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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第160回   無医村、スピード落とせ!
オロロン星人を乗せたマイクロバスは、清滝街道(きよたきかいどう)を大台ケ原ふもとの村にある大台ケ原レアアースという会社に向かっていた。隊長は、大きく書かれている標語を見ていた。
「無医村、スピード落とせ!か…」
「地球人は、標語が好きですな〜。」
「こういう標語はどうだろう?」
「どういうのですか?」
「真面目に走って、地球を汚そう!」
「それはいいですねえ〜!」
「傑作だろう。」
「傑作です。猿は動き回るのが好きですから。」
「頭がないからなあ〜。」
「なにしろ、先祖が下品な本物の猿ですから。」
「そうだったな。」
「我々、オロロン星人とは根本的に違いますよ。」
「そうだな。」
「我々オロロン星人の祖先は、可愛くって綺麗好きな、上品なアライグマですから。」
「アライグマは綺麗好きで上品だからな。」
彼らが会社に着くと、一人の社員が当惑した顔で出てきた。
「隊長、大変です!」
「なんだ?」
「隊長を慕って、沢山の青少年たちが来ています!」
「青少年?」
「高校生くらいの青少年です。」
「どのくらい来てるんだ?」
「百人ほどです!」
「百人!」
「モーターバイクの暴走族です!」
「暴走族?」
「われわれを雇ってくれと言ってます。」
「そうか、そういうことか…」
「どうしましょう?」
「困ったなあ〜、これ以上余分な金はないしな〜。」
「追い返しましょうか?」
「ちょっと待て、せっかく俺を頼りに来たんだ。可哀想じゃないか。金もなくて困っているんだろう。」
「だと思いますけど。」
「困ったな…」
隊長は考え込んだ。
「今、新しい商売を考えているところなんだよ。それが軌道に乗ったら配達でもやってもらいたいんだけどな〜。走り回るのが好きなんだろう?」
「はい。そういう連中です。」
「…今は駄目だけど、そのうちに雇ってやるから、ガソリン代だけはだしてやるから、おとなしく炭酸ガスをばらまいて走り回ってろ!って言ってやれ。」
「じゃあ、炭酸ガスの分だけガソリン代を払ってやればいいんですね。」
「そういうことだ。」
「分かりました!」
部下の一人は駐車場に向かった。オートバイがエンジンもかけずに大人しく沢山止まっていた。部下の一人が彼らと話していた。若者たちは、「ひゃっほ〜!」と叫びあっていた。そして、爆音を鳴り響かせてマイクロバスの隊長に手を振り、頭を下げながら走り去って行った。隊長は彼らを見ていた。
「若者は純粋でいいな〜。」隊長の目は、涙で潤んでいた。


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