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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第157回   水陸万能車・ハチ
 父の教えの 早業に〜 母の形見の 柔道着〜 ♪
 色も 紅三四郎〜 悪をこらして 大地をふんで 赤い夕陽の 道をゆけ〜 ♪

鶴丸隼人は、また感涙しながら歌っていた。紅三四郎の歌を。
龍次とアキラは、黙って聞いていた。
龍次は、アキラに小さな声で言った。
「よっぽど、感激したんだね?」
アキラも同様に、小さな声で答えた。
「何に感激したの?」
「技に。」
「そんなに凄い技だったんだ?」
「やっぱり、普通の人と違うね。」
「武術の達人同士にしか分からない世界ってことね。」
「そうだね。」
真由美ちゃんが、自分家の前で、傘を差して立っていた。誰かを待ってる感じだった。龍次が声をかけた。
「真由美ちゃ〜〜ん、何してるの〜?」
真由美は、道を見ていた。
「中国の大学生の人を待ってるの。」
「中国の大学生?」
「お母さんの脚をなおしてくれるんです。」
「そうなの!?」
「お父さんが、中国の有名な先生なんだそうです。中国からつれてくるって言ってました。」
「あ〜、そうなの。それは良かったねえ〜!」
「はい。」
「何時頃に来るの?」
「三時頃に来るって言ってました。」
龍次は時計を見た。二時半だった。
「あと三十分もあるよ。雨が降ってるから、中で待ってたほうがいいんじゃない?風邪を引くよ。」
「だいじょうぶです。」
「じゃあ、頑張ってね!」龍次は手を振った。
アキラとショーケンと隼人も手を振ったが、真由美は、ひたすらに道を見ているだけだった。アキラだけが、いちまでも真由美を見ていた。
「真由美ちゃん、よっぽど待ち遠しいんだな〜。」
みんなが人間村に向かって歩いていると、前方から機械の腕で傘を持った変な電動車椅子に乗った甲賀忍が、手を振りながらやって来た。忍の後ろには、高野山テクノロジー研究所の長谷川が見守るように歩いていた。
忍と長谷川は、龍次の前で止まった。
「龍次さん、これいいでしょう?」
「いいけど、なあにこれ?」
長谷川が答えた。
「保土ヶ谷さん、これのテスト走行を彼に頼んだんですけど、いいですか?」
「あ〜〜〜、いいですよ。本人が良ければ。」
忍が即座に答えた。
「これいいよ。助かってるよ!」
「そんなにいいの?」
「左右に倒れそうになったら、この腕で支えてくれるし。段差もへっちゃら!」
「この腕で…」
龍次は、銀色の金属の腕を触った。
「軽くて強そうだねえ〜。」
「アレックスフレームと言って、アルミみたいに軽くて、鉄の二倍以上硬くて強いんだって。」
「それは凄いなあ〜。」
後ろから、サイレンが聞こえた。みんなは見た。最初に声をあげたのは龍次だった。
「あっ、ハチだ!」
隼人も叫んでいた。
「忍者隊、月光だ!」
みんなの前を、忍者の服装をした二人を乗せた、八輪の水陸両用万能自動車が、赤色灯を回転させながら通り過ぎて行った。
アキラは驚いた。
「なんだ、ありゃ〜〜〜!?」
ショーケンも、去り行く特殊自動車を驚きの様子で見ていた。
「忍者が乗ってたぞ!」
龍次が二人に説明した。
「高野山警察の忍者隊・月光と、水陸万能車・ハチです。何かあったのかな〜?」
時だけは、恙無(つつがな)く前に動いていた。まだ、雨は降っていた。




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