川の近くには、屋根だけの運動会で使うような大きなテントがあった。極限正義党の連中は、その下で煮炊きをしていた。 寝るためのテントの中で、二人はのんきに将棋を指していた。寝袋で寝ていた一人が起き上がった。 「何時だい?」 「四時ちょっと過ぎだよ。」 まだ雨は降っていた。激しくはなかった。 「これ止むのかよ?」 「ラジオの天気予報では、夕方には止むって言ってたよ。」 「じゃあ、もう少しで止むな。」 「たぶんな。」 「今日はもう仕事は無理だから、飯を炊いてくるよ。」 「あっ、そおう。じゃあ頼む。」 「さっき、肉と椎茸を地主さんから頂いたから、バーベキューで食べようぜ。 「バーベキューで食べようぜって、いつも肉はバーベキューじゃないかよ。」 「まあ、そうだけど。」 一人はテントから、大きなテントに小走りで入った。 大きなテントの下には、バーベキューのコンロがあって、彼らはそこで煮炊きをしていた。 彼はみんなから、カムイと呼ばれていた。グループのリーダー的存在だった。彼は、地主からもらった昔風の釜に米を入れて、川に持って行き、さっさと洗って持って来た。コンロの上にのせ重い木製の蓋をした。そして、炭に慣れた手順で火を入れた。 「よしと!」 肉や野菜は、電気の入ってない冷蔵庫がテントの下にあって、そこに入れてあった。 「この冷蔵庫は、ちっとも冷えないからな〜。」 二人の温泉ホームレスの男がやってきた。一人が「電気代を払わないと冷えないよ。」と言った。 そして、ポリ袋に入ってる何かを差し出した。 「これ、インスタント味噌汁。百個入ってる。しじみの味噌汁だよ。」 「おっ、いいね〜〜。」 「朝、高野町で買ってきたんだよ。スーパーで安売りしてた。」 「高野町に行ってたのか。人が多かったろう?」 「ああ、来てたよ。外国人も多かったよ。」 「高野山は、すっかり観光の町になっちゃったな。」 「世界遺産になってからだよ。」 「以前は、もっと静かなところだったんだろうな。」 「たぶんな。」 「夏を過ぎると、高野山は寒くなるよ。」 「そうだな。」 「そろそろ用意しといたほうがいいんじゃない?」 「何を?」 「寒さ対策。」 「そうだな〜。」 「寝袋だけじゃあ寒くなるよ。」 「地主が、プレハブの小屋を持ってくるって行ってたから、それから考えよう。」 「そうだな。」 もう一人の男が、大きなポリ袋を差し出した。 「何、これ?」 「玉葱だよ。歩いてたら農家の人にもらったんだよ。早起きは三文の得だね。」 「けっこう、いい玉葱じゃん!」 「いい玉葱だよ。」 「こうやって、飯が食えるだけで有難いもんだよ。」 「そいうことだ。」 「ここは、まるで昔の縄文時代の生活みたいだな。」 「君たちは、ここに来る前は、どこにいたの?」 「大阪の有名なとこだよ。」 「あ〜、あそこか。」 「最近は、夏は暑くて住めないよ。死んじゃうよ。」 「既に、たくさん死んでるよ。」 「そうだろうな〜。」 「俺、縄文時代に生まれてればよかったよ。」 「そうだなあ〜。縄文時代だったら、俺たちはエリートだな。」 「そうだな、熱中症の地獄の夏も無いしな。」 「地球温暖化は下界の欲張りたちの贅沢な生活のせいだよ。」 「俺たちは、人間らしく生きているだけだからな。」 「そうだ、俺たちには責任は無い!地球温暖化は、あいつらが悪いんだ!」 「一生懸命に働くのはいいけど、人間は贅沢になっちゃあ神様のバチが当たるんだよ。人間だけが生きているんじゃないんだから。」 「そうだ、そうだ!カエルだって蟻ん子だって生きているんだ!絶対にバチがあたる!」 「下界の連中は、俺たちのこと、だらしないと言ってるけど、どっちが地球に対してだらしないんだよ。神様が作った地球の空気をこんなに汚して。」 「そうだ、そうだ!」 温泉ホームレスの二人は、しきりに頷いていた。 「ところで、地主は俺たちみたいなのを集めて、いたいどうするのかな〜。」 「そうだな〜?」 「開墾して畑を作らせてるだけだろう。」 「そうかな〜〜?」 「ほかに、何かあるような気がするんだけどな〜。」 「何かって?」 「何かだよ。」 「そうなことはどうでもいいじゃない。悪い人じゃないよ。目を見れば分かる!」 「そうだ、そうだ!人を無闇に疑うのは良くない!下界の人間と同じになるぞ!」 「俺たちは正しい!極限正義党ばんざ〜い!」 三人は同時に「ばんざ〜〜い!」と叫んでいた。でも、雨は三人の叫びをを無視してるように、止まずにしとしとと降っていた。
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