父の教えの 早業に〜 母の形見の 柔道着〜 ♪ 色も 紅三四郎〜 悪をこらして 大地をふんで 赤い夕陽の 道をゆけ〜 ♪
鶴丸隼人は、また感涙しながら歌っていた。紅三四郎の歌を。 龍次とアキラは、黙って聞いていた。 龍次は、アキラに小さな声で言った。 「よっぽど、感激したんだね?」 アキラも同様に、小さな声で答えた。 「何に感激したの?」 「技に。」 「そんなに凄い技だったんだ?」 「やっぱり、普通の人と違うね。」 「武術の達人同士にしか分からない世界ってことね。」 「そうだね。」 真由美ちゃんが、自分家の前で、傘を差して立っていた。誰かを待ってる感じだった。龍次が声をかけた。 「真由美ちゃ〜〜ん、何してるの〜?」 真由美は、道を見ていた。 「中国の大学生の人を待ってるの。」 「中国の大学生?」 「お母さんの脚をなおしてくれるんです。」 「そうなの!?」 「お父さんが、中国の有名な先生なんだそうです。中国からつれてくるって言ってました。」 「あ〜、そうなの。それは良かったねえ〜!」 「はい。」 「何時頃に来るの?」 「三時頃に来るって言ってました。」 龍次は時計を見た。二時半だった。 「あと三十分もあるよ。雨が降ってるから、中で待ってたほうがいいんじゃない?風邪を引くよ。」 「だいじょうぶです。」 「じゃあ、頑張ってね!」龍次は手を振った。 アキラとショーケンと隼人も手を振ったが、真由美は、ひたすらに道を見ているだけだった。アキラだけが、いちまでも真由美を見ていた。 「真由美ちゃん、よっぽど待ち遠しいんだな〜。」 みんなが人間村に向かって歩いていると、前方から機械の腕で傘を持った変な電動車椅子に乗った甲賀忍が、手を振りながらやって来た。忍の後ろには、高野山テクノロジー研究所の長谷川が見守るように歩いていた。 忍と長谷川は、龍次の前で止まった。 「龍次さん、これいいでしょう?」 「いいけど、なあにこれ?」 長谷川が答えた。 「保土ヶ谷さん、これのテスト走行を彼に頼んだんですけど、いいですか?」 「あ〜〜〜、いいですよ。本人が良ければ。」 忍が即座に答えた。 「これいいよ。助かってるよ!」 「そんなにいいの?」 「左右に倒れそうになったら、この腕で支えてくれるし。段差もへっちゃら!」 「この腕で…」 龍次は、銀色の金属の腕を触った。 「軽くて強そうだねえ〜。」 「アレックスフレームと言って、アルミみたいに軽くて、鉄の二倍以上硬くて強いんだって。」 「それは凄いなあ〜。」 後ろから、サイレンが聞こえた。みんなは見た。最初に声をあげたのは龍次だった。 「あっ、ハチだ!」 隼人も叫んでいた。 「忍者隊、月光だ!」 みんなの前を、忍者の服装をした二人を乗せた、八輪の水陸両用万能自動車が、赤色灯を回転させながら通り過ぎて行った。 アキラは驚いた。 「なんだ、ありゃ〜〜〜!?」 ショーケンも、去り行く特殊自動車を驚きの様子で見ていた。 「忍者が乗ってたぞ!」 龍次が二人に説明した。 「高野山警察の忍者隊・月光と、水陸万能車・ハチです。何かあったのかな〜?」 時だけは、恙無(つつがな)く前に動いていた。まだ、雨は降っていた。
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