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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第17回   木枯らし紋次郎
ヨコタンが食事の用意をしていると、紋次郎が入って来た。
「紋次郎で〜〜す!」
「あら、紋ちゃん、もう運び終わったの?」
「全部、運び終わりました。」
紋次郎は、ダンボール箱を持っていた。
「何、それ?」
「わたしの荷物です。」
そう言うと、ポンポコリンの使っていた部屋に入って行った。
ヨコタンがやってきた。
「荷物って、何が入っているの?」
「リュックの中に、ロボットの保険カードと、年金カードと、木枯らし紋次郎のDVDと長楊枝、充電器です。後は、メンテナンス道具と身体の汚れを落とすものです。」
「紋ちゃんって、木枯らし紋次郎のファンなの?」
「はい。」
「ああ、だから紋次郎なんだ。」
「はい、そうです。」
紋次郎は嬉しそうだった。
「ここなら、テレビがあるので遠慮しないで観れます。」
「そんなに木枯らし紋次郎が好きなんだ?」
「はい!」
紋次郎は、長い楊枝を取り出した。そして口に斜めにくわえた。
「あっしには、係わり合いのないことでござんす!」
「わ〜〜、そっくり!」
「そうでござんすかい?」
「似てる!ところで、木枯らし紋次郎は、どうしていつも長い楊枝をくわえてるの?」
「これは、ただのクセってもんで。」
「ただのクセなのか…」
「そうでござんす。」
「紋ちゃん、物真似は、もういいよ。」
紋次郎は、楊枝を右手で取った。
「楊枝をくわえると、条件反射でこうなっちゃうんです。ごめんなさい!」
「これだけ、荷物は?」
「はい!」
「わたし、これから食事をつくるから。」
「手伝いましょうか?」
「いいよ。来たばっかりだから休んでて。」
「はい。」
「さあて、作るかな!」
ヨコタンは、台所に行った。紋次郎は、長い楊枝を持って外に出て行った。ドアの開閉音にヨコタンは振り向いた。
「あれ、どこに行ったんだろう?」
ヨコタンは、ドアを開いた。
玄関の前で紋次郎は、楊枝をくわえて夕陽に向かって立っていた。
紋次郎はヨコタンに気づき、斜め角度で木枯らし紋次郎みたいに振り向いた。
「なかなかと、夕陽は沈まないもんでござんすねえ…」
「そうねえ…」
紋次郎の横には屋外用の木の椅子があった。
ヨコタンは、その椅子にに腰掛けた。チェック柄の巻きスカートをはいていた。
風邪が吹き、ヨコタンの巻きスカートの裾がめくれあがった。大腿部がちらっと露出した。ヨコタンは、何事もなかったかのように座っていた。
「姉さん、太ももが見えていますぜ。」
色っぽい太ももが、夕陽に当たってピンク色に艶っぽく輝いていた。
「あら、ホックが外れてるわ!」
そう言うと、ヨコタンは巻きスカートのホックを、きちんと止めた。
「見たわね!」
「ロボットのあっしには、そういう色っぽいことは、係わり合いのねえことでござんす。」
紋次郎は、大きく息を吸うと、長い楊枝を吹き矢のように天に向かって飛ばした。十メートルほど先まで矢のように飛んで行き、地面に見事に突き刺さった。ヨコタンはびっくりした。
「すご〜〜〜い!」
紋次郎は、ひたすら目の前の空虚な風だけを見ていた。紋次郎の脳裏には、木枯らし紋次郎のラストシーンが流れていた。
木枯らし紋次郎、上州三日月村の貧しい農家に生まれたという、十歳のときに国を捨て、その後一家は離散したと伝えられる。天涯孤独な紋次郎、なぜ無宿渡世の世界に入ったかは定かでない。
紋次郎は、歌いだした。

 どこかで誰かが〜 きっと待っていてくれる〜 ♪
 雲は焼け道は乾き〜 陽はいつまでも沈まない〜 心は昔に死んだ〜 ♪


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