「どうですか?」 「う〜〜ん、なかなかいいんじゃない。」 龍次は、人間村研究所で作った山ぶどうワインを飲んでいた。 「なあんというか、スパイシーな甘さがいいんじゃない?」 アキラも飲んでいた。 「なんだか、大菩薩の山々を思い出させる味だな〜。」 ショーケンも飲んでいた。 「辛口のワインという感じね。男の人が好みそうだわ。」 事務担当のサキも飲んでいた。 四人で、同じものを飲んでいた。彼らを見ていたのは、ヨコタンと一休さんだった。 龍次が一休さんに言った。 「なかなか良くできてるよ。大したもんだよ。」 「いや〜〜、この味になるまで苦労したんだよ。」 「これなら大丈夫だよ。きっと売れるよ。」 一休さんは悩んでいた。 「まだ名前がないんだよ、ワインの名前が。」 「空海ワインってのは、どうかな?」 「空海をつければいいってもんじゃあないよ。」 「じゃあ、仙人ワインってのは?」 「同じようなもんだよ。」 「難しいなあ〜。」 「だろう!」 「効能を謳ったらどうかな〜。血液さらさらワインとか?」 「そういうのって、書いちゃあいけないんだよ。」 「そうだったな。」 「ふるさと山ぶどうワインっての、どうだい?」 「なんだい、そりゃあ?」 「なんか、ありふれてるな〜。」 「分かった!」 「何が?」 「龍次さんに聞くのが間違いだった!」 「なんだよそりゃ〜、ひどいな〜。」 他の者の意見はなかった。 「俺、疲れたから帰るよ。みんな考えといて。」 「なんだよ、人に聞いといてから。」 サキが「急には思いつかないわ。」と言った。龍次が「そうだよな!」と答えた。 一休さんは、集会所から出て行った。 ヨコタンはワインを味わって飲んでるサキを見ていた。 「サキちゃん、悪いけど、ワイングラス洗っておいて。」 「分かりました。」 ヨコタンは「わたしも帰るわ。」と言って出て行った。 ショーケンはワインを飲み終えると、「俺も、もう帰るよ!」と言うと、アキラも「俺も!」と言った。 二人は手を上げて出て行った。龍次は、壁時計を見た。 「なんだ、まだ六時半じゃないか!」 鶴丸隼人が、伊賀十兵衛と一緒に入って来た。 「ああ、ちょうど良かった。鶴丸君に話しがあるんだ。」 「なんでしょうか?」 「大型ゴミの回収の話しが来てねえ。」 「はい。」 「君に頼もうと思ってるんだけど、いいかな?」 「大型ゴミの回収ですか…」 「フォークリフトとかやったことある?」 「フォークリフトはやったことありません。」 「そうか、困ったなあ〜。」 伊賀十兵衛が横から口を出した。 「わたし出来ます!」 「ああ、そう!」 「工場で主に製品の運搬をやってたんです。」 「じゃあ、専門家だ。」 「フォークリフトの仕事は慣れてますし、免許も持ってます。」 「じゃあ、君に頼んでもいいかな?」 「いいです。」 「じゃあ、君が責任者ということで頼むよ。」 「はい、分かりました!」 「確か、君はエンジニアで、専門の大学を出てたよね?」 「はい。ロボット工学です。」 「もっといい仕事があったらいいんだけど、取り合えず頼むよ!」 「分かりました!」 「じゃあ、これから具体的な検討を始めよう!」 「はい。」 隼人が龍次に尋ねた。 「わたしは?」 「君もやる、大型ゴミ?」 「龍次さんが、やれって言えば。」 「そうですねえ〜。」 龍次は考え始めた。 その頃、ショーケンとアキラは、ゆっくりと帰宅の道を歩いていた。ショーケンは煙草を吸いながら、西の空を眺めて歩いていた。アキラは鳥小屋を見ていた。 「兄貴、鳥小屋ができてるよ。」 「あっ、ほんとだ!」 「熊さんだ、器用だなあ〜。」 「大工だからな、このくらいはできるだろう。」 「まあ、そうだけど。」 「大菩薩にも、鳥小屋があったな〜〜。」 「ああ、そうなの。」 「西の夕陽が落ちていく山を見てると、大菩薩を思い出すよ。」 「ああ、そうなの。」 「よく、山ぶどうを取って食べてたもんだよ。」 「山ぶどう?おいしいの?」 「おいしいと言えば、美味しいな。山の味だよ。」 「山の味?」 「動物も好きなんだよ、山ぶどうは。」 二人は、何時の間にか、自分たちのドームハウスに着いていた。 「あっ、動物だ!」 「あれは、アライグマだよ。」 アライグマがドームハウスの上に座って、二人を見ていた。アキラが石を拾って「このやろう!」と言って投げた。アライグマは逃げて行った。 ショーケンが「ドームハウスの欠点だな!」と言った。「登りやすいってこと?」「そういうことだ。」 アキラは、動物が登ってはいないかと、周りのドームハウスを見ていた。 「なんだ、ありゃあ〜!?」 ショーケンもアキラの見てる方角を見た。 「なんだ!?」 上空を緑色の光る物体が飛んでいた。そして、東のほうに飛んでいなくなった。 鳥小屋のほうから、熊さんがやってきた。 「見たかい、今の?」 ショーケンが答えた。 「見ましたよ。あれはユーフォーですねえ。」 「あれはな、きっと龍の玉ってやつだよ。」 「龍の玉?」 「彼岸(ひがん)と此岸(しがん)を行き来している龍の玉だよ。」 「ひがんとしがん?」 「彼岸(ひがん)とは、あの世のこと。此岸(しがん)とは、この世のこと。シャバとも言うな。」 アキラはびっくりした。 「え〜〜〜!?」 「高野山は、あの世と繋がってる日本三大霊山の一つなんだよ。」 「え〜〜、ほんと〜!?」 「ああ、高野山には、龍の玉伝説ってのがあるんだよ。」 「じゃあ、あの玉は、あの世から来たの?」 「そういうことだな。」 「で、どこに行ったの?」 「さあ〜、どこに行ったのかな〜?」 「また、あの世に戻ったのかな〜?」 「さあ、どうなんだろうな〜?」 「来て、直ぐに戻る馬鹿はいないよね?」 「そういうことだな〜。」 「ユーフォーじゃないの〜?」 「あれは、ユーフォーなんかじゃないよ。」 「どうして分かるの?」 「なんとなく分かるんだよ。死んだ人間のにおいがするんだよ。」 「え〜〜〜!?じゃあ、あの玉には死人が乗ってたってこと?」 「乗ってたよ。歳をとるとな、そういうのが感じることができるんだよ。」 「ほんと〜〜?」 「ああ、ほんとだよ。」 「どんな風に?」 「この歳になると、あの世から声が聞こえてくるんだよ。用意しろ、用意しろって。」 「何の用意?」 「あの世に旅立つ用意だよ。それと同じような声が聞こえたんだよ。あの玉から。」 「え〜〜、マジ〜〜!?」 「マジって、ほんとかてことか?ほんとだよ。」 「あ〜〜〜、気持ち悪い〜〜!」 熊さんは、天に手を合わせた。 「南無阿弥陀仏、波阿弥陀仏!」 「熊さん、あれはただのユーフォーだよ〜〜!変なこと言わないでよ〜!」 「違うって、あれは間違いなく、龍の玉!」 「あの世から来れるわけないじゃん。」 「ユーフォーなんて、存在しないよ。」 「なんか気持ち悪くなってきたから、俺もう帰る!」 アキラは、ログハウスの中に消えて行った。ショーケンが熊さんに謝った。 「熊さん、ごめん!あいつ、頭が単純だから。」 「いいよ、いいよ。若いうちは、俺もそうだったよ。」 「実はねえ、熊さん。」 「なんだよ、いきなり妙な声出して?」 「昨夜、龍の玉が人間村に来たんですよ。」 「なんだって!?」 「食堂の前に。」 「え〜〜!?」 「中に、発明で有名な先生が乗ってたんですよ。」 「発明で有名な先生?」 「豊沢先生とか言ってました。」 「豊沢先生なら知ってるよ。発明学会の豊沢豊雄先生だよ。」 「そうです、その先生です。」 「だとしたら、そうとうの歳だぞ〜。」 「今年の二月に亡くなってそうです。」 「なんだって〜〜!?」 「つまり、昨夜の先生は、幽霊だったんです。龍次さんが、そう言ってました。」 「え〜〜〜、彼も見て逢ったの?」 「逢いました。人間村の、かなりの人が見ています。」 「え〜〜〜、何時ごろのことだい?」 「九時ごろです。」 「ひょっとすると、その豊沢先生が乗ってたのかも知れません、今見た龍の玉にも。」 「あの龍の玉に、豊沢先生が?」 「昨夜と同じ物だとしたら、そうです。」
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