「アニーさん、大丈夫ですか?」 「大丈夫でありんす。」 福之助の知らない言葉だった。 「ありんす?」 姉さんが教えた。 「ですってことだよ。」 「そうなんですか。」 「水でも持ってきましょうか?」 「水?アイドント・ウォント!ジャパニーズ・ティー!」 「日本茶ですね?」 「冷たい緑茶をちょうだい!」「はい、今持ってきます!」 「アニーさん、ワインをほとんど一人で空けちゃったんだよ。酔うはずだよ。」 福之助が、冷たい緑茶をコップに入れて持って来た。 「はい、アニーさん!」 アニーは「ありがとう。」と言って辛そうに上体を起こした。そして半分ほど飲んだ。 「あ〜〜、おいしい!ありがとう、マイダーリン!」 「マイダーリン?わたしは、ダーリンではありませんよ。ロボットの福之助です。」 「ロボット?」 「はい、ロボットの福之助です。」 「ロボットなのに、優しくて温かいな〜。」 「ありがとうございます。」 「まるで血が流れてるみたいに温かいな〜。」 「血は流れていませんが、電気が流れています。」 「お〜〜〜、の〜〜〜!」 姉さんが手招きした。小さな声で言った。 「あんまり答えるな!寝かせてやれ!」 「はい。」 アニーが呼んだ。 「福ちゃ〜〜ん!」 「はいはいはい!ここにいますよ!」 「いたの〜、良かった!」 「安心して寝てください。」 「分かった、はいコップ!ありがとう!」 「お休みなさい。」 アニーは「ばいば〜〜い!」と言って、再び倒れ込んだ。安心した顔で笑みを浮かべていた。福之助は、優しく毛布をかけてやった。 「ありがとう、福ちゃん!」「どういたしまして。」福之助は静かに離れた。 「アニーさん、寂しいのかしらね?」 「どうしてですか?」 「きっと、今まで、一人で頑張ってきたのよ。そういう姿が見えるわ。」 「なるほど、そういうことですか。姉さんの特技ですね。人の心が読めるのは。」 「なんとなく過去が見えてくるのよ、いつも。こういうときに。」 「そうなんですか?」 「小さいときから。あんまりいいことではないよね。」 「そいうことは分かりません。わたしには、心というものはありませんから。」 「きっと今まで、秀才と言われて頑張ってきたのよ、一人で。」 「アニーさん、可哀想だな〜〜〜!」 「おまえのようなポンコツでもいたらな〜〜。」 「なんですって!」 「ごめんごめん!つい口が喋っちゃった!」 「あ〜〜〜、わたしの専売特許の言葉を使った!ずるいな〜〜!」 専売特許の言葉を取られた福之助は、それ以上は言い返せなかった。時計を見ると、六時四十分だった。 「なんだ、まだこんな時間か。」 姉さんはテーブルの前に座った。 「福之助、温かい緑茶を頼む。」 「はい。」 福之助はすぐに持って来た。 「はい、どうぞ。」 「ありがとう。」 姉さんは、さっきの光る物体のことを考えていた。 「あれは、昨夜の球体と同じ色をしてたな〜。」 「姉さん、何を考えているんですか?」 「さっき見たんだよ。」 「何を?」 「昨夜と同じ、緑色の球体を。」 「どこでですか?」 「この上だよ。飛んでたんだよ。そして東の空に飛んで行ったんだよ。」 「え〜〜、昨夜と同じ物だったんですか?」 「あんな物は、他にないよ。」 「ユーフォーですかね?」 姉さんは、バッグから名刺を出そうとした。 「これ、昼間、公園内で拾ったんだよ。」 「何ですか?」 「名刺だよ。チタンの名刺。」 「名刺?」 「あれっ!?」 「どうしたんですか?」 「ないよ!おっかしいな〜、確かに入れたんだけどな〜?」 「記憶違いじゃないんですか?」 「そんなにボケちゃあいないよ!おっかしいな〜。」 「落としたんじゃないんですか?」 「そんなことはないよ。」 「それは変ですね〜。」 「おっかしいな〜、消えちゃったよ!」 「まさか!?」 「消えちゃったよ!」 姉さんは、唖然として福之助を見ていた。
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