ヨコタンが食事の用意をしていると、紋次郎が入って来た。 「紋次郎で〜〜す!」 「あら、紋ちゃん、もう運び終わったの?」 「全部、運び終わりました。」 紋次郎は、ダンボール箱を持っていた。 「何、それ?」 「わたしの荷物です。」 そう言うと、ポンポコリンの使っていた部屋に入って行った。 ヨコタンがやってきた。 「荷物って、何が入っているの?」 「リュックの中に、ロボットの保険カードと、年金カードと、木枯らし紋次郎のDVDと長楊枝、充電器です。後は、メンテナンス道具と身体の汚れを落とすものです。」 「紋ちゃんって、木枯らし紋次郎のファンなの?」 「はい。」 「ああ、だから紋次郎なんだ。」 「はい、そうです。」 紋次郎は嬉しそうだった。 「ここなら、テレビがあるので遠慮しないで観れます。」 「そんなに木枯らし紋次郎が好きなんだ?」 「はい!」 紋次郎は、長い楊枝を取り出した。そして口に斜めにくわえた。 「あっしには、係わり合いのないことでござんす!」 「わ〜〜、そっくり!」 「そうでござんすかい?」 「似てる!ところで、木枯らし紋次郎は、どうしていつも長い楊枝をくわえてるの?」 「これは、ただのクセってもんで。」 「ただのクセなのか…」 「そうでござんす。」 「紋ちゃん、物真似は、もういいよ。」 紋次郎は、楊枝を右手で取った。 「楊枝をくわえると、条件反射でこうなっちゃうんです。ごめんなさい!」 「これだけ、荷物は?」 「はい!」 「わたし、これから食事をつくるから。」 「手伝いましょうか?」 「いいよ。来たばっかりだから休んでて。」 「はい。」 「さあて、作るかな!」 ヨコタンは、台所に行った。紋次郎は、長い楊枝を持って外に出て行った。ドアの開閉音にヨコタンは振り向いた。 「あれ、どこに行ったんだろう?」 ヨコタンは、ドアを開いた。 玄関の前で紋次郎は、楊枝をくわえて夕陽に向かって立っていた。 紋次郎はヨコタンに気づき、斜め角度で木枯らし紋次郎みたいに振り向いた。 「なかなかと、夕陽は沈まないもんでござんすねえ…」 「そうねえ…」 紋次郎の横には屋外用の木の椅子があった。 ヨコタンは、その椅子にに腰掛けた。チェック柄の巻きスカートをはいていた。 風邪が吹き、ヨコタンの巻きスカートの裾がめくれあがった。大腿部がちらっと露出した。ヨコタンは、何事もなかったかのように座っていた。 「姉さん、太ももが見えていますぜ。」 色っぽい太ももが、夕陽に当たってピンク色に艶っぽく輝いていた。 「あら、ホックが外れてるわ!」 そう言うと、ヨコタンは巻きスカートのホックを、きちんと止めた。 「見たわね!」 「ロボットのあっしには、そういう色っぽいことは、係わり合いのねえことでござんす。」 紋次郎は、大きく息を吸うと、長い楊枝を吹き矢のように天に向かって飛ばした。十メートルほど先まで矢のように飛んで行き、地面に見事に突き刺さった。ヨコタンはびっくりした。 「すご〜〜〜い!」 紋次郎は、ひたすら目の前の空虚な風だけを見ていた。紋次郎の脳裏には、木枯らし紋次郎のラストシーンが流れていた。 木枯らし紋次郎、上州三日月村の貧しい農家に生まれたという、十歳のときに国を捨て、その後一家は離散したと伝えられる。天涯孤独な紋次郎、なぜ無宿渡世の世界に入ったかは定かでない。 紋次郎は、歌いだした。
どこかで誰かが〜 きっと待っていてくれる〜 ♪ 雲は焼け道は乾き〜 陽はいつまでも沈まない〜 心は昔に死んだ〜 ♪
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