山田は、椅子から立ち上がった。 「じゃあ、わたしは、これにて!」 福之助が笑った。 「これにて、だって、変な言葉!」 「お面!」福之助の頭に手刀が入った。「何をする、曲者!」 「そんなことじゃあ、曲者に襲われますぞ!」 「分かりました、注意します!」 「では、皆さん!あっ、そうだ。明日は?」 「明日は、何もいらないわ、余ってるから。」 「ああ、そうですか。でもいちよう来てみます。ロボット泥棒の警戒に。」 「じゃあ、おねがいします。」 「あっ、そうだ。山ぶどうジュースを冷蔵庫に入れておきました。」 「山ぶどうジュース?」 「今度、高野山の新農業政策で新しく作ったものです。とっても美味しく良くできてましたよ。」 「そうですか、後で飲んで見ます。」 姉さんは喜んだ。「わ〜〜〜、山ぶどうのジュースですか〜〜、珍しいな〜〜!」 山田は出て行った。 早速、姉さんは冷蔵庫を覗いた。 「わ〜〜あ、これね!」 取り出した。 「ちょっと飲んでみましょうか?」 「そうですね、せっかく頂いたんだから。」 「福之助、グラス持って来て。」 「は〜〜〜い!」 福之助が持ってくると、姉さんはラリホーラリホーで注いだ。 「それではアニーさん、頂きましょう!」 「はい。」 二人は味わいながら飲んだ。 「うん!これは、おいしい!なんだか懐かしい味だわ〜〜。」 「わ〜〜、とってもデリシャス!」 「そんなに美味しいんですか?じゃあ、わたしくしにも一口!」 「飲んでどうすんだよ?」 「味覚センサーで鑑定してみます。」 「お前の、おんぼろセンサーで分かるか、この微妙な味が!」 「なんですって!」 「そんな無駄なことしないで、あっち行ってろって!」 「あ〜〜あ、つまんないの!ロボットになんか生まれなきゃよかった。」 「おまえは、生まれたんじゃなくって、作られたの!」 「何のために生きてるんでしょう?」 「おまえは、生きてるんじゃなくって、動いてるだけなの。」 「あ〜〜、そうなんですか!」 福之助は、ふてくさって下がった。姉さんは、大事そうにジュースの瓶を持つと、冷蔵庫にしまった。 「あ〜〜あ、飲まれなくて良かった!」 壁時計を見ると、ちょうど四時だった。 「真由美ちゃん、四時頃に来るって言ってたわね。」 姉さんは、真由美ちゃんの家の見える窓の前に立って見た。 「あっ、真由美ちゃんが立ってる。」 真由美は、雨の中を傘を差して立っていた。 「まだ来てないんだねえ〜。」 アニーもやってきた。 「真由美ちゃん、ずっと待ってたのかしら?」 「なんだか、そういう感じですね。」 福之助もやってきた。 「天気予報では、四時から晴れるって言ってたんですけどね〜。」 「山の天気は分からないよ。ころころ変わるから。」 「まるで、姉さんの心みたいですねえ。」 「なんだって!」 「すみません。つい口が喋ってしまって!」 「おまえ、その言葉、修正できてないよ。」 「わざと修正してないんです。気に入ってるんです。」 「ああ、そう。」 一人の傘を差した男が、真由美の前で止まった。 「あっ、来たわ、中国人の留学生!」 真由美が笑顔で何か言うと、男は家の中に入って行った。雨が降っていた。
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