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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第16回   レッツ・トライ!
きょん姉さんの目は、天野の無農薬米の前に立ち、なにやら品定めをするように睨みながら、らんらんと光り輝いていた。台所にいた福之助が気づいて、姉さんに声をかけた。
「どうしたんですか、姉さん?」
「お米は、かまどで炊いたほうが、美味しいんだよ…」
「かまど?」
「かまど、知らないの?」
「はい、知りません。」
「ご飯を、おいしく炊くやつだよ。」
「そうなんですか?わたしはロボットなもので、そういうものは。」
姉さんは、振り返って、アニーを見た。アニーは目を閉じて、白雪姫のように寝ていた。
「アニーさん、まだ風邪が治ってないみたいね。」
姉さんは、窓際に立って外を見まわした。
「かまど、ないかなあ〜〜。」
福之助もやってきて、窓の外を眺めた。
「かまどって、どんなのですか?」
「鍋や釜をのせて火を熾(おこ)すやつだよ。」
「見たことがないので、分かりません。」
姉さんは、しつこく窓の外を見回していた。
「おまえの頭、取り外して、かまどにならないかなあ?」
「え〜〜〜、何言ってるんですか!?」
「冗談だよ。」
「あ〜〜、びっくりした!姉さんは、やりかねないからなあ。」
「バーベキューのコンロで炊けないかなあ…」
「何を炊くんですか?」
「決まってるだろう。炊くと言ったら、ご飯だろう!」
「ああ、そうなんですか?」
「鍋で炊けるかなあ〜〜?」
「炊けるんじゃないですか。火と水さえあれば。」
「おまえなあ、そういう単純なもんじゃないんだよ。食というのは。」
「ああ、そうなんですか。」
「試しに、やってみるかなあ…」
「悩んでるんだった、やればいいんじゃないんですか?」
「おまえなあ、そう簡単に言うなって。」
「じゃあ、やらないほうがいいですよ。」
「おまえなあ、そう簡単に言うなって。」
「どっちなんですか?優柔不断ですねえ〜。あ〜〜あ。」
「あ〜〜あ、とは何だよ!」
「たかだか、食べ物ごときに!」
「おまえなあ、人間にとって、食は一番大切なものなの!」
「ああ、そうなんですか。」
「医食同源って言って、食は命なの。」
「ああ、そうなんですか。」
「おまえは、カレーを作っておいておくれ。肉と材料は切っておいたから。」
「カレーですか?」
「そうだよ。ご飯を美味しく食べるには、カレーが一番なんだよ。」
「そうなんですか。」
「レッツ・トライ!じゃあ、頼むよ!」
「はい!」
姉さんは、鍋に三合の米を入れると、水を入れて研ぎ、適量の水を加えて出て行った。姉さんは、ほっかほかの美味しい御飯で頭の中は一杯になっていた。
アニーが目を開けた。
「あれ、今、葛城さん、出て行ったみたいだけど、どこに行ったの?」
「なんでも、かまどで御飯を炊くと言って、出て行きました。」
「かまどで?」
「なんでも、かまどで炊くと、美味しいとか言ってました。」
「かまどなんて、あったかなあ?」
アニーは起き上がった。そして、バーベキューエリアを眺めた。姉さんが、バーベキューコンロの前で、腕組みをして何やら考え込んでいた。近くで、二匹のウサギが、姉さんを眺めていた。トワイライトの陽射しを浴びて、野に咲く花が仲良く同じリズムで風に揺れていた。



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