鎌田は、お盆に急須と湯呑みと缶チューハイを載せて戻って来た。テーブルに置くと、急須から湯呑みにお茶を入れて、二人の前に置いた。「はい」「どうもありがとう!」「はい。」「どうもありがとう!」それから、アニーの前に缶チューハイを置いた。梅缶チューハイと書いてあった。 「どうもありがとう。」 「珍しいワインもあるんですけど、ワインは好きですか?」 「はい、大好きです。」 「山ブドウのワインなんですけど、お飲みになりますか?」 「それは、珍しいですね〜。飲んだことないので、是非。」 鎌田は喜んで戻って行った。あれこれと忙しい鎌田であった。直ぐに戻って来た。 「これです。高野山の去年からの新しい商品なんですよ。」 「山ぶどうから作ったんですか?」 「そうです。」 鎌田は、ワイングラスに注いだ。 「どうぞ。」 「はい。」 アニーは、ワイングラスを二、三度グルグル回した後、匂いを嗅いだ。「いい香りだわ〜。」そして一口飲んだ。「グッド・テイスト!」そう言うと、また一口飲んだ「 「軽やかな酸味と、爽やかなのど越しのワインですね。」 「そうですか。わたしはあまりワインのことは分からないもので。」 「このワイン、不思議と里芋と合いますね。」 「そうですか?」 真由美が強請(ねだ)った。 「それ、わたしも飲ませてちょうだい!」 鎌田は当惑した。 「これは駄目だよ。アルコールなんだから。」 「ちょっとだけ!」 「しょうがないな〜〜、ほんとうにちょっとだけだよ。」 鎌田は、ワイングラスに一センチほど注いだ。 「たったこれだけ?」 「そうだよ。」 真由美は、ぐっと飲み干した。 「わ〜〜、甘いけど酸っぱいわ〜。」 「ジュースじゃないよ。」 「もういいわ。分かったわ。」 「これ以上飲んだら大変だよ。」 真由美は、少し咽(むせ)ていた。鎌田が真由美を睨んだ。 「ほら、言っただろう。アルコールなんだから!」 真由美は、お茶を飲んでいた。アニーが鎌田に尋ねた。 「高野山で山ぶどうを栽培してるんですか?」 「はい、三年前から栽培しています。」 「山ぶどうは、貧血によいと聞いたことがあるんですけど?」 「はい。体内をアルカリ性に変えて血液をサラサラに変える効用や、鉄分が含まれていますので貧血によいと書かれています。」 アニーと鎌田は、ワインを飲みながら芋煮を食べながら、山ぶどうのことで話しが進んでいた。姉さんは、芋煮のおかわりをしながら、子供たち二人におかわりを進めながら、黙々と食べていた。 三人は、二十分ほどで食べ終わり、両手を合わせて、礼儀正しく「ごちそうさまでした!」と言った。姉さんも、子供たちに合わせて、両手を合わせていた。 鎌田が三人を見ていた。 「あれ、もう終わったの?」 鎌田とアニーは、美味しそうにワインを飲んでいた。 真由美は、お盆の上に、三人の分を集めて、お椀と御飯茶碗を載せていた。 「これ、台所に持っていってもいいですか?」 「ああ、そんなことは僕がするからいいよ。」 鎌田が鍋を覗くと、ほとんど無くなっていた。 「ありゃ〜〜、凄いねえ〜。」 三人を見ると、三人は笑っていた。 「持っていく分は、鍋に入れたの?」 真由美が元気よく答えた。 「ちゃんと入れました〜〜!」 真由美の前には、大事そうに鍋が置かれていた。 鎌田が、お盆を持って家の中に入り、お盆の上に何かを載せて戻って来た。 「はい、皆さん。食後のデザート!」 デザートは、綺麗なガラスの器に入っていた。姉さんは目を丸くして見ていた。 「わ〜〜、美味しそう!何ですか、これ?」 「無花果(いちじく)ゼリーです。」 「鎌田さんが、作られたんですか?」 「はい。」 「鎌田さんって、見かけによらないんですね。」 「どういうこと、それ?」 「失礼しました!」 「いいです、いいです。よく言われますから。どうも無骨に見えるらしんですよ。」 「そうですねえ、どちらかというと、武道家みたいな感じですねえ。」 真由美が「ぶどうかって、なあに?」と質問した。 「悪い人を投げ飛ばしたりする人。」 「じゃあ、鎌田さんだ〜〜。」 「えっ?」 「鎌田さんは、じゅどうの先生なんです。」 「え〜〜〜、そうなの?」 鎌田が言った。 「はい、ときどき高野山で教えているんですよ。」 「じゃあ、段持ちなんですか?」 「はい、柔道五段です。」 「五段!凄いな〜〜。」 アニーが言った。 「葛城さんも、紅流の達人なんですよ。」 「えっ?紅流と言えば、幻の柔術のですか?」 姉さんが答えた。 「幻かどうかは知りませんが、紅流柔術です。」 「では、葛城さんと言うのは、もしかして、天才柔術家の葛城慎之介氏の?」 「はい、葛城慎之介の娘です。」 「三日月がえしや、流星投げの?」 「はい、そうです。」 「え〜〜〜〜〜〜〜〜!」 鎌田は驚いて、次の言葉が出なくなっていた。
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