人間キーキーたちは、酒が嫌いだった。共通していた。
「あ〜〜、九時過ぎちゃったよ。」
リーダー格のカムイという男が立ち上がった。
「熊よけのポールを立ててくるか。」
そう言うと、彼は大きなテントの下にある、工事用の赤く点滅するポール三本を持って、寝床用のテントの周りに一本一本のスイッチをオンにして点滅させ、立てて行った。
「よし、これでよしっと!」
「そんなもので、ほんとうに大丈夫なのかよ?」
「ああ、大丈夫だよ。熊は近眼だから、赤く点滅してると、火だと思うんだよ。」
「へ〜〜〜え、熊って近眼なんだ?」
「そうらしいよ。」
「なんだ、らしいか。」
「とにかく、動物は赤く点滅するのを恐れるって、地主が言ってたよ。」
「地主か、なんだか頼りない情報だなあ〜。」
「じゃあ、原始共産主義の、お二人さん、お休み!」
「俺たち、原始共産主義だって!」
「そっうかな〜〜?」
カムイは、自分のテントの中に入って行った。彼の仲間もテントに入って行った。温泉ホームレスの二人は、月の下でまだ飲んでいた。
「いい月だな〜〜。」
「そうだな〜〜〜。」
「縄文時代も今も、月は同じなんだろうな〜。」
「あたりまえだよ。」
「地球と月は、長い付き合いなんだな〜〜。」
二人は、月を眺めながら飲んでいた。
「これが、人間の幸せだ!」「そうだ、そうだ!」
「俺たち二人は、これから、縄文人間党と呼ぼう!」
「お〜〜〜、いいね〜〜!」
二人は、乾杯した。秋の虫が、秋の虫のように縄文時代の虫と同じように鳴いていた。
「あんた、今いい顔してるよ。」
そう言うと、男は自分たちのテントに入り、スケッチブックを持って戻って来た。
「そのまま、そのまま!」
男は、色鉛筆で描き出した。
「こんなんでいいの?」
「自然の人間の姿だよ!」
「そう?」
「焼酎じゃなくって、おにぎりだったら、尊敬する放浪の天才画家、山下清先生なんだけどな〜。」
「あんた、美大出だからな〜〜〜。やっぱ、インテリだな。こんなときに絵を描くなんて。」
月を横切って、ジャンボ飛行機が飛んでいた。
「あ〜〜あ、お月さんを真っ二つに切り裂いてしまって!残酷な風景だな〜!」
「どこに行くのかな〜、鬼どもは、あんな野蛮な物に乗って?」
「飢えで死んでいる人間が沢山いるのにな〜〜、ありゃあ鬼だな。鬼の乗り物だな。」
「鬼だ鬼だ、鬼はみんな死んでしまえ!地獄に落ちろ!」
「いつの間にか地球は、野蛮で冷酷な鬼だらけになってしまったな〜〜。」



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