龍次たちがコスモスの道を歩いていた。龍次の左隣には、鶴丸隼人がいた。 「ところで、彼女は、いったい何してたの?」 「カメラで、我々を隠れて撮ってたんです。」 「ふ〜〜ん。」 「何なんでしょうね?」 「おそらく、政府の仕事でしょう。我々を調査してるんですよ。」 「われわれをですか?」 「そうです。危ない組織でないかどうかを。大丈夫ですよ、我々は、何も危ないことはやってませんから。堂々と見せてやればいいんですよ。そしたら、政府も方針を変えます。」 「そうですね。何も恐れることはないんですね。」 「それに、最近は我々ではなくって、猿人間や暴走族や新赤軍に矛先が変わっていますから。」 「そうですね。」 「彼女に出くわしても、何もしないでください。そのほうが無難です。」 「はい、そうします!」 後ろから知らない若い男が傘を差しながら駆けて来て、龍次を呼び止めた。 「すみません。保土ヶ谷さんですか?」 「そうですけど?」 「実は、そちらに足の速いロボットのことで、お願いがありまして。」 「ロボットですか?いますけど、どういうお願いですか?」 「彼をロボットマラソン大会に、出場をお願いできませんでしょうか?」 「ロボットマラソン大会って?」 「今年から、十月の体育の日に開催されることになったんですけど、参加ロボットが少なくって困っているんです。」 「高野町の主催なの?」 「はい。」 「それは面白いけど、本人というか、本ロボット次第だね。」 「では、是非伝えておいて頂けませんでしょうか?」 「ああ、いいよ。伝えておくよ。」 男は印刷物を龍次に手渡した。「よろしくおねがいします!」 「ああ、言っとくよ。」 男は頭を下げ「ありがとうございます!」と礼を言って、来た道を去って行った。 龍次は印刷物を見た。再び歩き出した。 「龍神スカイライン二足ロボットマラソン大会…」 隣の鶴丸隼人も見ていた。 「面白そうですねえ。」 「そうだね。でも、紋次郎くん次第だね。」 「そうですね。」 「彼は、ちょっと気難しいところがあるからねえ。」 「ロボットらしくないんですよ。ときどき長い爪楊枝(つまようじ)なんか咥えて、映画の木枯し紋次郎になっちゃうし。言葉も時代劇になっちゃうし。」 前から、軽トラックがやって来た。われわれを避けようとして、反対側の土手に乗り上げた。 みんなは、びっくりした。アキラが軽トラックに駆け寄った。 「どうしたの、どうしたの!?」 軽トラックには、男の老人が乗ってハンドルを握っていた。 「ブレーキとアクセルを間違えちゃった!」 「あっぶねえな〜〜〜!」 軽トラックは、バックすると、何事もなかったかのようにして再び走り出した。 「だいじょうぶかよ〜〜〜、あのオジサン!?」 龍次も心配そうに、軽トラックを見ていた。 「アクセルとブレーキが近くに並んでいるから間違えるんですよ。」 「そういう問題?」 「二つあるから間違えるんですよ。どっちか一つにすればいいんですよ。」 「もう一つは?」 「手操作にするとか、膝操作にするとか…」 「手にはハンドルがあるじゃん。」 「そこんとこをなんとか。」 「なんとかったって…」 「以前、ブレーキに音をつけようかと考えたんですけどね、踏んだ後になっちゃうでしょう。」 「ブレーキに音?」 「ブレーキとアクセルを踏んだときの音を変えるんですよ。」 「なるほどねえ。」 「踏んでから分かってもねえ〜。踏む前に分からないと。」 「そうだよな〜〜。」 「テレビでは、間違えよりも、条件反射で踏んでしまうと言ってましたよ。」 「考えなくって踏んじゃうんだ。」 「足で二つを操作するってところに、問題がありますね。構造的な問題ですね。」 「工場みたいに、道路に白線を描いて自動運転にしたらいいんだよ。」 「それもいい考えですね。」 二人は余計なことで頭を悩ましていた。雨は、まだ降っていた。カラスが人間を馬鹿にするように、雨の中を悠々と飛んでいた。『アホーアホー!』と鳴きながら。 「アホーアホーだって、カラスに馬鹿にされた!」 「カラスは頭がいいんですよ。人間の顔をちゃんと覚えているんですよ。だから、うかつに攻撃したら、復習されます。」 「おっかね〜。」 「もし、カラスの羽が退化して、手ができたら頭のいい恐ろしい動物になりますよ。」 「カラスに手!そんな馬鹿な!」 「どこかの星にいるかも知れませんよ。例えば、アンドロメダの見知らぬ惑星とか。」 「気持ちの悪いこと言わないでよ〜!」 隼人は、にたにたと笑っていた。
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