「おっ、雨が止んだぞ!」 熊さんは腕時計を見た。四時半だった。 紋次郎は近くで何も言わずに銅像のように立っていた。 「紋次郎、五時までやるぞ。」 「はい!」 仕事を再開した。鳥小屋のニワトリがコッココッコと鳴いて少し騒ぎ出した。 仕事をしてると忍が、アレックスフレーム・ハンドの電動車椅子に乗ってやって来た。熊さんの近くで止まった。 「熊が出るっていうんで、急いで村に帰って来たよ。」 熊さんは仕事の手を止めた。 「ここだって、出るかも知れないよ。集会所か家にいたほうがいいよ。それじゃあ、急には逃げられないだろう。」 「じゃあ、集会所に行くよ。」 忍の電動車椅子は集会所に向かって動き出した。 正男は、作りかけの鳥小屋の中で熊さんと紋次郎を見ていた。 「正男、ちょっと邪魔だから、外に出てろ。」 「は〜〜〜い!」 正男は、外に出ると鳥小屋の前まで行って、鳥を再び見出した。ニワトリたちがコッコッコと正男の傍まで寄ってきた。 「わ〜〜、ニワトリさんがやってきた!」 遠くの方から声が聞こえた。 「正男〜〜〜!」 手をしきりに振っていた。正男の母の礼子だった。 「正男〜〜!」 正男は振り向いた。 「母ちゃ〜〜ん!」 正男は礼子に走って行った。はぐれた小熊が親熊に再会したように。 正男は、礼子の前で止まった。 「ぼく、ちゃんとおとなしくしてたよ。」 「そう、えらいえらい!」 近くにいた熊さんが言った。 「ニワトリを見て、おとなしくしてましたよ。今までポンポコリンと一緒にいたんですよ。」 「そうですか、どうもありがとうございます。」 「明日までかかりそうだから、また明日いらっしゃい。」 正男は喜んだ。 「また明日、見に来てもいいの?」 「ああいいよ。おいで。」 正男は喜んだ。 「わ〜〜〜い!紋ちゃんも、明日もいるの?」 「いるよ。」 「わ〜〜〜い!」 紋次郎が正男の傍にやって来て言った。 「じゃあ、また明日ね!」 正男は紋次郎の周りを回りだした。 「紋ちゃんといっしょ、紋ちゃんといっしょ!」 礼子は熊さんに挨拶した。 「今日は、ほんとうにありがとうございます。」 「何もしてないよ。」 「これから集会所に正男と一緒に行って、お礼を言ってきますので失礼します。」 「ああ、行っておいで。」 礼子は、正男を手を引いて集会所に向かって行った。 腕時計を見ると、四十五分だった。 「この網を張って今日は終わろう、紋次郎!」 「はい!」 「おまえ、子供に人気あるな〜〜。」 「そうですか?」 「幼稚園の先生にでもなったほうがいいんじゃないか?」 「幼稚園の先生ですか?」 「ああ、きっとわんぱく小僧やおてんば娘たちも、おとなしくなるぞ。」 「そうですか?」 雨は、すっかり止んでいた。日が沈みはじめていた。高野山のアナウンスが流れた。
熊の親子は 無事に山に帰りました ご安心ください
「熊の親子だったのか…、さぞかし腹を空かせていたんだろうな〜。」 熊さんは、目頭が熱くなってきた。
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