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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第171回   山の味
「どうですか?」
「う〜〜ん、なかなかいいんじゃない。」
龍次は、人間村研究所で作った山ぶどうワインを飲んでいた。
「なあんというか、スパイシーな甘さがいいんじゃない?」
アキラも飲んでいた。
「なんだか、大菩薩の山々を思い出させる味だな〜。」
ショーケンも飲んでいた。
「辛口のワインという感じね。男の人が好みそうだわ。」
事務担当のサキも飲んでいた。
四人で、同じものを飲んでいた。彼らを見ていたのは、ヨコタンと一休さんだった。
龍次が一休さんに言った。
「なかなか良くできてるよ。大したもんだよ。」
「いや〜〜、この味になるまで苦労したんだよ。」
「これなら大丈夫だよ。きっと売れるよ。」
一休さんは悩んでいた。
「まだ名前がないんだよ、ワインの名前が。」
「空海ワインってのは、どうかな?」
「空海をつければいいってもんじゃあないよ。」
「じゃあ、仙人ワインってのは?」
「同じようなもんだよ。」
「難しいなあ〜。」
「だろう!」
「効能を謳ったらどうかな〜。血液さらさらワインとか?」
「そういうのって、書いちゃあいけないんだよ。」
「そうだったな。」
「ふるさと山ぶどうワインっての、どうだい?」
「なんだい、そりゃあ?」
「なんか、ありふれてるな〜。」
「分かった!」
「何が?」
「龍次さんに聞くのが間違いだった!」
「なんだよそりゃ〜、ひどいな〜。」
他の者の意見はなかった。
「俺、疲れたから帰るよ。みんな考えといて。」
「なんだよ、人に聞いといてから。」
サキが「急には思いつかないわ。」と言った。龍次が「そうだよな!」と答えた。
一休さんは、集会所から出て行った。
ヨコタンはワインを味わって飲んでるサキを見ていた。
「サキちゃん、悪いけど、ワイングラス洗っておいて。」
「分かりました。」
ヨコタンは「わたしも帰るわ。」と言って出て行った。
ショーケンはワインを飲み終えると、「俺も、もう帰るよ!」と言うと、アキラも「俺も!」と言った。
二人は手を上げて出て行った。龍次は、壁時計を見た。
「なんだ、まだ六時半じゃないか!」
鶴丸隼人が、伊賀十兵衛と一緒に入って来た。
「ああ、ちょうど良かった。鶴丸君に話しがあるんだ。」
「なんでしょうか?」
「大型ゴミの回収の話しが来てねえ。」
「はい。」
「君に頼もうと思ってるんだけど、いいかな?」
「大型ゴミの回収ですか…」
「フォークリフトとかやったことある?」
「フォークリフトはやったことありません。」
「そうか、困ったなあ〜。」
伊賀十兵衛が横から口を出した。
「わたし出来ます!」
「ああ、そう!」
「工場で主に製品の運搬をやってたんです。」
「じゃあ、専門家だ。」
「フォークリフトの仕事は慣れてますし、免許も持ってます。」
「じゃあ、君に頼んでもいいかな?」
「いいです。」
「じゃあ、君が責任者ということで頼むよ。」
「はい、分かりました!」
「確か、君はエンジニアで、専門の大学を出てたよね?」
「はい。ロボット工学です。」
「もっといい仕事があったらいいんだけど、取り合えず頼むよ!」
「分かりました!」
「じゃあ、これから具体的な検討を始めよう!」
「はい。」
隼人が龍次に尋ねた。
「わたしは?」
「君もやる、大型ゴミ?」
「龍次さんが、やれって言えば。」
「そうですねえ〜。」
龍次は考え始めた。
その頃、ショーケンとアキラは、ゆっくりと帰宅の道を歩いていた。ショーケンは煙草を吸いながら、西の空を眺めて歩いていた。アキラは鳥小屋を見ていた。
「兄貴、鳥小屋ができてるよ。」
「あっ、ほんとだ!」
「熊さんだ、器用だなあ〜。」
「大工だからな、このくらいはできるだろう。」
「まあ、そうだけど。」
「大菩薩にも、鳥小屋があったな〜〜。」
「ああ、そうなの。」
「西の夕陽が落ちていく山を見てると、大菩薩を思い出すよ。」
「ああ、そうなの。」
「よく、山ぶどうを取って食べてたもんだよ。」
「山ぶどう?おいしいの?」
「おいしいと言えば、美味しいな。山の味だよ。」
「山の味?」
「動物も好きなんだよ、山ぶどうは。」
二人は、何時の間にか、自分たちのドームハウスに着いていた。
「あっ、動物だ!」
「あれは、アライグマだよ。」
アライグマがドームハウスの上に座って、二人を見ていた。アキラが石を拾って「このやろう!」と言って投げた。アライグマは逃げて行った。
ショーケンが「ドームハウスの欠点だな!」と言った。「登りやすいってこと?」「そういうことだ。」
アキラは、動物が登ってはいないかと、周りのドームハウスを見ていた。
「なんだ、ありゃあ〜!?」
ショーケンもアキラの見てる方角を見た。
「なんだ!?」
上空を緑色の光る物体が飛んでいた。そして、東のほうに飛んでいなくなった。
鳥小屋のほうから、熊さんがやってきた。
「見たかい、今の?」
ショーケンが答えた。
「見ましたよ。あれはユーフォーですねえ。」
「あれはな、きっと龍の玉ってやつだよ。」
「龍の玉?」
「彼岸(ひがん)と此岸(しがん)を行き来している龍の玉だよ。」
「ひがんとしがん?」
「彼岸(ひがん)とは、あの世のこと。此岸(しがん)とは、この世のこと。シャバとも言うな。」
アキラはびっくりした。
「え〜〜〜!?」
「高野山は、あの世と繋がってる日本三大霊山の一つなんだよ。」
「え〜〜、ほんと〜!?」
「ああ、高野山には、龍の玉伝説ってのがあるんだよ。」
「じゃあ、あの玉は、あの世から来たの?」
「そういうことだな。」
「で、どこに行ったの?」
「さあ〜、どこに行ったのかな〜?」
「また、あの世に戻ったのかな〜?」
「さあ、どうなんだろうな〜?」
「来て、直ぐに戻る馬鹿はいないよね?」
「そういうことだな〜。」
「ユーフォーじゃないの〜?」
「あれは、ユーフォーなんかじゃないよ。」
「どうして分かるの?」
「なんとなく分かるんだよ。死んだ人間のにおいがするんだよ。」
「え〜〜〜!?じゃあ、あの玉には死人が乗ってたってこと?」
「乗ってたよ。歳をとるとな、そういうのが感じることができるんだよ。」
「ほんと〜〜?」
「ああ、ほんとだよ。」
「どんな風に?」
「この歳になると、あの世から声が聞こえてくるんだよ。用意しろ、用意しろって。」
「何の用意?」
「あの世に旅立つ用意だよ。それと同じような声が聞こえたんだよ。あの玉から。」
「え〜〜、マジ〜〜!?」
「マジって、ほんとかてことか?ほんとだよ。」
「あ〜〜〜、気持ち悪い〜〜!」
熊さんは、天に手を合わせた。
「南無阿弥陀仏、波阿弥陀仏!」
「熊さん、あれはただのユーフォーだよ〜〜!変なこと言わないでよ〜!」
「違うって、あれは間違いなく、龍の玉!」
「あの世から来れるわけないじゃん。」
「ユーフォーなんて、存在しないよ。」
「なんか気持ち悪くなってきたから、俺もう帰る!」
アキラは、ログハウスの中に消えて行った。ショーケンが熊さんに謝った。
「熊さん、ごめん!あいつ、頭が単純だから。」
「いいよ、いいよ。若いうちは、俺もそうだったよ。」
「実はねえ、熊さん。」
「なんだよ、いきなり妙な声出して?」
「昨夜、龍の玉が人間村に来たんですよ。」
「なんだって!?」
「食堂の前に。」
「え〜〜!?」
「中に、発明で有名な先生が乗ってたんですよ。」
「発明で有名な先生?」
「豊沢先生とか言ってました。」
「豊沢先生なら知ってるよ。発明学会の豊沢豊雄先生だよ。」
「そうです、その先生です。」
「だとしたら、そうとうの歳だぞ〜。」
「今年の二月に亡くなってそうです。」
「なんだって〜〜!?」
「つまり、昨夜の先生は、幽霊だったんです。龍次さんが、そう言ってました。」
「え〜〜〜、彼も見て逢ったの?」
「逢いました。人間村の、かなりの人が見ています。」
「え〜〜〜、何時ごろのことだい?」
「九時ごろです。」
「ひょっとすると、その豊沢先生が乗ってたのかも知れません、今見た龍の玉にも。」
「あの龍の玉に、豊沢先生が?」
「昨夜と同じ物だとしたら、そうです。」




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