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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第162回   山ぶどうジュース
山田は、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、わたしは、これにて!」
福之助が笑った。
「これにて、だって、変な言葉!」
「お面!」福之助の頭に手刀が入った。「何をする、曲者!」
「そんなことじゃあ、曲者に襲われますぞ!」
「分かりました、注意します!」
「では、皆さん!あっ、そうだ。明日は?」
「明日は、何もいらないわ、余ってるから。」
「ああ、そうですか。でもいちよう来てみます。ロボット泥棒の警戒に。」
「じゃあ、おねがいします。」
「あっ、そうだ。山ぶどうジュースを冷蔵庫に入れておきました。」
「山ぶどうジュース?」
「今度、高野山の新農業政策で新しく作ったものです。とっても美味しく良くできてましたよ。」
「そうですか、後で飲んで見ます。」
姉さんは喜んだ。「わ〜〜〜、山ぶどうのジュースですか〜〜、珍しいな〜〜!」
山田は出て行った。
早速、姉さんは冷蔵庫を覗いた。
「わ〜〜あ、これね!」
取り出した。
「ちょっと飲んでみましょうか?」
「そうですね、せっかく頂いたんだから。」
「福之助、グラス持って来て。」
「は〜〜〜い!」
福之助が持ってくると、姉さんはラリホーラリホーで注いだ。
「それではアニーさん、頂きましょう!」
「はい。」
二人は味わいながら飲んだ。
「うん!これは、おいしい!なんだか懐かしい味だわ〜〜。」
「わ〜〜、とってもデリシャス!」
「そんなに美味しいんですか?じゃあ、わたしくしにも一口!」
「飲んでどうすんだよ?」
「味覚センサーで鑑定してみます。」
「お前の、おんぼろセンサーで分かるか、この微妙な味が!」
「なんですって!」
「そんな無駄なことしないで、あっち行ってろって!」
「あ〜〜あ、つまんないの!ロボットになんか生まれなきゃよかった。」
「おまえは、生まれたんじゃなくって、作られたの!」
「何のために生きてるんでしょう?」
「おまえは、生きてるんじゃなくって、動いてるだけなの。」
「あ〜〜、そうなんですか!」
福之助は、ふてくさって下がった。姉さんは、大事そうにジュースの瓶を持つと、冷蔵庫にしまった。
「あ〜〜あ、飲まれなくて良かった!」
壁時計を見ると、ちょうど四時だった。
「真由美ちゃん、四時頃に来るって言ってたわね。」
姉さんは、真由美ちゃんの家の見える窓の前に立って見た。
「あっ、真由美ちゃんが立ってる。」
真由美は、雨の中を傘を差して立っていた。
「まだ来てないんだねえ〜。」
アニーもやってきた。
「真由美ちゃん、ずっと待ってたのかしら?」
「なんだか、そういう感じですね。」
福之助もやってきた。
「天気予報では、四時から晴れるって言ってたんですけどね〜。」
「山の天気は分からないよ。ころころ変わるから。」
「まるで、姉さんの心みたいですねえ。」
「なんだって!」
「すみません。つい口が喋ってしまって!」
「おまえ、その言葉、修正できてないよ。」
「わざと修正してないんです。気に入ってるんです。」
「ああ、そう。」
一人の傘を差した男が、真由美の前で止まった。
「あっ、来たわ、中国人の留学生!」
真由美が笑顔で何か言うと、男は家の中に入って行った。雨が降っていた。



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