アキラは、高野山警察の建物を見ながら歩いていた。 「なんか、お寺みたいな警察署だな〜。」 隣に歩いているのは、龍次だった。 「きっと、町の景観に合わせているんですよ。」 「な〜るほどね。」 「ここの警察は、俺たちを逮捕しないんだね?」 「大丈夫です。ここは、独立行政区ですから。」 「さ〜すが、高野山だ!」 「ここは、昔から僧兵によって武装されていましたからね。天下の信長も近寄れなかった場所です。」 「へ〜〜え、大したもんだ!」 警察署の隣には、高野山超能力研究所という三階建ての建物があった。これも、お寺みたいな建物だった。 「高野山超能力研究所?」 「超能力の研究をしてるところです。」 「それは、見れば分かるけど〜、どうして高野山にあるわけ?」 「高野山の密教は、超能力なんですよ。」 「え〜〜、そうなの!?」 「はい。だから、密教って言うんです。」 「それは、見てみたいなあ〜。」 「ここにいれば、そのうちに色んな秘術が見れますよ。」 「そういえば、この前、マイケル・ジャクソンのような坊さんが出てきて、暴走族の兄ちゃんを身動きできなくしてたな〜、びっくりしちゃったよ。」 「それは、気合い金縛りの術です。」 「気合い金縛りの術?」 「彼は、マイケル聖(ひじり)と言います。聞くところによると、彼は秘術の達人です。」 「いや〜〜、あれは凄かったよ〜。」 「そのくらいのことは、鶴丸くんでも出来るんじゃないかな?」 「えっ、できるの!?」 「彼は、風魔忍術の先生の息子で、風魔忍術の達人ですから。」 「え〜〜〜、うっそ〜!?」 「ほんとうです。」 「…そう言えば!」 「えっ?」 「兄貴が、普通の身動きじゃないって言ってた。」 「そうですか、さすがですね。」 後ろから大きな声が聞こえた。 「龍次さ〜〜〜ん!」 二人は、立ち止まって振り向いた。前を歩いていたショーケンも、立ち止まって振り向いた。鶴丸隼人だった。傘を差しながらも、忍者のように、すり足で走ってきた。 「噂をすれば、ですね…」 隼人は、息も弾ませずに言った。 「この先です。わたしたちが、変な女に出くわしたのは。」 「あ〜〜、土曜日の話しね。」 「そうです。」 「この先って?」 「病院の脇の小道です。」 「ああ、そう。変な術を使ったって言ってたねえ。忍術の達人の君がかかってしまうほどの術とは、いったいどういう術だったんだい?」 「なにしろ初体験だったもので、紅流・踊り睡拳という術です。」 「紅流・踊り睡拳!?」 「知ってるんですか?」 「踊り睡拳は知らないが、紅流なら知ってる。」 「え〜〜、紅流を知ってるんですか?」 「ああ、知ってるよ。昔、知り合いの女性が、紅流の達人だったから。」 「紅流を使える者は、そんなにはいません。名は何と?」 「葛城今日子。」 「葛城、今日子!?」 「どうしたの?」 「もしや、父の親友の、紅流の達人の葛城慎之介の娘ではないかと?歳は?」 「もう、二十四、五かなあ〜。」 「やっぱり、葛城慎之介の娘だ!」 「詳しくは彼女のことは知らないけど、そうかも知れないね。」 「そうです!絶対にそうです!」 「それじゃあ、彼女は今、高野山にいるんですね!」 「やっぱり、あれが、父が言ってた、紅流・踊り睡拳だったのか…凄い!」 鶴丸隼人は、なぜか涙を浮かべ感激していた。隼人は、天に向かって叫んでいた。 「父上!何ということでしょう!こんな出会いがあるんでしょうか!」 龍次もアキラもショーケンも、何事が起きたかとびっくりしていた。アキラが隼人に尋ねた。 「いったい、どったの?」 鶴丸隼人は、傘も差さずに上を向いて、しくしくと泣いていた。涙が、雨と一緒になって地面に落ちていた。その涙と雨に、一匹の小さな蟻が流されていた。 「凄い!」 「何が凄いの?」 「あれが、紅流・踊り睡拳…」 「どったの?」 突然、鶴丸隼人は涙を堪えながら歌いだした。紅三四郎の歌を!
赤い太陽〜 それより赤い〜 ♪ 胸に正義の〜 血潮が踊る〜 ♪ 天下無敵の〜 十字の構え〜 三日月返しや 流星投げに〜 父の血をつぐ 熱血男児〜 ♪ 沈む夕陽の〜 その果てまでも〜 ひびくその名は 僕らの 紅三四郎〜 ♪
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