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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第165回   母と子の絆
「おっ、雨が止んだぞ!」
熊さんは腕時計を見た。四時半だった。
紋次郎は近くで何も言わずに銅像のように立っていた。
「紋次郎、五時までやるぞ。」
「はい!」
仕事を再開した。鳥小屋のニワトリがコッココッコと鳴いて少し騒ぎ出した。
仕事をしてると忍が、アレックスフレーム・ハンドの電動車椅子に乗ってやって来た。熊さんの近くで止まった。
「熊が出るっていうんで、急いで村に帰って来たよ。」
熊さんは仕事の手を止めた。
「ここだって、出るかも知れないよ。集会所か家にいたほうがいいよ。それじゃあ、急には逃げられないだろう。」
「じゃあ、集会所に行くよ。」
忍の電動車椅子は集会所に向かって動き出した。
正男は、作りかけの鳥小屋の中で熊さんと紋次郎を見ていた。
「正男、ちょっと邪魔だから、外に出てろ。」
「は〜〜〜い!」
正男は、外に出ると鳥小屋の前まで行って、鳥を再び見出した。ニワトリたちがコッコッコと正男の傍まで寄ってきた。
「わ〜〜、ニワトリさんがやってきた!」
遠くの方から声が聞こえた。
「正男〜〜〜!」
手をしきりに振っていた。正男の母の礼子だった。
「正男〜〜!」
正男は振り向いた。
「母ちゃ〜〜ん!」
正男は礼子に走って行った。はぐれた小熊が親熊に再会したように。
正男は、礼子の前で止まった。
「ぼく、ちゃんとおとなしくしてたよ。」
「そう、えらいえらい!」
近くにいた熊さんが言った。
「ニワトリを見て、おとなしくしてましたよ。今までポンポコリンと一緒にいたんですよ。」
「そうですか、どうもありがとうございます。」
「明日までかかりそうだから、また明日いらっしゃい。」
正男は喜んだ。
「また明日、見に来てもいいの?」
「ああいいよ。おいで。」
正男は喜んだ。
「わ〜〜〜い!紋ちゃんも、明日もいるの?」
「いるよ。」
「わ〜〜〜い!」
紋次郎が正男の傍にやって来て言った。
「じゃあ、また明日ね!」
正男は紋次郎の周りを回りだした。
「紋ちゃんといっしょ、紋ちゃんといっしょ!」
礼子は熊さんに挨拶した。
「今日は、ほんとうにありがとうございます。」
「何もしてないよ。」
「これから集会所に正男と一緒に行って、お礼を言ってきますので失礼します。」
「ああ、行っておいで。」
礼子は、正男を手を引いて集会所に向かって行った。
腕時計を見ると、四十五分だった。
「この網を張って今日は終わろう、紋次郎!」
「はい!」
「おまえ、子供に人気あるな〜〜。」
「そうですか?」
「幼稚園の先生にでもなったほうがいいんじゃないか?」
「幼稚園の先生ですか?」
「ああ、きっとわんぱく小僧やおてんば娘たちも、おとなしくなるぞ。」
「そうですか?」
雨は、すっかり止んでいた。日が沈みはじめていた。高野山のアナウンスが流れた。

 熊の親子は 無事に山に帰りました ご安心ください

「熊の親子だったのか…、さぞかし腹を空かせていたんだろうな〜。」
熊さんは、目頭が熱くなってきた。



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