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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第166回   ウサギは鳥?
「あっ、五時四十五分だわ!」
「ちょっと早いけど、出掛けましょうか?」
「そうですね、出掛けましょう。」
福之助が尋ねた。
「お出かけですか?」
「たぶん、一時間くらいで戻ってくるよ。」
「はい。」
「じゃあ、行ってくるよ。」
「福ちゃん行ってくるね。」
「はい、行ってらっしゃい!」
「変な人だったら、無闇に開けるんじゃないよ。」
「はい。」
二人は仲良く出て行った。日は落ちて、夕焼けで西の山々が赤く染まっていた。
ドアを開けると、真由美ちゃんの家の前に、ダチョウと少女が見えていた、
「あっ、ダチョウの少女だ!」
真由美が家から出てきた。
二人は、ダチョウの引くリアカーに乗ってやってきた。リアカーは姉さんたちの前で止まった。真由美が二人に挨拶した。
「こんばんわ!」
姉さんは真由美に尋ねた。
「こんばんわ!中国の人は来たの?」
「来ました。さっき帰りました。」
「で、どうしたの?」
「日曜日に高野山に来るって言ってました。」
「それは良かったわね〜!」
真由美は胸のポケットから紙切れを出した。
「これです。」
姉さんに手渡した。真由美の字で、平仮名で書いてあった。
「すごいな〜〜、真由美ちゃん、もう平仮名が書けるんだ〜〜。」
「はい。」
姉さんは読んだ。
「だいがんこうのせんせい…」
アニーが言った。
「大雁功(だいがんこう)とは、中国政府が認定している、中国で一番有名な気功です。」
「そうなんですか。」
真由美が、ダチョウの女の子を紹介した。
「この子は、田口沙織ちゃんです。ダチョウ牧場から来ました。」
沙織が挨拶した。
「こんばんわ。田口沙織です。」なぜか、ダチョウも首を振っていた。
「わたしは、葛城今日子。きょん姉さんって読んで。で、こちらはアニーさん。」
「きょんねえさん、アニーさん。分かりました。」
姉さんはダチョウを見ながら言った。
「じゃあ、行きましょう!」
みんなは、管理人の家に向かった。
「このダチョウ、おとなしいわねえ〜。」
「ドナルドって言うんです。一番おとなしいダチョウなんです。」
「ドナルド、そういえばドナルドダックみたいな顔してるね。ぜんぶで何羽いるの?」
「十羽います。」
「こんど牧場に見に行くわ。」
「来て下さい。待ってます。」
管理人の家に着くと、庭で管理人の鎌田が手招きしていた。
「みんな、こっちに来て!」
みんなは、いそいそと入って行った。庭は広かった。十メートル四方ほどあった。二匹のウサギが遊んでいた。姉さんは、ウサギを見ながら「わ〜〜可愛い!」と言いながら入って行った。
「あの二羽のウサギ、管理人さんが飼っているんですか?」
「そうです。」
沙織が尋ねた。
「ウサギは、二羽って数えるんですか?」
姉さんが答えた。
「そうよ。」
「鳥でもないのに?」
管理人の鎌田が答えた。
「それはね、食べるためなんだよ。昔の動物好きの殿様がいてね、四本足の動物は食べたり殺したりしてはいけないという法律を作ってね、それまでは農家の人は野菜を食べる悪い動物ってことでウサギを食べてたの。ウサギを食べなくなったら、ウサギが増えて野菜が食べられちゃって困ったんだよ。それで殿様は、ウサギは鳥にして食べていいことにしたの。鳥になったから、一羽二羽になったんだよ。」
「鳥は食べてもよかったんですね?」
「そう。」
沙織ではなく、姉さんが驚いた。
「え〜〜え、そうだったんですか?」
「知りませんでした?」
「はい。」
「殿様の名は、生類憐みの令の徳川綱吉です。」
「ああ知ってます。犬は殺してはいけないという、犬将軍ですね。」
「そうです。でも、仏教から来たという説もあります。」
「何れにせよ、食べるためなんですね。一羽二羽と数えるのは。」
「そうです。」
「なんか、人間の勝手な理屈だな〜。」
「すべてそうですよ。」
鎌田は、沙織に向いた。
「分かったかな、佐織ちゃん?」
「はい、分かりました!」
アニーと真由美は、二人の話しを黙って聞いていた。
「さあさ、皆さん、用意はできてます。食べましょう、食べましょう!」
真由美は、ポリ袋の中に、小さな鍋を入れていた。取り出した。
「あの〜〜。」
「なあに?」
「お母さんと、お兄ちゃんの分を持っていってもいいですか?」
「これに?」
「はい。」
鎌田は微笑んだ。
「いいよ、いいよ!たくさんあるから、持って行きなさい!」
真由美は喜んだ。みんなは、真由美を感心した様子で見ていた。
「真由美ちゃんは、優しいな〜〜。」
姉さんは、みんなの前で突然に泣き出した。
「も〜〜〜う、真由美ちゃんったら、切なく優しいんだから〜〜〜!」
みんなは、泣いている姉さんを見ていた。


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