20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第156回   アホーアホー!
龍次たちがコスモスの道を歩いていた。龍次の左隣には、鶴丸隼人がいた。
「ところで、彼女は、いったい何してたの?」
「カメラで、我々を隠れて撮ってたんです。」
「ふ〜〜ん。」
「何なんでしょうね?」
「おそらく、政府の仕事でしょう。我々を調査してるんですよ。」
「われわれをですか?」
「そうです。危ない組織でないかどうかを。大丈夫ですよ、我々は、何も危ないことはやってませんから。堂々と見せてやればいいんですよ。そしたら、政府も方針を変えます。」
「そうですね。何も恐れることはないんですね。」
「それに、最近は我々ではなくって、猿人間や暴走族や新赤軍に矛先が変わっていますから。」
「そうですね。」
「彼女に出くわしても、何もしないでください。そのほうが無難です。」
「はい、そうします!」
後ろから知らない若い男が傘を差しながら駆けて来て、龍次を呼び止めた。
「すみません。保土ヶ谷さんですか?」
「そうですけど?」
「実は、そちらに足の速いロボットのことで、お願いがありまして。」
「ロボットですか?いますけど、どういうお願いですか?」
「彼をロボットマラソン大会に、出場をお願いできませんでしょうか?」
「ロボットマラソン大会って?」
「今年から、十月の体育の日に開催されることになったんですけど、参加ロボットが少なくって困っているんです。」
「高野町の主催なの?」
「はい。」
「それは面白いけど、本人というか、本ロボット次第だね。」
「では、是非伝えておいて頂けませんでしょうか?」
「ああ、いいよ。伝えておくよ。」
男は印刷物を龍次に手渡した。「よろしくおねがいします!」
「ああ、言っとくよ。」
男は頭を下げ「ありがとうございます!」と礼を言って、来た道を去って行った。
龍次は印刷物を見た。再び歩き出した。
「龍神スカイライン二足ロボットマラソン大会…」
隣の鶴丸隼人も見ていた。
「面白そうですねえ。」
「そうだね。でも、紋次郎くん次第だね。」
「そうですね。」
「彼は、ちょっと気難しいところがあるからねえ。」
「ロボットらしくないんですよ。ときどき長い爪楊枝(つまようじ)なんか咥えて、映画の木枯し紋次郎になっちゃうし。言葉も時代劇になっちゃうし。」
前から、軽トラックがやって来た。われわれを避けようとして、反対側の土手に乗り上げた。
みんなは、びっくりした。アキラが軽トラックに駆け寄った。
「どうしたの、どうしたの!?」
軽トラックには、男の老人が乗ってハンドルを握っていた。
「ブレーキとアクセルを間違えちゃった!」
「あっぶねえな〜〜〜!」
軽トラックは、バックすると、何事もなかったかのようにして再び走り出した。
「だいじょうぶかよ〜〜〜、あのオジサン!?」
龍次も心配そうに、軽トラックを見ていた。
「アクセルとブレーキが近くに並んでいるから間違えるんですよ。」
「そういう問題?」
「二つあるから間違えるんですよ。どっちか一つにすればいいんですよ。」
「もう一つは?」
「手操作にするとか、膝操作にするとか…」
「手にはハンドルがあるじゃん。」
「そこんとこをなんとか。」
「なんとかったって…」
「以前、ブレーキに音をつけようかと考えたんですけどね、踏んだ後になっちゃうでしょう。」
「ブレーキに音?」
「ブレーキとアクセルを踏んだときの音を変えるんですよ。」
「なるほどねえ。」
「踏んでから分かってもねえ〜。踏む前に分からないと。」
「そうだよな〜〜。」
「テレビでは、間違えよりも、条件反射で踏んでしまうと言ってましたよ。」
「考えなくって踏んじゃうんだ。」
「足で二つを操作するってところに、問題がありますね。構造的な問題ですね。」
「工場みたいに、道路に白線を描いて自動運転にしたらいいんだよ。」
「それもいい考えですね。」
二人は余計なことで頭を悩ましていた。雨は、まだ降っていた。カラスが人間を馬鹿にするように、雨の中を悠々と飛んでいた。『アホーアホー!』と鳴きながら。
「アホーアホーだって、カラスに馬鹿にされた!」
「カラスは頭がいいんですよ。人間の顔をちゃんと覚えているんですよ。だから、うかつに攻撃したら、復習されます。」
「おっかね〜。」
「もし、カラスの羽が退化して、手ができたら頭のいい恐ろしい動物になりますよ。」
「カラスに手!そんな馬鹿な!」
「どこかの星にいるかも知れませんよ。例えば、アンドロメダの見知らぬ惑星とか。」
「気持ちの悪いこと言わないでよ〜!」
隼人は、にたにたと笑っていた。



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 31446