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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第174回   シャバのカツ丼
「ご先祖様は、元気だな〜〜。」
「よく食べたますな〜〜。」
「オロロン星のアライグマとは、大きさが大分違うが、飼うには地球のアライグマはいいな。」
「そうですな〜〜。」
隊長と副隊長は、会社の庭で飼われている二匹のアライグマを見ていた。アライグマが上を見て、犬小屋に逃げて行った。上空から、鋭い金属音が聞こえて来た。二人は、上空を見上げた。
「あっ、龍の玉だ!」
「どうしたんでしょう?」
龍の玉は、庭に降りてきた。中から豊沢会長が出てきた。
「やあ〜〜、こんばんわ!」
隊長が返事した。
「会長、どうしたんですか?」
「実はなあ〜、ボルトが緩んでるんだよ〜。ガタガタ言ってうるさいんだよ。」
「ボルトがですか?」
「ああ、椅子の下のほうだよ。締めてくれないかな〜。」
「分かりました。」
「わたしが見てきます!」
副隊長が龍の玉の中に入って行った。すぐに出てきた。
「緩んでるみたいですけど、どこだか分かりません。エンジニアの手先くんを読んできます。」
「分かった!会長、直すあいだ、中で待っててください。」
「ああ、そうするよ。」
二人は、部屋の中に入って行った。ゲストルームだった。女社員は、もう帰っていた。
「会長、コーヒーがいいですか?お茶がいいですか?」
「温っかい茶をくれ。」
「はい!」
すぐに、盆に載せて持って来た。
「どうぞ。」
「ありがとう!」
会長は一口飲んだ。「やっぱり、シャバの茶は美味いな〜〜。」
「そうですか。」
「あの世の茶は、味もそっけもないよ。」
「そうなんですか?」
「あんたも行ったら分かるよ。」
「あの世なんて、わたしはオロロン星人ですから、地球人のあの世には。」
「オロロン星人には、あの世はないのかね?」
「はい、たぶん。」
「なんだ、たぶんか。」
「じゃあ、今度持って来てください。」
「持ってきたら、時間が経つと消えちゃうんだよ、何でもかんでも。」
「あ〜〜、そうなんですか?」
「どういうことなんだろうな〜?」
「さ〜〜〜あ?」
テーブルの上には、大きな地図が広げてあった。
「なんだね、この地図は?」
「この辺りの詳細地図です。」
「何を見てるんだね?」
「今度、社会奉仕事業をやろうと思っているんですよ。」
「ほ〜〜〜?」
「買い物に困ってる、田舎の人達の代わりに買い物をしたり、狭い道で配達に困ってる宅配屋の荷物を届けたりする仕事なんですけどね。会長はどう思われますか?」
「いいんじゃない。人助けはいいことだよ。老人は、きっと喜ぶよ。でも、採算に合うのかね?」
「買い物は無料なんです」
「無料?」
「無料でいいんですよ、困った人を助けられれば。その代わり、野菜などを頂いてきます。」
「ほ〜〜〜、君は大したもんだな〜〜。」
「宅配の委託料だけで大丈夫です。」
「そ〜〜う。で、いつから?」
「来週あたりからやろうと思ってます。明日から調査をやります。」
「調査って、これだけの地域を調査するのは大変でしょう?」
「いい子たちが集まったんですよ。沢山の。」
「いい子?」
「暴走族の子供たちです。」
「なんと!?大丈夫かね、そんな連中で?」
「大丈夫です。彼らも社会の被害者なんですよ。貪欲な地球人の。」
「貪欲な地球人か〜〜。その連中を仕事に使うのかね?」
「はい。一石二鳥でしょう。」
「まあ、そうだが。」
「大丈夫です。彼らも根はいい子なんですよ。」
「君は、まるで宗教家みたいだな〜〜。」
「空海のようなですか?」
「空海か〜〜、同じ故郷なんだよ、弘法大師とは。」
「じゃあ、どこかでいつか、あの世で逢われますね。」
「そうなの?」
「本によると、聖人は、迷える者のために、いつまでも霊界にいるんだそうです。」
「そう?」
「まだ逢ってないんですか?」
「まだ逢ってないよ。そういう人とは。」
「じゃあ、まだ誰にも?」
「普通の人はたくさん歩いているよ。黙ってな、前に向かって。」
「黙って、前に向かって?」
「前しかないんだよ。後ろは真っ暗なんだよ。」
「後ろには行けないんですか?」
「行けないと思うけどな〜。怖いから行ったことないよ。地獄かもしれんな?」
「みんあ逢っても黙ってるんですか?」
「ああ、黙ってるよ、仕方ないから、わたしも黙ってる。」
「どういうとこなんですか、あの世って?」
「何にもないところだよ。霧の中に小さな山があってな〜〜、ときどき大きな石のテーブルと椅子があるんだよ。なぜか飲み物があってな〜〜。口を湿らせるだけで、これが実に味気ないんだよ。」
「お腹は空かないんですか?」
「不思議と空かないんだよ。でも、シャバに来ると腹が減るんだよ。不思議だね〜〜、こうやって無闇に喋るし。」
「じゃあ、会長、今のうちに何か食べますか?」
「そうだな、せっかく来たんだから。」
「何がいいですか?」
「カツ丼!」
「じゃあ、出前を頼みますよ。」
「悪いねえ〜。」
隊長が電話をしていると、副隊長が入って来た。
「今、手先くんがやってます。」
「ああ、そう。」
「会長、龍の玉は、あの世の匂いがしますな〜〜。」
「あの世には、匂いなんかないよ。」
「そうなんですか?」
「匂いもなければ、味もなければ、痛くも痒くもない。無の世界だよ。」
「それは退屈な世界ですな〜。感覚もないんですか?」
「ああ、そうだな。しかし、姿かたちだけはあるんだよ。」
「へ〜〜〜え?」
「立体映像みたいなもんだな。」
「そうなんですか。」
「君も行ってみるかね?」
「とんでもない!」
会長は笑っていた。隊長が「十五分くらいで来るそうです。」と言って、会長の前に座った。
「シャバに来ると、お腹が空くんだよな〜。」
副隊長に代わって、隊長が答えた。
「肉体があるからじゃないんですか?」
「そうだな。変な肉体だけどな。」
「変な肉体?」
「ドラゴンボールに乗ってると、この肉体みたいなものになっちゃうんだよ。」
「ドラゴンボール?」
「龍の玉のことだよ。この肉体、感覚はあるんだけど、血が出ないんだよ。」
「え〜〜〜、そうなんですか?」
「手首を切ってみようか?」
「いいです、いいです!とんでもない!」
「なんともないよ。」
「そんなことしないでください!信じてますから!」
「あっつ、そう。」
「体温はあるんですか?」
「あるよ、ほらね!」
会長は、隊長の手の上に手を置いた。
「あっ、ほんとだ。」
「血が流れてないのに、どうして温かいんだろうね?」
「それは不思議ですね〜。」
「食べて、満腹感などはあるんですか?」
「あるんだよ〜〜。」
「そうなんですか。」
「これは、凄い発明だな〜。」
豊沢会長は、あの世に行っても、やっぱり発明好きの先生だった。


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