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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第176回   七割の確信
豊沢会長は、カツ丼を食べ終わると、ソファーの上で寝てしまった。隊長は、エアコンを点けて、毛布を掛けてやった。隊長と福隊長は、会長が起きるのを待っていた。するってえと、むんずと会長は起き上がった。
「何時だね?」
「九時です。」
「あ〜〜、よく寝た!やっぱりシャバの空気はいいな〜〜。」
「あの世では、あんまり寝てないんですか?」
「寝たのか寝てないのか、さっぱり分からないんだよ。」
「さっぱり分からない?」
「寝たという記憶がないんだよ。寝てるらしいんだけどな。」
「はあ〜〜あ?」
「ときどき眠くはなるんだよ。小さな丘みたいな山があってな、彼岸花みたいな花があってな〜、あの世だから、その逆で此岸(しがん)花だな。こりゃあ傑作だ!あっはっは!そこにいると寝てしまうんだよ。不思議なとこだよ。」
「沢山いるんですか、そこには?」
「けっこういるねえ、霧であまり見えないけど。百人くらいはいるんじゃないかな〜。」
会長は急に泣き出した。
「寝てると、小さな子供たちが寄ってくるんだよ。五歳にも満たない小さな子供たちでなあ、土で団子を作って食べたふりをして遊んでいるんだよ。目に涙を浮かべて、お腹空いたよ〜、お腹空いたよ〜!って泣いているんだよ。きっと、幼くして死んだ子供たちなんだろうな〜。」
会長は、手の甲で涙を堪えていた。
「きっと、そうなんでしょうね〜。世界中で、一日に五歳以下の子供たちが、約一万八千人の飢えで死んでいるそうです。」
「一日かね?」
「はい。一日に一万八千人です。」
「それは、憂慮すべき問題だな〜〜。」
「猿どもは、自分たちさえ良ければいいんですよ。」
「猿って?」
「言い間違えました。人間のことです。地球人のことです。」
「手厳しいな〜。まあそうだけど、地球人も、どうしたらいいんか分からないんだよ。」
「片方では、食料を捨て、片方では飢えている。そして、山を削り動物を追い出し、のうのうと限られた人間だけが生きている。」
「人間ってのは、生活に追われると、他人のことなど考えられなくなってくるんだよ。」
「きっと、神様の罰が当たりますよ。」
「もう当たっているのかも知れないよ。」
「そうですか?」
「ああ、この世も長くはないよ。地球温暖化で終わってしまうよ。」
「会長も、そうお考えですか?」
「地球人は、基本的に自己中心的にものを考えるからな〜。」
「それじゃあ、猿と同じですね〜。」
「まあ、そういうことになるな。元が猿だからな。」
会長は、少し虚しい顔になった。
「きっと、神様の罰が当たったんだよ。」
「ほんとうに、そうかも知れませんね。」
「そういう人間を、君は救おうとしているんだよ。不思議だな〜。」
「全ての地球人が悪いわけではありません。いい人間もいますよ。だからやるんです。」
「さすがアライグマが先祖だけあって、偉いな〜。」
「アライグマは、自然と平和を愛しているんです。無用な争いや競争は好まないんです。」
「地球人も争わない世の中にしたいんだけどな〜。」
「地球人の悪いところは、自分たちだけが正しいと思ってるところです。」
「そうかもしれんな。自分の行動や考えを悪いとは思っていないな。そんなこと思ってたら、ウツになってしまうからな。」
「だから駄目なんですよ。われわれは、約七割の確信で正しいと思っているんですよ。」
「七割の確信で?そうなの?」
「はい。十割の確信なんて、神様ではないので有り得ないことです。」
「そうか、そういうことだったのか〜。」
「だから、わたしたちは、いつも、ひょっとしたら間違ってると思っているんです。」
「なるほど。」
「ひょっとしたら、間違ってるという確信を持って生きているんです。」
「間違ってるという確信…」
「はい。」
「なるほど。」
「百パーセント正しいプログラムなんて、ありません。バグは必ずあります。百パーセントの確信は、数字の概念と物理法則だけです。」
「なるほど、なるほど。」
隊長は話題を変えた。
「会長、これからどちらへ?」
「一時間ほど飛び回ったら、あの世に帰るよ。」
「そうですか、夜でも猿狩り小次郎がパトロールに飛び回ってますから、お気をつけて。」
「ああ、気をつけるよ。もし出会ったら、直ぐに帰るよ。」
会長は立ち上がった。
「さて、月でも見ながら、あの世に帰るとするか。」
隊長も立ち上がった。
「また、来てください。」
副隊長も立ち上がった。
「お待ちしています。」
「また、カツ丼を頼むよ。いや、富士宮焼きそばがいいかな?」
「富士宮焼きそば?」
「ここには無いな。やっぱり、カツ丼でいいよ。」
「お安い御用で。」
「じゃあな!」
会長は部屋を出ると、「あの世から、君たちの成功を祈っているよ。」と言って、手を振り、龍の玉に乗り込んだ。
「このドラゴンボール、あっと言う間に、どこでも行くんだよ。凄い乗り物だよ。」
鋭い金属音が鳴り響きエンジンがかかった。二人が深く頭を下げると、ドアが閉まり、頭を上げると、もう上空に飛び上がっていた。

会長は、カツ丼を食べて上機嫌だった。
「さて、どっちから帰ろうかな〜?」
目の前にはワープナビゲータがあった。
「そうだ、エベレストには行ったことなかったな。エベレストを見に行こう!」
会長は、エベレストに行く先をセットした。
「よし、ワープ!」

龍の玉を見ていた二人の上空から、龍の玉は、雷光と雷鳴を残していなくなった。
「会長、いきなりワープで行っちゃいましたよ!」
「どこに行ったんだろうな?」
「富士宮じゃないんですか?」
「そうだな、そんなこと言ってたな。」
「富士宮じゃなかったら、草津の温泉地とかじゃないですか?」
「そうだな。会長は温泉が好きだったからな。」
「きっと、そうですよ。」
「そうだな。」
隊長は、空を見上げながら頷いていた。



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