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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第172回   消えた名刺
「アニーさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫でありんす。」
福之助の知らない言葉だった。
「ありんす?」
姉さんが教えた。
「ですってことだよ。」
「そうなんですか。」
「水でも持ってきましょうか?」
「水?アイドント・ウォント!ジャパニーズ・ティー!」
「日本茶ですね?」
「冷たい緑茶をちょうだい!」「はい、今持ってきます!」
「アニーさん、ワインをほとんど一人で空けちゃったんだよ。酔うはずだよ。」
福之助が、冷たい緑茶をコップに入れて持って来た。
「はい、アニーさん!」
アニーは「ありがとう。」と言って辛そうに上体を起こした。そして半分ほど飲んだ。
「あ〜〜、おいしい!ありがとう、マイダーリン!」
「マイダーリン?わたしは、ダーリンではありませんよ。ロボットの福之助です。」
「ロボット?」
「はい、ロボットの福之助です。」
「ロボットなのに、優しくて温かいな〜。」
「ありがとうございます。」
「まるで血が流れてるみたいに温かいな〜。」
「血は流れていませんが、電気が流れています。」
「お〜〜〜、の〜〜〜!」
姉さんが手招きした。小さな声で言った。
「あんまり答えるな!寝かせてやれ!」
「はい。」
アニーが呼んだ。
「福ちゃ〜〜ん!」
「はいはいはい!ここにいますよ!」
「いたの〜、良かった!」
「安心して寝てください。」
「分かった、はいコップ!ありがとう!」
「お休みなさい。」
アニーは「ばいば〜〜い!」と言って、再び倒れ込んだ。安心した顔で笑みを浮かべていた。福之助は、優しく毛布をかけてやった。
「ありがとう、福ちゃん!」「どういたしまして。」福之助は静かに離れた。
「アニーさん、寂しいのかしらね?」
「どうしてですか?」
「きっと、今まで、一人で頑張ってきたのよ。そういう姿が見えるわ。」
「なるほど、そういうことですか。姉さんの特技ですね。人の心が読めるのは。」
「なんとなく過去が見えてくるのよ、いつも。こういうときに。」
「そうなんですか?」
「小さいときから。あんまりいいことではないよね。」
「そいうことは分かりません。わたしには、心というものはありませんから。」
「きっと今まで、秀才と言われて頑張ってきたのよ、一人で。」
「アニーさん、可哀想だな〜〜〜!」
「おまえのようなポンコツでもいたらな〜〜。」
「なんですって!」
「ごめんごめん!つい口が喋っちゃった!」
「あ〜〜〜、わたしの専売特許の言葉を使った!ずるいな〜〜!」
専売特許の言葉を取られた福之助は、それ以上は言い返せなかった。時計を見ると、六時四十分だった。
「なんだ、まだこんな時間か。」
姉さんはテーブルの前に座った。
「福之助、温かい緑茶を頼む。」
「はい。」
福之助はすぐに持って来た。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
姉さんは、さっきの光る物体のことを考えていた。
「あれは、昨夜の球体と同じ色をしてたな〜。」
「姉さん、何を考えているんですか?」
「さっき見たんだよ。」
「何を?」
「昨夜と同じ、緑色の球体を。」
「どこでですか?」
「この上だよ。飛んでたんだよ。そして東の空に飛んで行ったんだよ。」
「え〜〜、昨夜と同じ物だったんですか?」
「あんな物は、他にないよ。」
「ユーフォーですかね?」
姉さんは、バッグから名刺を出そうとした。
「これ、昼間、公園内で拾ったんだよ。」
「何ですか?」
「名刺だよ。チタンの名刺。」
「名刺?」
「あれっ!?」
「どうしたんですか?」
「ないよ!おっかしいな〜、確かに入れたんだけどな〜?」
「記憶違いじゃないんですか?」
「そんなにボケちゃあいないよ!おっかしいな〜。」
「落としたんじゃないんですか?」
「そんなことはないよ。」
「それは変ですね〜。」
「おっかしいな〜、消えちゃったよ!」
「まさか!?」
「消えちゃったよ!」
姉さんは、唖然として福之助を見ていた。




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