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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第154回   紅流の達人
アキラは、高野山警察の建物を見ながら歩いていた。
「なんか、お寺みたいな警察署だな〜。」
隣に歩いているのは、龍次だった。
「きっと、町の景観に合わせているんですよ。」
「な〜るほどね。」
「ここの警察は、俺たちを逮捕しないんだね?」
「大丈夫です。ここは、独立行政区ですから。」
「さ〜すが、高野山だ!」
「ここは、昔から僧兵によって武装されていましたからね。天下の信長も近寄れなかった場所です。」
「へ〜〜え、大したもんだ!」
警察署の隣には、高野山超能力研究所という三階建ての建物があった。これも、お寺みたいな建物だった。
「高野山超能力研究所?」
「超能力の研究をしてるところです。」
「それは、見れば分かるけど〜、どうして高野山にあるわけ?」
「高野山の密教は、超能力なんですよ。」
「え〜〜、そうなの!?」
「はい。だから、密教って言うんです。」
「それは、見てみたいなあ〜。」
「ここにいれば、そのうちに色んな秘術が見れますよ。」
「そういえば、この前、マイケル・ジャクソンのような坊さんが出てきて、暴走族の兄ちゃんを身動きできなくしてたな〜、びっくりしちゃったよ。」
「それは、気合い金縛りの術です。」
「気合い金縛りの術?」
「彼は、マイケル聖(ひじり)と言います。聞くところによると、彼は秘術の達人です。」
「いや〜〜、あれは凄かったよ〜。」
「そのくらいのことは、鶴丸くんでも出来るんじゃないかな?」
「えっ、できるの!?」
「彼は、風魔忍術の先生の息子で、風魔忍術の達人ですから。」
「え〜〜〜、うっそ〜!?」
「ほんとうです。」
「…そう言えば!」
「えっ?」
「兄貴が、普通の身動きじゃないって言ってた。」
「そうですか、さすがですね。」
後ろから大きな声が聞こえた。
「龍次さ〜〜〜ん!」
二人は、立ち止まって振り向いた。前を歩いていたショーケンも、立ち止まって振り向いた。鶴丸隼人だった。傘を差しながらも、忍者のように、すり足で走ってきた。
「噂をすれば、ですね…」
隼人は、息も弾ませずに言った。
「この先です。わたしたちが、変な女に出くわしたのは。」
「あ〜〜、土曜日の話しね。」
「そうです。」
「この先って?」
「病院の脇の小道です。」
「ああ、そう。変な術を使ったって言ってたねえ。忍術の達人の君がかかってしまうほどの術とは、いったいどういう術だったんだい?」
「なにしろ初体験だったもので、紅流・踊り睡拳という術です。」
「紅流・踊り睡拳!?」
「知ってるんですか?」
「踊り睡拳は知らないが、紅流なら知ってる。」
「え〜〜、紅流を知ってるんですか?」
「ああ、知ってるよ。昔、知り合いの女性が、紅流の達人だったから。」
「紅流を使える者は、そんなにはいません。名は何と?」
「葛城今日子。」
「葛城、今日子!?」
「どうしたの?」
「もしや、父の親友の、紅流の達人の葛城慎之介の娘ではないかと?歳は?」
「もう、二十四、五かなあ〜。」
「やっぱり、葛城慎之介の娘だ!」
「詳しくは彼女のことは知らないけど、そうかも知れないね。」
「そうです!絶対にそうです!」
「それじゃあ、彼女は今、高野山にいるんですね!」
「やっぱり、あれが、父が言ってた、紅流・踊り睡拳だったのか…凄い!」
鶴丸隼人は、なぜか涙を浮かべ感激していた。隼人は、天に向かって叫んでいた。
「父上!何ということでしょう!こんな出会いがあるんでしょうか!」
龍次もアキラもショーケンも、何事が起きたかとびっくりしていた。アキラが隼人に尋ねた。
「いったい、どったの?」
鶴丸隼人は、傘も差さずに上を向いて、しくしくと泣いていた。涙が、雨と一緒になって地面に落ちていた。その涙と雨に、一匹の小さな蟻が流されていた。
「凄い!」
「何が凄いの?」
「あれが、紅流・踊り睡拳…」
「どったの?」
突然、鶴丸隼人は涙を堪えながら歌いだした。紅三四郎の歌を!

 赤い太陽〜 それより赤い〜 ♪ 胸に正義の〜 血潮が踊る〜 ♪
 天下無敵の〜 十字の構え〜 三日月返しや 流星投げに〜 父の血をつぐ 熱血男児〜 ♪
 沈む夕陽の〜 その果てまでも〜 ひびくその名は 僕らの 紅三四郎〜 ♪


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