きょん姉さんの目は、天野の無農薬米の前に立ち、なにやら品定めをするように睨みながら、らんらんと光り輝いていた。台所にいた福之助が気づいて、姉さんに声をかけた。 「どうしたんですか、姉さん?」 「お米は、かまどで炊いたほうが、美味しいんだよ…」 「かまど?」 「かまど、知らないの?」 「はい、知りません。」 「ご飯を、おいしく炊くやつだよ。」 「そうなんですか?わたしはロボットなもので、そういうものは。」 姉さんは、振り返って、アニーを見た。アニーは目を閉じて、白雪姫のように寝ていた。 「アニーさん、まだ風邪が治ってないみたいね。」 姉さんは、窓際に立って外を見まわした。 「かまど、ないかなあ〜〜。」 福之助もやってきて、窓の外を眺めた。 「かまどって、どんなのですか?」 「鍋や釜をのせて火を熾(おこ)すやつだよ。」 「見たことがないので、分かりません。」 姉さんは、しつこく窓の外を見回していた。 「おまえの頭、取り外して、かまどにならないかなあ?」 「え〜〜〜、何言ってるんですか!?」 「冗談だよ。」 「あ〜〜、びっくりした!姉さんは、やりかねないからなあ。」 「バーベキューのコンロで炊けないかなあ…」 「何を炊くんですか?」 「決まってるだろう。炊くと言ったら、ご飯だろう!」 「ああ、そうなんですか?」 「鍋で炊けるかなあ〜〜?」 「炊けるんじゃないですか。火と水さえあれば。」 「おまえなあ、そういう単純なもんじゃないんだよ。食というのは。」 「ああ、そうなんですか。」 「試しに、やってみるかなあ…」 「悩んでるんだった、やればいいんじゃないんですか?」 「おまえなあ、そう簡単に言うなって。」 「じゃあ、やらないほうがいいですよ。」 「おまえなあ、そう簡単に言うなって。」 「どっちなんですか?優柔不断ですねえ〜。あ〜〜あ。」 「あ〜〜あ、とは何だよ!」 「たかだか、食べ物ごときに!」 「おまえなあ、人間にとって、食は一番大切なものなの!」 「ああ、そうなんですか。」 「医食同源って言って、食は命なの。」 「ああ、そうなんですか。」 「おまえは、カレーを作っておいておくれ。肉と材料は切っておいたから。」 「カレーですか?」 「そうだよ。ご飯を美味しく食べるには、カレーが一番なんだよ。」 「そうなんですか。」 「レッツ・トライ!じゃあ、頼むよ!」 「はい!」 姉さんは、鍋に三合の米を入れると、水を入れて研ぎ、適量の水を加えて出て行った。姉さんは、ほっかほかの美味しい御飯で頭の中は一杯になっていた。 アニーが目を開けた。 「あれ、今、葛城さん、出て行ったみたいだけど、どこに行ったの?」 「なんでも、かまどで御飯を炊くと言って、出て行きました。」 「かまどで?」 「なんでも、かまどで炊くと、美味しいとか言ってました。」 「かまどなんて、あったかなあ?」 アニーは起き上がった。そして、バーベキューエリアを眺めた。姉さんが、バーベキューコンロの前で、腕組みをして何やら考え込んでいた。近くで、二匹のウサギが、姉さんを眺めていた。トワイライトの陽射しを浴びて、野に咲く花が仲良く同じリズムで風に揺れていた。
|
|