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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第163回   神様のバチ
川の近くには、屋根だけの運動会で使うような大きなテントがあった。極限正義党の連中は、その下で煮炊きをしていた。
寝るためのテントの中で、二人はのんきに将棋を指していた。寝袋で寝ていた一人が起き上がった。
「何時だい?」
「四時ちょっと過ぎだよ。」
まだ雨は降っていた。激しくはなかった。
「これ止むのかよ?」
「ラジオの天気予報では、夕方には止むって言ってたよ。」
「じゃあ、もう少しで止むな。」
「たぶんな。」
「今日はもう仕事は無理だから、飯を炊いてくるよ。」
「あっ、そおう。じゃあ頼む。」
「さっき、肉と椎茸を地主さんから頂いたから、バーベキューで食べようぜ。
「バーベキューで食べようぜって、いつも肉はバーベキューじゃないかよ。」
「まあ、そうだけど。」
一人はテントから、大きなテントに小走りで入った。
大きなテントの下には、バーベキューのコンロがあって、彼らはそこで煮炊きをしていた。
彼はみんなから、カムイと呼ばれていた。グループのリーダー的存在だった。彼は、地主からもらった昔風の釜に米を入れて、川に持って行き、さっさと洗って持って来た。コンロの上にのせ重い木製の蓋をした。そして、炭に慣れた手順で火を入れた。
「よしと!」
肉や野菜は、電気の入ってない冷蔵庫がテントの下にあって、そこに入れてあった。
「この冷蔵庫は、ちっとも冷えないからな〜。」
二人の温泉ホームレスの男がやってきた。一人が「電気代を払わないと冷えないよ。」と言った。
そして、ポリ袋に入ってる何かを差し出した。
「これ、インスタント味噌汁。百個入ってる。しじみの味噌汁だよ。」
「おっ、いいね〜〜。」
「朝、高野町で買ってきたんだよ。スーパーで安売りしてた。」
「高野町に行ってたのか。人が多かったろう?」
「ああ、来てたよ。外国人も多かったよ。」
「高野山は、すっかり観光の町になっちゃったな。」
「世界遺産になってからだよ。」
「以前は、もっと静かなところだったんだろうな。」
「たぶんな。」
「夏を過ぎると、高野山は寒くなるよ。」
「そうだな。」
「そろそろ用意しといたほうがいいんじゃない?」
「何を?」
「寒さ対策。」
「そうだな〜。」
「寝袋だけじゃあ寒くなるよ。」
「地主が、プレハブの小屋を持ってくるって行ってたから、それから考えよう。」
「そうだな。」
もう一人の男が、大きなポリ袋を差し出した。
「何、これ?」
「玉葱だよ。歩いてたら農家の人にもらったんだよ。早起きは三文の得だね。」
「けっこう、いい玉葱じゃん!」
「いい玉葱だよ。」
「こうやって、飯が食えるだけで有難いもんだよ。」
「そいうことだ。」
「ここは、まるで昔の縄文時代の生活みたいだな。」
「君たちは、ここに来る前は、どこにいたの?」
「大阪の有名なとこだよ。」
「あ〜、あそこか。」
「最近は、夏は暑くて住めないよ。死んじゃうよ。」
「既に、たくさん死んでるよ。」
「そうだろうな〜。」
「俺、縄文時代に生まれてればよかったよ。」
「そうだなあ〜。縄文時代だったら、俺たちはエリートだな。」
「そうだな、熱中症の地獄の夏も無いしな。」
「地球温暖化は下界の欲張りたちの贅沢な生活のせいだよ。」
「俺たちは、人間らしく生きているだけだからな。」
「そうだ、俺たちには責任は無い!地球温暖化は、あいつらが悪いんだ!」
「一生懸命に働くのはいいけど、人間は贅沢になっちゃあ神様のバチが当たるんだよ。人間だけが生きているんじゃないんだから。」
「そうだ、そうだ!カエルだって蟻ん子だって生きているんだ!絶対にバチがあたる!」
「下界の連中は、俺たちのこと、だらしないと言ってるけど、どっちが地球に対してだらしないんだよ。神様が作った地球の空気をこんなに汚して。」
「そうだ、そうだ!」
温泉ホームレスの二人は、しきりに頷いていた。
「ところで、地主は俺たちみたいなのを集めて、いたいどうするのかな〜。」
「そうだな〜?」
「開墾して畑を作らせてるだけだろう。」
「そうかな〜〜?」
「ほかに、何かあるような気がするんだけどな〜。」
「何かって?」
「何かだよ。」
「そうなことはどうでもいいじゃない。悪い人じゃないよ。目を見れば分かる!」
「そうだ、そうだ!人を無闇に疑うのは良くない!下界の人間と同じになるぞ!」
「俺たちは正しい!極限正義党ばんざ〜い!」
三人は同時に「ばんざ〜〜い!」と叫んでいた。でも、雨は三人の叫びをを無視してるように、止まずにしとしとと降っていた。


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